
写真館は夏場はとても暇で
僕が集配にまわっていたお店も
店主が「ないよ。」と言うように
背中を向けたまま手を上げる
その仕草がどこかおかしくて
僕は好きだった
☆****☆
ある日のこと、お店にうかがうと
「このビンの栓を開けられないか...」と
知り合いから貰ったという
オールドパー玉おちと
プライヤーを僕に手渡した
「これでやるんですか..」
「飲めりゃ良いんだよ。」
手で回しても開かないフタを
思い切ってプライヤーでもぎ取った
店主は嬉しそうに、
奥からウイスキーの小瓶を持ってくると
オールドパーをつめてくれた
「お礼だ。」
「すみません。」
その夜飲んだ高級ウイスキーの味は
心の奥まで染み渡った
☆****☆
ある日、店主が
夕方の散歩に出たまま帰らなくなった
消防団が100人体制で捜索をして
県警のヘリまで飛んだが見つからなかった
それからずいぶんたって
おやっさんは側溝の草むらで見つかった
お葬式に行った僕は
あの日のおやっさんの
背中を向けたまま手をあげた
あの仕草を思い出して涙か止まらなくなった
