新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代69「衝撃の瞬間。屋根が飛ぶ」

●衝撃の瞬間。屋根が飛ぶ

 大河の信濃川河口近くの川岸に立地するアパート「水明荘」に昭和62年6月に引っ越して以来、入居判断の決定打になった窓のすぐ下から見える川の水面と向こう岸までの雄大な景色、そして街灯や対岸に並ぶ文化施設等の窓の明かりを映して幻想的でさえある夜景を、毎日独り占めするように楽しみながらの暮らしも半年となった。
 夏場は、広い川幅のために遮るものがないことから、3kmほど先の日本海からの海風が心地よく窓から流れ込み、建物の安普請ぶりも相まってさながら浜茶屋にいるかのような心地よさで、クーラーはもとより扇風機も不要なくらい快適だったのだが、秋が深まってくるとそれは冷たい風に煽られ続けるという様相になってきて、安普請はこれから到来する冬の風雪に果たして耐えられるのかという不安につながってきた。
 それでも考えてみればこのアパートも築数十年。ここ4~5年続いた豪雪にも耐えてきているわけだから大丈夫に違いない。性根が楽観的な私はそんなお気楽さでいた。実際に台風の防風をやり過ごす経験をしてしまうと、気にも留めなくなっていた。
 しかし、その日は突然にやってきた。
 昭和62年11月21日の土曜日。朝から秋雨が降り始めて午後には風が強まってきた。当時は土曜も半日勤務だったのたが、午後に残業が少しあってから帰宅すると、前日までの残業続きで少しくたびれていたことと、特に用事もなく風雨の中に外出するのも億劫だった私は、ぼうっとテレビを見ながらも時折窓から、広大な信濃川の水面に打ち付ける雨が増えていくことや風で波立ち方も強まっていく様を眺めていた。昼過ぎとはいえ空を速く流れる雲は厚く濃く低く垂れこめ、辺りは薄暗くなっていた。
 時間が経つほどに風雨は強まるばかりで、これは食材の買い物に行くのも面倒だということで、夕食はストックの缶詰とか冷蔵庫にあった野菜を炒めてビールの肴にして済ませ、連日の残業続きでくたびれてもいたので、本日は早めに店じまいとばかり、ベッドに横たわろうと決め込んだ。
 ベッドの頭の部分は川に面した壁に近接していたのだが、その壁が目で見えるくらいに膨らんでいることに驚く。なんと海から吹き付ける防風が、安普請のアパートの壁を船の帆のように膨らませては戻すを繰り返させているのだ。その弛み具合はどんどん大きくなってくる。
 これはおちおち寝ていられないのではないか。そう思った矢先、今度は部屋全体が大地震に見舞われたように大きく左右に揺れ始めた。防風とはいえここまで建物を揺らすのかと驚愕した。窓から見ると吹き付ける雨風は強まっていくばかりでピークアウトしそうにない、揺れがこれ以上強まれば柱が折れてアパートそのものが倒壊するのではという不安が恐怖へと変わっていく。
 アルミサッシの窓枠が外れるのではないかと思えるほど防風で押されての壁の弛みが大きくなり、大の男がベッドにしがみつくくらいに部屋の揺れが激しくなると、このアパートにつぶされて死ぬのではないかと本気で思えてきた。立っていられないような揺れと聞くにたえられない防風の音で気が変になりそうになってきた。
 最高潮というのは正にこのことを指すのかもしれない。わが身の終わりかと思えた大揺れの刹那、天井からグオオオーという恐竜のうめき声のような轟音が響くと、部屋の揺れがパタリと止まった。吹き付ける雨風の音が続いているにも関わらずだ。
 その直後、四方の壁の天井から壁伝いに勢いよく水が流れ込み始めた。天井を見ると板張りそのものに変化はないが、いくつかの箇所から水の雫が滴り始めていた。事の次第が私にもようやく飲み込めた。そう、屋根のトタンが暴風でめくれ上がり、雨が染み入り始めたのだ。それまでめくれまいと頑張っていたために、防風をまともに受けて部屋をも大揺れにしていたのだが、トタンが飛んでそ抵抗が無くなった”とたん”に部屋の揺れが収まるも雨よけが無くなったというわけだ。
 理屈が分かってダジャレで喜んでいる暇は無い。ここにはもう住めない。もはや夜露をしのげないのだから…。

(「新潟独り暮らし時代69「衝撃の瞬間。屋根が飛ぶ」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代70「一宿の恩義」
に続きます。)
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