どうも。バジルです。
先日は数行のみ書いた9話を間違って公開してしまいました。
ご覧になった方はなんだこれ?だったことでしょう。
失礼しました
では嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妄想ドラマ 『Snowflake』 (9)
「初めまして、佐和野です。君のことは以前から美冬さんに聞いてよく知ってますよ」
仕立てのいいスーツを身にまとった、30代前半と思われる長身の男は、笑顔で右手を差し出した。
「どうも。大町悟です」
悟と握手した佐和野の手は大きくて、2月だというのに暖かかった。
車で来たのだとわかった。
悟の住んでいるマンションは駅から15分歩く。
少しでも広い部屋を借りたかったので、駅からの距離は目をつむった。
東京へ出てきたときは、学生向けの1Kのアパートに住んでいた。
大学へも自転車で行ける距離だったが、絵を描くには狭すぎて、
美冬の紹介で一年ほど前に、今のマンションに引っ越した。
ギャラリーがある下北沢に。
経済的には両親の保険金で十分な余裕がある悟だったが、
二人の命と引き換えにもらったという思いがあって無駄には使えない。
時給がいいので、夜にダイニングバーでアルバイトをしている。
次第に大学へは足が遠のいて退学しようと思い始めていた。
「この前見せてもらった絵がいいと思うんだけど、父が佐和野さんの意見も聞くのが条件だって譲らないの。
彼ね、父と一緒に世界で活躍しているアーティストの絵も扱ってきたから、
悟君にもなにか刺激になる話ができるかもよ」
美冬は言い終わると佐和野に、「ね」と言うように微笑んだ。
なぜか悟の胸の奥がざわついた。
「そんな人から見れば俺の絵なんて・・・」
「いや、僕は期待して来ましたよ。美冬さんが入れ込んでる新人ですからね」
にこやかな中に小さな棘のようなものを感じる。
悟は酷評されてもかまわないと思った。
ダイニングに並べられた数点の絵を見て、佐和野は内心驚いた。
美冬の目も確かだと認めざるを得ない。
悟の絵は激しさと柔らかさが混在して、見るものを惹きつける。
遠めに見ると引き込まれるような力強さを放ち、
近づくといつまでも眺めていたい優しさを感じる。
すぐに海外の顧客の顔が数人浮かんだ。
彼らなら必ず気に入ってこちらの言い値を出すだろう。
しかし、顔には驚きが出ないように気をつけた。
「なかなかいいと思うよ。学生の域は出てるかな」
「そう?」
美冬は嬉しそうだ。
「大町君はもっと大きな作品は描かないんですか?」
佐和野が聞いた。
「ここでは無理だから」
「どこかアトリエを借りられるといいんだけどね。悟君はほんとはもっと大きな絵も描きたいの」
「でも今度は置く場所がないよ。美冬さんはすぐその気になるから怖い」
悟が苦笑すると、佐和野は美冬の肩を軽く叩いて微笑んだ。
「この人は理想に燃えているからね。冗談は通じないよ」
「いけない?」
美冬は悟のほうへ向き直ると、まっすぐに目を見て言った。
そんな美冬の後ろで、佐和野は複雑な思いでいた。
二人は美冬と悟が相談して決めていた絵を持って帰った。
額装は美冬に任せた。
悟はギャラリーで、どんなふうに自分の絵を見せたいかという希望は無い。
絵が完成した時点で力が尽きてしまう。
誰かがプロデュースしてくれなければ、いつまでたっても個展なんて実現しないだろう。
そしてその誰かは美冬だと思っている。
常に穏やかな物腰で、丁寧だった佐和野に好感が持てない理由を悟は考えていた。
ひとつだけ頭をかすめた理由を振り払った時、携帯が鳴った。
「今度の週末に行ってもいい?話があるの」
聞きなれた夏葉の声だった。
---------つづく-------
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
よっしゃ!楽しみになってきました。
ちょっと想像ついちゃいます?
ではまた
先日は数行のみ書いた9話を間違って公開してしまいました。
ご覧になった方はなんだこれ?だったことでしょう。
失礼しました
では嵐の『Snowflake』を聴きながらどうぞ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妄想ドラマ 『Snowflake』 (9)
「初めまして、佐和野です。君のことは以前から美冬さんに聞いてよく知ってますよ」
仕立てのいいスーツを身にまとった、30代前半と思われる長身の男は、笑顔で右手を差し出した。
「どうも。大町悟です」
悟と握手した佐和野の手は大きくて、2月だというのに暖かかった。
車で来たのだとわかった。
悟の住んでいるマンションは駅から15分歩く。
少しでも広い部屋を借りたかったので、駅からの距離は目をつむった。
東京へ出てきたときは、学生向けの1Kのアパートに住んでいた。
大学へも自転車で行ける距離だったが、絵を描くには狭すぎて、
美冬の紹介で一年ほど前に、今のマンションに引っ越した。
ギャラリーがある下北沢に。
経済的には両親の保険金で十分な余裕がある悟だったが、
二人の命と引き換えにもらったという思いがあって無駄には使えない。
時給がいいので、夜にダイニングバーでアルバイトをしている。
次第に大学へは足が遠のいて退学しようと思い始めていた。
「この前見せてもらった絵がいいと思うんだけど、父が佐和野さんの意見も聞くのが条件だって譲らないの。
彼ね、父と一緒に世界で活躍しているアーティストの絵も扱ってきたから、
悟君にもなにか刺激になる話ができるかもよ」
美冬は言い終わると佐和野に、「ね」と言うように微笑んだ。
なぜか悟の胸の奥がざわついた。
「そんな人から見れば俺の絵なんて・・・」
「いや、僕は期待して来ましたよ。美冬さんが入れ込んでる新人ですからね」
にこやかな中に小さな棘のようなものを感じる。
悟は酷評されてもかまわないと思った。
ダイニングに並べられた数点の絵を見て、佐和野は内心驚いた。
美冬の目も確かだと認めざるを得ない。
悟の絵は激しさと柔らかさが混在して、見るものを惹きつける。
遠めに見ると引き込まれるような力強さを放ち、
近づくといつまでも眺めていたい優しさを感じる。
すぐに海外の顧客の顔が数人浮かんだ。
彼らなら必ず気に入ってこちらの言い値を出すだろう。
しかし、顔には驚きが出ないように気をつけた。
「なかなかいいと思うよ。学生の域は出てるかな」
「そう?」
美冬は嬉しそうだ。
「大町君はもっと大きな作品は描かないんですか?」
佐和野が聞いた。
「ここでは無理だから」
「どこかアトリエを借りられるといいんだけどね。悟君はほんとはもっと大きな絵も描きたいの」
「でも今度は置く場所がないよ。美冬さんはすぐその気になるから怖い」
悟が苦笑すると、佐和野は美冬の肩を軽く叩いて微笑んだ。
「この人は理想に燃えているからね。冗談は通じないよ」
「いけない?」
美冬は悟のほうへ向き直ると、まっすぐに目を見て言った。
そんな美冬の後ろで、佐和野は複雑な思いでいた。
二人は美冬と悟が相談して決めていた絵を持って帰った。
額装は美冬に任せた。
悟はギャラリーで、どんなふうに自分の絵を見せたいかという希望は無い。
絵が完成した時点で力が尽きてしまう。
誰かがプロデュースしてくれなければ、いつまでたっても個展なんて実現しないだろう。
そしてその誰かは美冬だと思っている。
常に穏やかな物腰で、丁寧だった佐和野に好感が持てない理由を悟は考えていた。
ひとつだけ頭をかすめた理由を振り払った時、携帯が鳴った。
「今度の週末に行ってもいい?話があるの」
聞きなれた夏葉の声だった。
---------つづく-------
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よっしゃ!楽しみになってきました。
ちょっと想像ついちゃいます?
ではまた