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眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

バザーリアという名前 ・・・・・ 『ふたつめの影』

2013-05-01 18:39:18 | 映画・本

長くなった「ひとこと感想」その4。

 その昔、知人の医師から「イタリアは精神病院への"入院"は、もう違法で出来なくなってるよ。随分前からだけど、現実にはどんな風に回ってるのか・・・」と聞いたとき、私は心底驚いた。アメリカで似たようなこと?をやった際、帰る場所のない患者さんたちは路上生活をするしかなかった・・・などと聞いていたのに、イタリアではそれがなんとか軌道に乗って、現在も継続されているかのように聞こえたからだ。イタリアでそんな改革が起きるきっかけになったのがバザーリアという名前の医師だと知って、彼が一体どんなやり方でそれを実現したのか、いつか見る機会があるかなあ・・・などとアタマのどこかで思っていたけれど、この映画でその一端を垣間見ることができて、本当に嬉しかった。

映画はバザーリアの死後20周年を機に制作されたとのことで、生前から親交のあった作り手が原案・監督・脚本・撮影・編集を担当し、約200名の元入院患者さんたちが出演している。ドキュメンタリーのような気がしてくるフィクションというか・・・そのさじ加減が独特で、ある種詩的なところもあって、不思議な雰囲気の作品だった。

個人的に、いいな・・・と思ったのは、病院側の(医者以外の)現場の末端で働く人々を悪く描いていないように見えたこと。広い風景の中では、患者さんと見分けがつかない?ような感じ・・・というか。もう一つは、イタリアの公立病院の敷地の広さ!! これくらい広くて自然に囲まれた雰囲気があれば、(維持にお金はかかるだろうけど)大抵のことは出来そうな気がしてくる。以前観たオーストラリア映画でも思ったけれど、「広い」ということは、ただそれだけでも人の自由を保障しやすくするような気が私はするのだと思う。


私はごく若い頃から、「自分はこの現実の社会でどうしてもやっていけなくなったら、どこかへ避難せざるを得なくなるだろう。でも今の日本に、自分が"避難"できるような場所(病院?)がホントにあるんだろうか・・・」などと思うことが多かった。入院患者さんの扱われ方の非道さを見聞きするたびに、どうしてコンナコトが許されたままになっているのだろう・・・と、本当に胸が痛んだ。私にとってはリアルな現実で、それはそのまま自分と地続きのことだったのだ。


実際には、日本では閉鎖病棟を開放化するのでさえ、もの凄く大変なことだったらしい。(緊急の場合のごく一時的な入院を除き)「入院は違法」・・・というのは、日本では今でもほとんどあり得ないような事態だ。

それでも・・・「本気で望めば、道は開ける」というのを実践する人たちがいるということ。

現実は映画のように単純じゃなくて、バザーリアもあちこちから批判の対象になっただろうと思うけれど、それでも私は映画を観ながら、素朴に感動した。病気故に、投薬故に、「頑張れない」人たちの一生懸命な姿が、私には眩しかった。


タイトルは映画の中で、ある患者さんが口にした言葉(台詞?)から来ている。

 「医師も看護師も、治療だと言ってわしを虐待していた・・・。わしは自分の2つめの影に逃げ込んだんだ。すると何も感じなくなった。」

「2つめの影」 を呼ばせてはいけない・・・より良い医療を提供したいと望むお医者さんたち何人もから、同じ内容の言葉を聞いたと思う。かつて精神障碍者と呼ばれた人たちに対して持たれたイメージのかなりの部分を、「2つめの影」が担っていたんじゃないか・・・と、ド素人の私でさえいつしか思うようになった。
 

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