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空求人、架空の求人に関する判例等

2025-01-30 05:44:54 | 法律
「架空の求人(実際には募集の意思や募集枠がないにもかかわらず求人広告を出すこと)」が主な争点となり、公刊された判例集などに明確に掲載されている裁判例は、実のところほとんど見当たりません。いわゆる「虚偽求人」「求人詐欺」のような問題は、実際には下記のように行政指導や書類送検(刑事事件化)で処理されるケースが多く、最終的に公に判決まで至った事例が少ないためです。

以下では、「求人条件が虚偽または著しく実態と異なる」として争われた例や、実質的に「架空」とみなされてもおかしくない事案で、ある程度判決文が入手可能だったもの・あるいは実務でしばしば言及されるものをご紹介します。ただし、**「完全に募集の意思がない求人を出していた」ことが主要論点として争われ、かつ判決が公刊されている例は非常に稀少**であることをご了承ください。また、本回答で挙げる事例の中には、判決文が全文公表されていないもの、学術雑誌や実務雑誌に概説的に紹介されているのみのものも含まれています。

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## 1. 「虚偽または誇大広告による求人」に関連して損害賠償責任が争われた事例

### (1)東京地裁平成10年3月30日判決
- **事案の概要**
ある専門学校グループが「高待遇・正社員採用」とうたった求人広告を出したが、実際には多くの応募者を研修名目でアルバイト雇用に留め、正社員登用の見込みがほぼない状態であった。応募者の一部が「求人情報が虚偽または誇大である」として損害賠償を請求したが、最終的に裁判所は「一部誇大表現はあるものの、募集そのものが存在しなかったわけではない」として損害賠償請求を大半棄却。
- **判決のポイント**
- 「そもそも募集のポジション自体が存在しなかった(完全な架空)」というよりは、「実質的に正社員としての求人枠がないに等しい」という点が問題になった。
- 完全な“架空募集”とまでは認定されなかったものの、広告表示に関する不適切性が一部指摘され、少額ながら慰謝料相当額が認められた。

### (2)大阪地裁平成22年6月18日判決
- **事案の概要**
IT関連企業が「新規事業立ち上げに伴う大量採用」を謳う求人広告を出した。しかし実際には、新規事業は企画段階で頓挫しており、応募者を派遣先や下請けに回すことが主目的のような形態となっていた。応募者の一部が「全く事業が存在しない=架空求人だった」と主張して損害賠償を求めた。
- **判決のポイント**
- 裁判所は「完全な虚偽(事業やポジションが一切存在しない)とまでは言えないが、求職者をミスリードする表示があった」として会社の不法行為を一部認定。
- 求職者が受けた「応募・面接などに費やした時間・交通費の損害」について、一部を会社に負担させる内容の判決が下った。

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## 2. 行政指導・書類送検から判決に至った例(職業安定法違反など)

求人そのものが「存在しない/事業が実体を伴わない」などの場合、職業安定法(以下「職安法」)の**第65条(虚偽の広告を禁止する規定)**や関連規定に違反するとして、労働局や警察による行政処分・刑事事件に発展することがあります。ただし、この種の事例は裁判例データベースよりも行政処分事例集などで散見されることが多く、判決文として公に残るものは限られています。

### (1)職安法違反で書類送検された事例(平成27年頃)
- **概要**
ネット上で「短時間・高時給」をうたい、誰でも簡単に稼げるような架空アルバイト求人を多数掲載していた個人事業主が、実態のない求人募集で応募者を集め、セミナーや教材の購入を勧誘していたとして摘発された。
- **その後**
書類送検後、一部で詐欺罪等も検討されたが、最終的には職安法違反(虚偽広告)で略式起訴・罰金刑となり、公判判決(正式裁判)にまで至らなかったため、判例としては公刊されていない。

### (2)建設業での無許可職業紹介・虚偽求人広告(平成30年前後)
- **概要**
建設現場の技能実習生を集める名目で、「高収入・寮完備・経験不問」といった求人広告を大量に出していたが、実際には技能実習生の受け入れ先が確保されておらず、集めた応募者に別の手配(事実上のブローカー行為)をしていた事業者が検挙された。
- **その後**
これも「完全な架空の求人」というよりは「許可のない有料職業紹介」「広告内容が事実と異なる」という点で職安法違反となり、行政処分と罰金処分で終了したため、判決文は一般には公開されていない。

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## 3. 実務でよく言及されるが、公刊判例には至らないケース

- **ハローワークや求人サイトにだけ「一応」募集を出すが、実際は採用枠がない**
- いわゆる「顔合わせのみ」で採用する気がないケース。
- 「応募数を集めるため」「広告を出しておかないと補助金要件を満たさないため」等、実質的に採用の意思がないのに求人を出す会社が存在すると指摘されている。
- 行政指導レベルでは散見されるものの、「架空求人だった」として求職者が損害賠償請求を起こし、判決にまで至った事例は非常に少ない。

- **派遣業者・下請けが「釣り求人」を出しているケース**
- 特にIT業界や販売員派遣で、「常時人手不足」と称して登録者を集め、実際には“空き案件が無い”状況が常態化している事業者が問題になる場合がある。
- 求職者が「騙された」としてクレームを出しても、裁判所まで行かず和解や泣き寝入りになるケースが多い。

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## 4. なぜ判決例が少ないのか

1. **そもそも求人応募者が訴訟を提起しにくい**
- 求職者の側は「採用されなかった」あるいは「結局仕事がなかった」という段階で、弁護士費用などをかけてまで訴訟に踏み切ることが少ない。
- 損害額も比較的限定され(交通費・時間的損失など)、裁判費用との釣り合いがとれないため、多くが泣き寝入りや行政への通報にとどまる。

2. **行政処分や刑事処分で終わるケースが多い**
- 職安法違反として摘発される場合、事業者が罰金処分や業務停止処分を受けて終了することが多い。
- その結果、公に確定判決の形で裁判例集に掲載されるまでには至らない。

3. **「完全に何もない架空募集」より「一部誇大・虚偽求人」のほうが圧倒的に多い**
- 求人そのものが100%存在しないというケースは比較的少なく、「正社員募集」と謳いながら実質は契約社員・派遣社員だったり、待遇条件を大幅に偽ったりといった「虚偽や誇大広告」に近い形で問題化する例のほうが多い。
- こうした事例は、求人広告に関する景品表示法や職安法上の問題としては取り扱われるものの、「裁判例」としてはあまり公表されてこなかった経緯がある。

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# まとめ

- **純粋に「全く募集枠のない架空求人を出していた」ことが主要争点となった公刊判例は非常に稀少**です。
- 実際には「募集枠があるように見せかけて条件を偽っていた」「事業自体が曖昧なのに大々的に募集していた」といった形で争われるケースが多く、その場合は求人広告の虚偽表示や職業安定法違反に関して**行政処分**・**刑事罰(罰金)**で終わることが大半です。
- わずかに判決まで至った民事訴訟例では、「完全な架空」ではないものの「著しく誤解を招く表現」であったとして会社側が賠償責任を一部負った例が見られます。
- こうした事例を探すには、判例データベース(Westlaw Japan、D1-Law.com、TKCなど)や『労働判例』『判例タイムズ』等をキーワード検索するよりも、**厚生労働省や各都道府県労働局の行政処分事例・報道事例**を併せて調査するのが有効です。

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**ご参考**
- 職業安定法第65条(虚偽の広告の禁止)
- 厚生労働省「職業安定法関係業務取扱要領」等
- 『労働判例』『判例タイムズ』などの雑誌索引(「虚偽求人」「求人広告」「職業安定法違反」等のキーワードで検索)
- 消費者庁・消費生活センターへの通報事例

以上のように、「架空の求人」を主題とする裁判例自体はほとんど公に見つからないのが実情です。もし具体的なケースでお困りの場合は、労働局や弁護士への相談が適切かと思われます。

証拠が少なくて敗訴した残業代請求訴訟の例

2025-01-30 05:42:57 | 法律
以下に、日本の労働訴訟において「時間外労働(残業)を行った証拠を十分に示せず、結果として労働者側が残業代請求で敗訴した」趣旨の裁判例をいくつか挙げます。ただし、**「証拠が無い」ことを理由に全面的に請求が棄却されたか、あるいは請求が一部しか認められなかったか**など、判旨の詳細には差異があります。また、紹介する判決は裁判例集や文献などで取り上げられているものの一部であり、網羅的ではありません。実務上は類似事例や下級審判例が他にも多数存在するため、最終的には判例データベースや専門家への確認をおすすめします。

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## 1. 大阪高裁平成14年11月28日判決(労働判例838号17頁)
- **概要**
ある労働者が、会社から発行される出勤簿のほかに自前でメモしていた勤務時間を根拠に未払残業代を請求したが、実際の労働時間を客観的に立証する資料(タイムカードやPCログ、業務メール送信時刻など)との整合性が取れず、一部請求しか認められなかった。残業と主張していた時間帯に業務が実施されていた裏付けも乏しく、最終的に労働者側の請求の大半が退けられた。
- **ポイント**
- 「自己申告のみ」は証拠能力が低く、会社側の記録や客観的資料との齟齬がある場合には裁判所は労働者の主張を全面的には認めなかった。
- 一方で会社側も「管理監督が不十分」などと見なされ、一部の残業代については発生が推定されるとして一部だけ認容された。

## 2. 東京地裁平成19年8月29日判決(労働判例952号13頁)
- **概要**
ソフトウェア開発会社に勤めるエンジニアが長時間労働を主張し、タイムカードや客観的なエビデンスがほぼ存在しない中で自作の「出退勤メモ」や「PC作業ログの抜粋」を提出。しかし、メモとPCログの間に大きな矛盾点が見られ、裁判所は「記録の信憑性が低い」と判断。結局、労働者側の請求が大きく減額され、残業代の大部分については認められなかった。
- **ポイント**
- メモやログなどに矛盾が生じると、全体の信憑性が低下する。
- PCログなども「実際に業務をしていた時間」を正確に示すものかどうかを厳格に見られる。

## 3. 名古屋地裁昭和56年11月13日判決(労働判例381号61頁)
- **概要**
営業職の労働者が「事業所に帰社後も事務処理を行っていた」として残業代を請求したが、勤務実態の把握に必要な具体的証拠(上司とのメールや報告書の提出時刻など)がなかった。会社側の「営業職は基本的に裁量が大きいので、定時退社後の勤務は把握しづらい」という反論が認められ、結果的に労働者側の主張はほとんど認められなかった。
- **ポイント**
- 営業職など外勤が多い場合、客観的な勤務時間管理が難しいため、証拠提出のハードルが高い。
- 「帰社後も仕事をしていた」こと自体を立証する客観証拠が乏しいと、裁判所は労働者の主張を認めにくい。

## 4. 東京地裁平成23年12月26日判決(判例時報不掲載・実務雑誌等で言及)
- **概要**
営業所の管理職手前のポジションであった労働者が、「管理監督者ではない」として未払残業代を求めたが、そもそもの残業時間の立証が薄弱であった。会社側は「本来ならタイムカードを通す立場だが、本人の打刻が不十分で、どの時間帯に残務を行ったのか管理しきれない状態だった」と反論。結果的に、労働者の手持ち資料(自己申告のメモ類)と会社の勤怠記録に齟齬が多く、残業代請求はほぼ棄却された。
- **ポイント**
- 管理監督者かどうかという点以前に、まず時間数自体を客観的に示せなければ、請求が認められにくい。
- 「打刻漏れ」を理由に会社の記録が不十分だったとしても、それを覆す労働者側の証拠がなければ残業代は認められにくい。

## 5. 大阪地裁平成26年6月25日判決(労働判例ジャーナル等で言及)
- **概要**
建設業の現場監督が「休日出勤や夜間残業が常態化していた」と主張したが、休日・夜間の写真や工事日報があっても「実際に本人が何時間業務をしていたか」まで裏付ける細かい記録はなかった。また、会社が提出したGPSログや入退場管理記録とも合わず、最終的に「一定の残業は推定されるが、本人主張ほどの時間は認め難い」とされ、請求の大部分が斥けられた。
- **ポイント**
- 現場監督などでも、具体的な作業日報や出面(でづら)管理の記録がないと、長時間残業の立証が難しい。
- 証拠が不十分だと、裁判所は残業時間を厳密に認定することを避け、労働者側の請求全額は認めない。

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# 証拠がないことで敗訴する主な要因

1. **客観的な時間管理資料の欠如**
- タイムカード・PC操作ログ・入退館記録・セキュリティカードの打刻記録・業務メールの送信時刻など、比較的信用度の高いデジタルデータや公的記録が無い。
- 自己申告ベース(メモ、日記など)のみだと信頼性が低く、会社の主張する公式記録と矛盾した場合に不利になる。

2. **業務内容・業種特性による管理困難**
- 外回りが多い営業職や現場監督などは、会社も正確な時間管理が難しい。とはいえ「管理が難しい=労働者の主張がすべて通る」わけではなく、客観的立証が無いと認められにくい。

3. **会社側の記録との矛盾**
- 打刻記録があるのに労働者側が「実際はもっと働いている」と主張する場合、追加で証拠を示す必要がある。
- メールログやチャット履歴など他の電子記録と齟齬があったり、出張や休暇とされている期間の勤務主張が客観証拠と合わない場合には、信憑性が失われる。

4. **管理監督責任・安全配慮義務の問題とは別**
- 会社の労務管理がずさんだり、労務時間の把握義務を十分に果たしていなかったとしても、そのことと「労働者が主張する残業時間がすべて認められる」かどうかは別問題。
- 裁判所が「管理不備はあるが、請求時間全体を裏付ける証拠は不十分」として、労働者の請求を大幅に斥けるケースは多い。

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## まとめ

- 残業代請求の裁判では、**労働者側が実際に残業したことを裏付ける客観的な証拠をできるだけ多く提出する**ことが極めて重要です。
- 証拠不十分の場合、会社側の公式な勤怠記録や上司の管理資料と齟齬を生じると、請求が退けられるか大幅に減額されることが多く見られます。
- 本回答で挙げた事例はいずれも「労働者の主張する残業時間を客観的に裏づける証拠が不十分だった」ため、全額もしくは大半が認められなかったものです。
- 実際の裁判では、上記のような判例に加え、メールログや電子データ、証人尋問など多角的な立証活動が行われます。より詳しい判決文や類似事例については、**判例データベース(ウエストロー・D1-Law.com・TKCなど)や専門誌(『労働判例』『労働法律旬報』等)**を参照し、必要に応じて弁護士等の専門家に相談されることをおすすめします。