ホロコーストに題材を取った2015年制作(監督:アダム・エゴヤン カナダ=ドイツ)の映画で、主人公は記憶が薄れかけているアウシュヴィッツ生存者の老人(90歳)・・・という程度の予備知識で私は観たのですが、もう少しネット上の広告文から引用すると
「最愛の妻ルースが死んだ。だが、90歳のゼヴはそれすら覚えていられない程、もの忘れがひどくなった。ある日、彼は友人のマックスから1通の手紙を託される。『覚えているか?ルース亡きあとに決行すると誓ったことを。君が忘れても大丈夫なように、全てを手紙に書いた。その約束を果たしてほしい―』 2人はアウシュヴィッツ収容所の生存者で、70年前に大切な家族をナチスの兵士に殺されていた。そしてその兵士は身分を偽り、今も生きているという。犯人の名は“ルディ・コランダー”。容疑者は4名まで絞り込まれていた。体が不自由なマックスに代わり、ゼヴはたった1人での復讐を決意し、託された手紙と、かすかな記憶だけを頼りに旅立つ。だが、彼を待ち受けていたのは・・・・・」
「ホロコースト」が絡む物語・・・という時点で私は緊張して観始めたのですが、それ以上に「サスペンス」として、とてもよく出来た上質の娯楽映画(と言っていいのかどうかわかりませんが)に仕上がっていて、本当に驚きました。
何より脚本が練りに練られていて、しかも95分という凝縮のされ方。「あれ?ちょっと・・・」という些細な疑問はほとんどすべて「伏線」だったことが、観終えた後になって判ってくる・・・。主人公の老ユダヤ人を演じたクリストファー・プラマー以下、キャストの名演にも圧倒される思いでした。
内容について感じたことを言い始めたら、長々と書いてしまいそう。でもこの映画は、出来れば「全く予備知識なし」のまっさらな状態で観るのをお勧めしたいのです。
物語の舞台を現代だけに絞っていて、「過去」を振り返るような映像は全くないというだけでも、「ホロコースト」をテーマにする映画としては、ちょっと珍しいかもしれません。
けれど、ただ「記憶のアヤシクなりつつある」それも「ひと眠りすると眠る前のことはすべて忘れてしまう」ような高齢の男性が、入居していた施設を抜け出して、約束を果たすために「復讐者」として旅をする・・・というシンプルな筋立てだけで、「ホロコースト」が当時はもちろん、その後の人々にまで何をもたらすのかを、この映画は観る者に教えてくれます。
「ほんとにここまで、人は記憶をなくしたり、作り変えたりできるものなのかなあ・・・」と思う方もおられるかもしれませんが、それも含めて、私にとっては「人の記憶」「歳月」「老い」というものに思いをはせる機会にもなった映画でした。
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