さて…長岡さんが「大失恋」なさった日の夜
酔っぱらってしまわれた長岡さんに呼び出された大森さんが
長岡さんをおんぶなさって、慰めながら歩いておられた時
長岡さんに「一張羅のジャンパー」の襟口を噛み切られてしまっても
「仕方がないなあ」と、おっしゃった(笑)…という話の続きです
「下宿に帰って、私は、玄関で、こう…仰向けになって、足をバタバタしながら
『ああ!俺は死にたい!』と…『もう死んでしまいたい』と泣き叫んでたんですけど…
自分で、よく覚えてんです、これ…うん…
そしたら、大森くんは、私の部屋に布団を敷いて『さあ、今日はもう寝ろ!』とね
『明日になれば気分も変わる!』って言って、電気を消して、部屋から出て行きました
私も、いつの間にか熟睡して眠ってました
それから数ヶ月後…何ヵ月経ってからかな?
今度は、大森くんが、真夜中に僕の部屋に、すっごい暗い顔して
『ちょっといいか?』って、入って来たんですよ
そしてね、ナンて言ったかと言うと…『今日、俺も彼女と別れたとさ』…って言うわけ
『悲しい!死にたい!』って言うわけ
『お前は、この前、玄関で「死にたい!死にたい!」って叫んでたけど
今でも死にたいと思っとるか?』って言うから
真剣な顔で訊いて来るんで、私は『今でも死にたいと、時々思うよ』って答えたら…
すると、ポケットの中から、小さい赤い紙包みを出して
『この中身は、フグの毒で、テトロドトキシンっていう薬が、致死量入っているので
この一服で確実に死ねるんだ』って言うんですよ
…で、『今日、薬学部の薬剤室で取り出して、包んできた』って
『ハイ、これ、お前のぶん…で、これが俺のぶん』って言って、その毒薬をくれたんですよ
中身をね、開けたら、ピンク色した粉末でした
『ナンでピンク色なんだ?』って訊いたら
『普通の薬剤は白いけど、毒薬とか劇薬は、間違いがないように着色してあるんだよ』と
納得のいく答えがあったんで…
『どうしても死にたくなったら、これを、お互いが知らない所で飲んで、死ぬことにしよう
そして、学校へ行ったら、掲示板に「薬剤室からテトロドトキシン何ミリグラム失くなった」って
記事が出ると思うんだけど、絶対に秘密!口外しないように…』
固く固く約束されて、彼は、暗い顔のまま、部屋から出て行ったんですよ
そして、私は、その毒薬を…鉄の缶カンがあったんですけど
その缶カンに入れて、部屋の中に隠しました
…で、『死にたくなったら、いつでも、これを飲んで死ねるんだ』と思うとね
それから数年…イヤ、数十年、死にたいと思うことはあっても、死ぬことはなかった
ずっと、今でもそう(笑)…うん
その缶を開けることはあっても、もう飲むことはなかった
実際に、こう…ナンか、不思議なもんでですね
『いつでも死ねる』と思うと、逆に、力が増大したような気がします
『いつでも死ねるんだから、頑張ってみようかな』っていうね
そういう気持ちが…あとで気づきました…そういうことにね
そんな中、ナンか、親友の大森くんは、全然違う心臓の病気で亡くなりまして…四十…いくつだったかな…?
…で、彼も、その毒薬を服用することはなかったんですけども…
そして、今から14年くらい前に、私は、この大村に戻って来たんですけども
引っ越す時に、その毒薬の入った缶カンがあったんですよ
そこには、大事な思い出が入っていて…人には見せられないような…
…で、そん時に『あっ!これ、毒薬が入ってるんだ!』と…中にあった…
ほいで、それも一緒に、引っ越しで持って来ました、大村に…
そいで…『これ、ホントに毒薬なのかなあ?』って、その時、一瞬思ったんですけど…
あのー、大村へ帰って、ハウステンボスに勤めたんですけど
ある日、その…佐世保で『福岡大学卒業生の集い』っていうのがあり
そこで、私が講演をすることになったんですよ!喋んなくちゃいけなくて…
…で、そん中で、この毒薬の話をちょっとしたんですね
大学時代の大森くんって、薬学部だったんですよ
そいで、講演のあとの懇親会の中で、薬学部卒業の後輩が現れて
『長岡さん、先ほどのピンク色の毒薬の話ですけど
それは、3年生になると、授業で使う試薬です』と…『毒薬ではありません』と…
『中身は、たぶんメリケン粉かナンかで出来てます。だから、飲んでも死ねません』と教えてくれた…(笑)
そん時、何十年ぶりの謎が、全部サーッと解けたんですよ
…ということは、あの夜に、とても暗い顔をして、私の部屋へ来て
毒薬を置いて、説明をした大森くんは、私のために芝居をしてたってことですよ
40年以上も経って、その真実と、そのね、裏に隠された
大森くんの、私をいたわる優しさに触れて、しばし、言葉も忘れました
ナンか、真剣な顔して言うんですよ、普通、そういう芝居、しないヤツだから…
『長岡さあ…』なんつって、ボソボソっと…
『あれ、ウソか…全部、無意味だったの?』と思ったら…
(『失恋はホントだったんですかね?』とアシスタントの方)…ホント、そうなんだ、うん…
皆さんにはね、こんな親友いますか?
ナンか、先ほど聴かせた…『You've got a friend』っていう曲ですけど
『You've got a friend』…私にはね『I've got a friend』になりますね
『僕には、こんな友だちがいるよ!』みたいなね
この今の時期にね、進学、転勤、転職、退職、移転…環境が変わることが多いでしょ?
精神的にも不安がつきまとう時期です
特にね、中学生、高校生、大学生と、学生生活を送ってる学生の皆さんはね
この学生時代に出来る友だちっていうのはね、一生の仲間になります
たとえ…親友ってのはね、たとえ相手が死んでしまっても
永久に生きている心の友だちのことなんですよね
だから『心友』って言うんですよ
だから、沢山いなくていいんです、1人いれば充分かも知れません
自分の生きる心の支えとなる存在をね、培って行ってほしいなあと、すごい思います
私、こう…『心友』について、話したかったんですよねぇ…
もう、ナンか、こう…あのー、こういうのって
年を取ってからの方が、更に響くんですけどね…
あのー、その人はもう生きていなくても、もうずっと生きてる感じが、僕の中ではします」
…と話されたところで「アレ?もう、今夜最後の曲になるんですけど…」と驚かれたので
録音時間を見ると、30分番組の半分以上が経過していて
最初に「今夜の話は長いですからね」と、おっしゃて、予定なさっていた以上に熱く語られたのかなあと…?
でも、番組開始当初から「最後には、この話をしようと思ってた」というくらい
大切に思っていらしたことなんでしょうね?
奥さんは、この「毒薬」の話を、長岡さんの「お引っ越し」か「講演会」かの頃に
「ずいぶん前に、ブログで読んだような気がする…」と言っていたんですが
大森さんが、今もなお、長岡さんの「心の支え」でいらっしゃることの「象徴」だとは知らず
改めて読み直したいと検索に余念がありません(笑)
ちなみに…そのブログの中でも「You've got a friend」というタイトルで、大森さんのことを綴られていて
それを通勤中に読んでしまった奥さんは、電車の中でうるうるしたんだとか…(苦笑)
ボクは、甲斐さんが「ALIVE」のライナーノーツだったか?に
入院中の大森さんの枕元に駆けつけられ、長岡さんやマネージャーでいらした武石さんも含めて
「オリジナルメンバーが揃った」と記されていたことを思い出し奥さんが「オリジナル甲斐バンド」にこだわる気持ちが、少し判ったような気がしております