鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』―日本はアメリカの「保護国」?―
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(1)―日本はアメリカの「保護国」?―
今回は、鳩山由紀夫著『脱 大日本主義―「成熟時代」の国のかたち』(2017年6月 平凡社新書 846、221+15ページ)
を紹介しつつ、これからの日本がどのような国家像を描くべきかを考えます。
本書は、新書という形をとってはいますが、記述は非常に緻密で論理的にも現実的にも説得力があり、内容の濃い一書となっています。
このため、要点を整理・紹介するだけでも多くの文章を必要とします。
さて、鳩山由紀夫氏(以下、たんに「鳩山」と略記する)は1947年2月11日 東京生まれ。今年満70才。祖父鳩山一郎は首相にもな
った政治家、父の威一朗は大蔵官僚から参議院議員となった政治家、母安子は、(株)ブリジストンの創業者石橋正二の娘という、名実
ともにエリート家系出身です。
由紀夫自身は、政治家を目指す人たちが法学部や経済学部ではなく、東京大学の理工学部出身でスタンフォード大学に留学し工学博士号
を取得しています。
政治家としての経歴は、1986年に初めて自民党から立候補(父の地盤の北海道)し当選。1993年には新党さきがけに加わるも、1996年に
離党し民主党を立ち上げました。
2009年の総選挙で民主党が圧勝し内閣総理大臣となりましたが、翌2010年に辞任。2012年には政界を引退しました。
2013年、財団法人東アジア共同体研究所を設立し、理事長に就任し、2016年にはアジアインフラ投資銀行(AIID)国際諮問委員会委員に
就任しました。
由紀夫という人物は、近年の日本の政治家の中でも、他に類をみないユニークな存在でした。私人となった今日でも、時として周囲の人
からみると、唐突で常識を超えた言動をして周囲を驚かせ、「宇宙人」と呼ばれることもあります。
日本政府がアメリカに気を使って参加を見合わせているAIIDの諮問委員になったり、政府の中止要請を振り切ってロシアン併合されたク
リミアを訪問するなど、「宇宙人」の面目躍如です。
さて、今回、を取り上げたのは、ますます混迷する日本の政治経済状況にたいして、私たちはどんな国家像を描いたら良いかを考える上
で、本書は非常に示唆に富む指摘と提言をしており、私自身も多くの点で同感できたからです。
本書の全体をとおして鳩山氏が言いたかったことは、「大日本主義」(大国主義)を捨てて、リージョナリズムを基盤とした「中日本主
義」を貫くべきだ、という提言です。
言い換えるとそれは、「脱 大日本主義」「中規模国家」「成熟国家」への転換のススメです。
ここで「リージョナリズム」(文字通りの意味は「地域主義」)とは、具体的には東アジア(日本、中国、韓国、台湾、ASEAN)という
地域をベースにした地域経済統合を意味しています。
以上に示した鳩山氏の問題意識を念頭において、本の内容をもう少し具体的にみてみよう。
第一章のタイトルは「大日本主義の幻想―グローバリズムと日本政治―」です。その冒頭で由紀夫は、自らの政治行動の羅針盤としてい
るのは、祖父一郎が政治思想として行き着いた、フランス革命のスローガン「自由、平等、友愛(博愛)」の中の友愛である、と述べて
います。
由紀夫は、冷戦後の世界と日本で起こっている政治状況を、ナショナリズムとポピュリズムの「異常」な拡張期であると認識しています。
アメリカは、市場原理主義と新自由主義を普遍的経済原則として世界に広げようという政治経済的潮流、つまり「グローバリズム」を推
し進めてきた。
それは結果として、国民国家を基盤とする諸国の国民経済的伝統を破壊し、社会的格差を著しく増大させた。
アメリカにおいては貧富の格差が拡大し貧困が広まり、中間層の解体をもたらし、「1%の富裕層と99%の貧困層」との分裂を生じさせ、
国家の政治的統合を危険にさらしました。
この社会的分断は、一方でサンダースのように平等や社会主義的政策を支持する動きを増大させ、他方で、こうした状況で統合をもたらす
手段として、過激なナショナリズムに支配されたポピュリズムが時代の前面にでてきました。いうまでもなく、トランプ氏のような政界の
異端児を大統領にまで押し上げたのです。
日本でも預貯金や株などの資産を持っていない世帯の割合は、かつては数パーセントに過ぎませんでしたが、現在は30%を超えています。
こうして、日本も、欧米と同じようにグローバリズムを温床とするナショナリズムに異常拡張期でも同様の現象が起こりました。
鳩山氏は、グローバリズムへの対抗理念として「友愛」を掲げます。これは言い換えれば「自立と共生」の思想だという。
しかし、現在の日本に「自立と共生」が失われている。
それは、一方でアメリカ発のグローバリズムを積極的に取り入れ、他方で覇権国家であるアメリカと軍事・外交面での協力を強化し、その
力を借りて日本の影響力を増大させ、日本を大国にしようとしている。これこそ、鳩山氏が「大日本主義」と呼ぶ現代日本の保守勢力、特
に安倍政権の姿勢です。
ただ、アメリカの民主党政権のブレーンを務めたブレジンスキーは自著で日本を「保護国」(プロテクトレイト)と呼んで憚りません(30
ページ)。
日本が「協力」と呼ぶ対米関係をアメリカ側は「従属」とみていることがわかります。この認識は、現状をみると、彼だけの個人的な見解
とは思えません。
「保護国」とは国際政治においては「従属国」または「半植民地」に近い位置づけです。
「協力」の具体的な姿は日米安保条約ですが、これは仮想敵国に対応するための軍事同盟ですが、その仮想敵国は、盟主であるアメリカに
よって、その時々に決められます。
鳩山は、「どこの国を敵とするかを自分で決められない国は独陸国家ではなく従属国家、保護国ということになります」と規定しています。
民主党が勝利した総選挙に際し鳩山内閣ができるのですが、その時掲げた公約は「自立した外交で世界に貢献する」「緊密で対等な日米関
係を築く」「東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」でした。
これは親米派の政治家や官僚、とりわけアメリカは、鳩山内閣は反米的政権とみて露骨に妨害してきた、と書いています。
そして、鳩山自身の言葉を借りると、「独立国家とは思えないような官僚たちの対米位負けの習性」により鳩山内閣の倒閣運動が始まり、
さまざまな手段を使って鳩山首相を自任に追い込んでいったと述べています。
その結果、親米保守路線の行き着く先は、日本の国家としての自立の喪失ということです」という(36ページ)、実に陰鬱な結論です。
ただ、アメリカの中国封じ込め政策に加担した日本は、2度、挫折を味あわされています。一つは、TPPという経済連携を装ったシステムが、
ほかならぬアメリカのトランプ大統領によって破棄されたことです。
二つは、TPPに対抗して中国が主導して立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に、アメリカは当然不参加で日本もアメリカに追随して
不参加を決めていますが、まさか賛成するとは思わなかった、アメリカを除く他のG8のメンバー国が続々と参加をしていったことです。
続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。二章以降については次回から紹介してゆきます。
https://blog.goo.ne.jp/xbigtreex/e/275a435aa95f18c194310ef12e50d562
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(1)―日本はアメリカの「保護国」?―
今回は、鳩山由紀夫著『脱 大日本主義―「成熟時代」の国のかたち』(2017年6月 平凡社新書 846、221+15ページ)
を紹介しつつ、これからの日本がどのような国家像を描くべきかを考えます。
本書は、新書という形をとってはいますが、記述は非常に緻密で論理的にも現実的にも説得力があり、内容の濃い一書となっています。
このため、要点を整理・紹介するだけでも多くの文章を必要とします。
さて、鳩山由紀夫氏(以下、たんに「鳩山」と略記する)は1947年2月11日 東京生まれ。今年満70才。祖父鳩山一郎は首相にもな
った政治家、父の威一朗は大蔵官僚から参議院議員となった政治家、母安子は、(株)ブリジストンの創業者石橋正二の娘という、名実
ともにエリート家系出身です。
由紀夫自身は、政治家を目指す人たちが法学部や経済学部ではなく、東京大学の理工学部出身でスタンフォード大学に留学し工学博士号
を取得しています。
政治家としての経歴は、1986年に初めて自民党から立候補(父の地盤の北海道)し当選。1993年には新党さきがけに加わるも、1996年に
離党し民主党を立ち上げました。
2009年の総選挙で民主党が圧勝し内閣総理大臣となりましたが、翌2010年に辞任。2012年には政界を引退しました。
2013年、財団法人東アジア共同体研究所を設立し、理事長に就任し、2016年にはアジアインフラ投資銀行(AIID)国際諮問委員会委員に
就任しました。
由紀夫という人物は、近年の日本の政治家の中でも、他に類をみないユニークな存在でした。私人となった今日でも、時として周囲の人
からみると、唐突で常識を超えた言動をして周囲を驚かせ、「宇宙人」と呼ばれることもあります。
日本政府がアメリカに気を使って参加を見合わせているAIIDの諮問委員になったり、政府の中止要請を振り切ってロシアン併合されたク
リミアを訪問するなど、「宇宙人」の面目躍如です。
さて、今回、を取り上げたのは、ますます混迷する日本の政治経済状況にたいして、私たちはどんな国家像を描いたら良いかを考える上
で、本書は非常に示唆に富む指摘と提言をしており、私自身も多くの点で同感できたからです。
本書の全体をとおして鳩山氏が言いたかったことは、「大日本主義」(大国主義)を捨てて、リージョナリズムを基盤とした「中日本主
義」を貫くべきだ、という提言です。
言い換えるとそれは、「脱 大日本主義」「中規模国家」「成熟国家」への転換のススメです。
ここで「リージョナリズム」(文字通りの意味は「地域主義」)とは、具体的には東アジア(日本、中国、韓国、台湾、ASEAN)という
地域をベースにした地域経済統合を意味しています。
以上に示した鳩山氏の問題意識を念頭において、本の内容をもう少し具体的にみてみよう。
第一章のタイトルは「大日本主義の幻想―グローバリズムと日本政治―」です。その冒頭で由紀夫は、自らの政治行動の羅針盤としてい
るのは、祖父一郎が政治思想として行き着いた、フランス革命のスローガン「自由、平等、友愛(博愛)」の中の友愛である、と述べて
います。
由紀夫は、冷戦後の世界と日本で起こっている政治状況を、ナショナリズムとポピュリズムの「異常」な拡張期であると認識しています。
アメリカは、市場原理主義と新自由主義を普遍的経済原則として世界に広げようという政治経済的潮流、つまり「グローバリズム」を推
し進めてきた。
それは結果として、国民国家を基盤とする諸国の国民経済的伝統を破壊し、社会的格差を著しく増大させた。
アメリカにおいては貧富の格差が拡大し貧困が広まり、中間層の解体をもたらし、「1%の富裕層と99%の貧困層」との分裂を生じさせ、
国家の政治的統合を危険にさらしました。
この社会的分断は、一方でサンダースのように平等や社会主義的政策を支持する動きを増大させ、他方で、こうした状況で統合をもたらす
手段として、過激なナショナリズムに支配されたポピュリズムが時代の前面にでてきました。いうまでもなく、トランプ氏のような政界の
異端児を大統領にまで押し上げたのです。
日本でも預貯金や株などの資産を持っていない世帯の割合は、かつては数パーセントに過ぎませんでしたが、現在は30%を超えています。
こうして、日本も、欧米と同じようにグローバリズムを温床とするナショナリズムに異常拡張期でも同様の現象が起こりました。
鳩山氏は、グローバリズムへの対抗理念として「友愛」を掲げます。これは言い換えれば「自立と共生」の思想だという。
しかし、現在の日本に「自立と共生」が失われている。
それは、一方でアメリカ発のグローバリズムを積極的に取り入れ、他方で覇権国家であるアメリカと軍事・外交面での協力を強化し、その
力を借りて日本の影響力を増大させ、日本を大国にしようとしている。これこそ、鳩山氏が「大日本主義」と呼ぶ現代日本の保守勢力、特
に安倍政権の姿勢です。
ただ、アメリカの民主党政権のブレーンを務めたブレジンスキーは自著で日本を「保護国」(プロテクトレイト)と呼んで憚りません(30
ページ)。
日本が「協力」と呼ぶ対米関係をアメリカ側は「従属」とみていることがわかります。この認識は、現状をみると、彼だけの個人的な見解
とは思えません。
「保護国」とは国際政治においては「従属国」または「半植民地」に近い位置づけです。
「協力」の具体的な姿は日米安保条約ですが、これは仮想敵国に対応するための軍事同盟ですが、その仮想敵国は、盟主であるアメリカに
よって、その時々に決められます。
鳩山は、「どこの国を敵とするかを自分で決められない国は独陸国家ではなく従属国家、保護国ということになります」と規定しています。
民主党が勝利した総選挙に際し鳩山内閣ができるのですが、その時掲げた公約は「自立した外交で世界に貢献する」「緊密で対等な日米関
係を築く」「東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」でした。
これは親米派の政治家や官僚、とりわけアメリカは、鳩山内閣は反米的政権とみて露骨に妨害してきた、と書いています。
そして、鳩山自身の言葉を借りると、「独立国家とは思えないような官僚たちの対米位負けの習性」により鳩山内閣の倒閣運動が始まり、
さまざまな手段を使って鳩山首相を自任に追い込んでいったと述べています。
その結果、親米保守路線の行き着く先は、日本の国家としての自立の喪失ということです」という(36ページ)、実に陰鬱な結論です。
ただ、アメリカの中国封じ込め政策に加担した日本は、2度、挫折を味あわされています。一つは、TPPという経済連携を装ったシステムが、
ほかならぬアメリカのトランプ大統領によって破棄されたことです。
二つは、TPPに対抗して中国が主導して立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に、アメリカは当然不参加で日本もアメリカに追随して
不参加を決めていますが、まさか賛成するとは思わなかった、アメリカを除く他のG8のメンバー国が続々と参加をしていったことです。
続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。二章以降については次回から紹介してゆきます。
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