そして、第1幕2場「蝉(第1日・早朝)」がスタート…
「『巌流島の決闘』から6年後の元和4年夏
鎌倉は佐助ヶ谷、源氏山宝蓮寺…名もなき小さなこの寺で
今まさに寺開きの参籠禅が取り行われようとしていた
大徳寺の長老・沢庵宗影(塚本幸男さん)を導師に迎え、能狂いの柳生宗矩(吉田鋼太郎さん)
寺の大檀那である木屋まい(白石加代子さん)と筆屋乙女(鈴木杏さん)
そして、寺の作事を務めた宮本武蔵(藤原竜也さん)も参加している
庭にいた平心(大石継太さん)が引磐を鳴らして」…
「今ここに、めでたく誕生の時を迎えた我らが宝蓮寺は
この鎌倉で最も小さな禅寺であります」という挨拶に始まり
大檀那である2人から寄進を申し出られると合掌し
「アノクタラサンミャクサンボダイ…」と唱え始めるんですが
何故か、宗矩殿が扇子で膝を打ち、その扇子を開いて腕を前に伸ばす仕草をしていたのが
2度目には、謡らしきものを唸り、能らしきものを舞いながら庭に降りてしまい(笑)
宗矩殿の草履を持って追いかけて来た沢庵様が「確かに病気ですな」と…(笑)
「柳生新陰流」の継承者であり、徳川家の兵法指南役ならびに政治顧問であるという
「目も眩むほど肩書きをお持ちのあなたが、お能の鼓の音が聞こえて来ると
他人の屋敷であろうと構わずに押し入って舞い狂うという噂を耳にした。確かに病気だ」と呆れ(笑)
宗矩殿が「いや、かたじけない。せめてこれからの3日間の参籠禅の間だけでも
体に棲みついた舞い狂いの虫を厳しく抑え込むことにしましょう」と謝っている時に
それまで、目を閉じたまま微動だにしなかった武蔵が、ふいに立ち上がり
講堂があると思われる下手袖に消えたかと思ったら、庫裏があるとされる上手側袖から現れ
上手のステージ手前に置かれている五輪塔の辺りを見回したあと、また屋根付き廊下に戻って来て
…って、これは、武蔵が何か気配を感じて取った行動だったみたいなんですが
「上手側の竜也ファンサービスじゃない?(笑)」と奥さん(笑)
奥さんの席は、大阪公演初日が下手側で、大阪楽日が上手側だったらしく
この屋根付き廊下のセットと、その前方にある庭が、舞台中央に置かれているため
上手側の客席からは、廊下の一番下手側に座っておられる藤原さんが遠く感じられたようです
ともあれ…引き続き、平心さんの挨拶や沢庵様の説法などが展開されていた時
いきなり、武蔵が屋根付き廊下の下手の縁の下に隠してあった木刀と
廊下上手に隠していた小太刀を取り出し、何事かと思ったら
先ほど武蔵が様子を窺っていた五輪塔の脇に小次郎(溝端淳平さん)の姿が…!?
ジュリーの「勝手にしやがれ」よろしく(笑)日除け笠を後方へ投げ上げると…
(大阪初日には竹に引っかかってしまったそうだけど
いつの間にか撤去されていたんだとか…(笑))
…2人は、上手と下手に離れたまま睨み合い
宗矩殿が、まいさんと乙女さんを庇うように両腕を広げる中
武蔵が「おお!やはり、あとのお手当てが良かったのだな」と口を開き
小次郎は、それには応えず「そこいら中に武器を埋め込んでおくとは
相も変わらず油断も隙もない奴だ」と、武蔵が屋根付き廊下に隠していた木刀や小太刀の他に
五輪塔の中にも忍ばせてあったらしい直刀を取り出して見せ
「よくぞ見抜いた!この6年の間に、よほど眼力を鍛えたものと見える」という武蔵の言葉に
「ほざくな!傷の療治に一千日、体と技の鍛え直しにまた一千日
そして、お主の居所探しに二百日、合わせて二千二百日
その一日一日を『宮本憎し、武蔵に勝ちたし』の一念で送って来たのだ
お主の汚い仕掛けを見破らずにどうする!」と返したあと
「柳生新陰流のご当主、宗矩様とお見受け致しますが…?」と声をかけ
「なぜ判る!?」と驚く宗矩殿に、武蔵が「佐々木小次郎が私を追って参ったようです」と説明
小次郎が「巌流佐々木小次郎です」と名乗り
「あやつが言っていたように、名医の手厚い手当てを受けました」と話すと
「細川家の兵法指南役が生きておったとは『不思議やな~』」と能狂いが出そうになりクスクス(笑)
この舞台の演出も手がけていらっしゃる吉田さんは
蜷川幸雄さんのオリジナル演出から「1センチでも離れたくない気持ち」で
かなりの部分を踏襲なさっているみたいですが
一方で「芝居の根幹は大事にしつつ、弾けるところは思いっきり弾けよう」ともおっしゃっていて
それはこの先、お芝居が進行するに連れ、また、公演の回を重ねるに連れ
その弾けっぷりがエスカレートして行くようです(笑)
ともあれ…
続いて、小次郎が「そこの坊様は、沢庵御坊でいらっしゃいますな?」と声をかけたトコで
武蔵が「小次郎!方々に手を出すな!お主の相手はこの武蔵一人であろうが」と遮るも
「しばらくの間、大人しく聞いておれ!
武蔵の行方を尋ねる内に、御坊の行く先々へ相前後して、必ず現れることを突き止めました
この度、めでたくあやつに追いつくことが出来たのは、ひとえに御坊のおかげです」と明かし
沢庵様は「ここは寺の境内であるぞ。しかも、寺開き記念の奉納参籠禅の最中である
そういうところへ人斬り包丁などを持ち込んではならん!平心坊、お預かりしなさい」と命じ
平心さんが「お預かりをお刀致します」とビビりながら、小次郎の刀を預かろうとすると
小次郎は懐中から取り出した書状を武蔵に掲げ「武蔵!これは貴様に宛てた果たし状だ!」と叫び
その果たし状を「あやつにお手渡し願いたい」と平心さんに差し出すも
「沢庵様、お読み上げを…綺麗に勝つことだけを己が剣法の命としていた小次郎も
この6年の内にだいぶ腹黒くなった様子
それを開く間に何か仕掛けて来るやも知れませぬ!宗矩様もお読み上げを…」と武蔵
自分の物差しで…って感じだけど(笑)当然といえば当然かな?
平心さんが果たし状を受け取り、沢庵様と宗矩殿に手渡すと、平心さんも横に並んで覗き込み
読み上げが始まるのかと思いきや、小次郎が、まいさんと乙女さんに近づき
まいさんが、女猿楽一座の花形だったことや
その舞姿を木屋のご主人に見初められ、後添いに入ったことを茶店の爺さんから聞いたと話すと
「あの爺さまのお喋りには、皆が閉口しているのですよ」とまいさん
…が、小次郎はそれをスルーして、今度は乙女さんに
一昨年の夏、乙女さんの父親が夜釣りに出て、それっきりだということを
旅籠の爺さんから聞いたと話すと「その2人の爺さまは兄弟です」と乙女さん(笑)
この2人の大檀那が、口を揃えて「斬り合いはお止め下さいませ」と諭すのに耳を貸さず
武蔵と小次郎が間合いを詰めようとした時
信じられないくらい長い果たし状…って
沢庵様と宗矩殿、平心さんに、まいさんと乙女さんが加わり
5人が並んで果たし状を手にしても、その両端が床に付くどころか
「松の廊下」の袴の如く、床の上に長々と伸びているくらいで
どんだけ怨みつらみが書いてあるんだ!?って感じ(笑)…を読み上げる声が大きくなり
5人がそれぞれ自分の手にした部分を、ものすごい早口で読み上げ(笑)
ようやく最後まで読み終えると、小次郎が「受けるか、武蔵」と訊ね
武蔵は「明々後日の朝か…参籠禅は明けているな
生死の境に立っている時の、あの命の高鳴り、すぐに死なねばならなくなるかも知れない
しかし、この瞬間だけは体全体を使って、生き生きと生きている
あの時の沸き立つような命の瞬間がまた味わいたくて
お主に止めを刺さなかったのかも知れないな」と受けて立つんですが
吉田さんは、武蔵のこのセリフをお聴きになると
まるで、藤原さんご自身が「舞台でしか味わえない、この楽しさ!」と
おっしゃっているような感じに思われて、大好きなセリフなんだとか…
もっとも奥さんは「藤原さん」を「甲斐さん」に置き換えて、大きく頷いたみたいだけど…(笑)