4曲目の「カオス」によって生まれた緊張感を
5曲目の「ハートをROCK」で、ほぐされた甲斐さんが
次に用意なさっていたセットリストは「レッド・スター」
かつて、このライブ映像をビデオテープが擦り切れるくらい観倒した(笑)
奥さんの記憶にあった通り、甲斐さんが白い階段の最上段中央に立たれ
組んだ両手を頭上高くにかざされる
「翼あるもの」のエンディングのようなスタイルで、リズムを取られるところから始まり
イントロが終わる直前に、ステージに降りて来られ
マイクスタンドの脇に置かれたモニターの上に足を乗せる
いわゆる「波止場の石原裕次郎ポーズ(笑)」で歌われたり
再び階段を昇られながら、一段ごとに「見返り美人」よろしく振り返られたり…と
一番このステージセットを生かされたパフォーマンス…っていうか
ステージの前後左右に動かれることはあっても
上下なさる甲斐さんは、かなり珍しいんじゃないかと…?(笑)
ともあれ…この曲に関するコメントとしては
まず、岩岡吾郎さんが「私は音楽を『BGM』として聞く習慣がほとんどなく
好きな曲(だけ)をじっくり聞き込む方です
夜、酒を飲みながら聞き惚れることもできるし
『BGM』にもなる、この曲は最高ですね
生意気なことを言うようですが、甲斐よしひろの音楽に大きく2つのタイプを感じます
ストーリーテラーのように語られる歌詞
また、歌われる世界の真っ只中にいて『うめき』怒っている歌詞
前者は丁寧に甲斐よしひろの冷静な判断がされていて
ここ(アルバム『カオス』)では、A①(インジュリイタイム)、A②(カオス)
A⑤(ミッドナイト・プラスワン)などに感じます
後者は生の感情がストレートに表現され、感嘆詞が多く聞かれるもので興奮している
どちらも甲斐よしひろの世界だと思います
特にこの曲は、両者がスマートに交差し、洒落た『わめき声』に引きつけられます
私の好きなムードを持ったやけに色っぽい曲で
これはたぶん大人にしかわからないでしょうね(これは大事なことです)」と記され(笑)
このアルバムの共同プロデューサーでいらっしゃるチト河内さんは
「遥か昔、例えば日本で言えば弥生時代に使われていた
弥生言葉のようなものが聞こえてくる『レッド・スター』という曲のサウンド全体を通じて
そういう言葉に呼び掛けられているようだ
打ち込みのコンピューター音楽を作っていて、そういうものを何度も聴いていると
最初は解放されるけれど、しばらくするとその音楽に責めたてられるような気がしてくる
この曲は、音楽的には難しいことは何もしていないシンプルで明快な曲だが
聴いていると自分が本来は持っているのに忘れているところや気づかないでいるところが見えて
それを一瞬解放させてくれるような感じがある
その呼び掛けてくる声は、自分がどこかで聴きたいと願っている声なのかも知れない」と語られていて
以前に甲斐さんが「結局、アナログ盤のあの太さと心地よさを超すために
マスタリング頑張って来た訳じゃないですか?デジタルで…
もう、今、超してますからね、あの柔らかさは、まだちょっとないかも知れないけど
でも、あのもう太さはもう完全にアナログ超してるもんね」と
一周回って(笑)アナログレコードの音が理想の音…というか
「CDでは高低音域がカットされるんで」…みたいな話をなさっていたことを思い出しました
そういえば、甲斐バンド・甲斐さんのアルバムの中では
この「カオス」が最後のアナログ盤になったんですよね?
ともあれ…平山雄一さんは「独特の妄想が好きだ
シラフで現実を感じれば感じるほど、見えてくる妄想のような世界の様相
甲斐はそうした設定の中で、愛を誘う
その愛はと言えば『君といたい、ずっといたい、夜も昼も、そばに』という非常にストレートな熱情だ
例えば映画『地獄に堕ちた勇者ども』のワンシーンのように、一室に隠れ住む男女が
割れたジャムのビンを踏みつけてまで運命と愛を確かめ合うことを思い出す
僕らは地球に閉じ込められ、誰もがガラスの破片を踏み、そして愛し合いたいと願っている
だからこの歌は妄想ではない。これが彼の語り口なのだ」と
おそらく?甲斐さんもイメージなさったであろう映画を例えに解説なさってます
この曲のライブ映像のラスト…曲が終わると同時に、夕陽のような赤い照明が灯り
白い階段を染めていた光景は、SF映画に登場する「火星」みたいで
思わず「おおっ!」と声が洩れました(笑)
続いて7曲目は、甲斐さんがソロ35周年記念のベストアルバム
「FLASH BACK」のセルフライナーノーツに
「ジェイソン(・カーサロ)のMIXが冴え渡る
KAIの新たな一面を打ち出したミディアムバラード」と記され
アルバムのラストに配された「I.L.Y.V.M.」
白いスポーツタオルを右肩にお掛けになって
レコーディング音源よりも、更に「タメ」を効かせた、振り絞るような熱唱に
切なさが溢れていて、胸がギューッと締めつけられ
やはり、甲斐さんは、大森さんがおっしゃった通り「ブルースシンガー」なんだなあと…
歌い出しやサビの入りで、マイクスタンドを掲げられるパフォーマンスは
この当時まだ誕生していない「嵐の明日」のパフォーマンスに似てるんだけど
この映像では、コーラスをなさってるギターの松下さんの方を振り返られるカットがあり
メンバーの皆さんとタイミングを合わせる意味もあるのかも…?
この曲に関しては、富澤一誠さんが「数あるバラードの中で
かつてこれほど『圧倒的』なバラードがあっただろうか
きれいな、美しい、悲しい、胸にしみる、哀愁を帯びた…と
どんな美辞麗句を百万言費やしても表現しきれない『圧倒的』なバラード
さすが甲斐よしひろである」と大絶賛なさってます
でも、その「表現しきれない」ほどの「圧倒的なバラード」だったためか?
陣内孝則さん主演の映画「極道渡世の素敵な面々」では
かなりハードなベッドシーンのバックに流れていたんですよねぇ…(笑)
もっとも、山田太一さんが評された通り、甲斐さんの「情景が浮かぶ」曲には
「ドラマの方が負けてしまう」ので?セリフのないシーンでしか使えなかったのかなあと…?(笑)
また、森内淳さんが「甲斐よしひろの歌詞は時と共に変化してきた
しかし、いつの場合でも『男と女の歌』という基本線は貫かれていたと思う
一時期、表面的な色合いがハード・ボイルド的になったりしただけで
根底に流れるものは同じであったはずだ(少なくとも僕はそうであったと信じている)
『I.L.Y.V.M.』という歌は『言葉数』が少ない歌だ
しかし、その裏には実に多くの言葉が隠されているように思う
サビの『L.Y.V.M.』という部分に、この歌詞に現れている言葉の
何十倍もの言葉が凝縮されているように、僕には聞こえてしまうのだ
人を愛してる者が持つ波動がリアルに届いてくるのである
これぞ甲斐よしひろの現在の力を示した曲だ…なんて言うつもりはないが
小手先技ではない深い部分に根ざした表現(=歌)をさりげなく示してくれたことに
僕は正直に言って嬉しかった」と、その歌詞に触れられてますけど
甲斐さんは「男と女の話の向こうに、社会や時代が垣間見える歌」をお書きになる
「ロック詩人」でいらっしゃいますもんね?
かつて甲斐さんは、プライベート激動期に書かれた曲をお聴きになった松藤さんから
「良い曲書くねぇ!ずっと不幸だったらいいのに(笑)」と言われたそうですが(苦笑)
プライベートが充実なさったあとにも「恋をしたら曲って書けるんだよね」とおっしゃって
甲斐よしひろ流ラブソングを生み出されてます
まあ、その恋のお相手は、映画の中のヒロインだったみたいだけど(笑)
ただ、TOKIOの皆さんに楽曲を提供された際にも「恋をしたら…」発言があり
奥さんは「アレはアヤシイよね(笑)」と申しておりました(笑)
それはともかく…甲斐さんは、2コーラス目から、左肩に掛けかえておられたタオルを
間奏の時には、少し汗が引いたのか?無造作に投げ捨てられ(苦笑)
次の「ミッドナイト・プラスワン」では、再びジャケットをお召しになり
ステージ中央に置かれた椅子に掛けて、歌い始められ…と思ったら
冒頭の「♪ミッドナイト・プラスワン♪」の1フレーズだけで立ち上がられました(笑)
奥さんは「大好物」の長い髪で、ダボッとしたスーツ姿の甲斐さんが
ステージの進行と共に、額に汗を光らせ、その長い髪が濡れて少し乱れて来るのを
わずらわし気に振り払われるご様子を拝見して
「ちょっと疲れたジゴロみたいで色っぽい!」とキャイキャイ騒いでいたので(笑)
「汗が引いちゃダメじゃん!」とブツブツ(笑)
パンフレットのコメントのページには、またまた萩尾望都さんが登場なさって
「甲斐よしひろがグリフィス(監督)に捧げたオマージュというこの曲は
聴くたびに不思議な世界に私を誘う
グリフィスの『イントレランス』は、古代のバビロンから現代まで人間の歴史をたどりながら
最後は最終戦争を思わせるようなシーンで終わる
すると、この最終戦争と『ミッドナイト』の意味が
ふと、私の頭の中で重なってしまうのである
約40億年の地球史を24時間の1日でたどると
人類の出現と文明の発生は、真夜中の数秒前である
真夜中へ向けて、すべての想いは終結され、戦争と共に人類が終わる
その真夜中を過ぎてなお消えない想いが『プラスワン』として残る
次の新しい人類史・生命史が始まる24時間の、最初の1が
消えなかった前日の想いなのだろう
断ち切れない想いを恋人へ唄うこの歌が、私にはふと、そんな風にも聞こえてしまう」と綴られていて
やはり、数多くの物語を紡ぎ出されていらっしゃる方の感性というか
同じ曲を聴いても、イマジネーションの広がり方が違うというか
少なくとも「キャイキャイ」「ブツブツ」言ってる人間とは比べることさえ失礼なくらいで(笑)
いつか、この曲をモチーフに、1本描いて頂きたいです♪
後奏の部分で、鈴木さんがサックスを吹いておられる後ろで
ギターの松下さんがキーボードを演奏なさっていて
甲斐さんが再び椅子に掛けられてエンディング
奥さんは、アルバム「エゴイスト」のツアーだか「AGライブ」だかで
ステージの際にお座りになって歌われる甲斐さんを思い出したらしく
「足をブラブラさせて可愛かったんだよぉ!(笑)」と笑っておりました(笑)