我が家にとっての「沢木耕太郎」さんは「敗れざる者たち」や「一瞬の夏」
そして、甲斐さんが、ドイツW杯を現地で観戦なさっていた時に
斜め後ろの席にいらした沢木さんから「急に『甲斐くん!』って言われて(笑)
二人で『ナンでここにいるの?』って…ああいう出会いもありますから面白いですね」
…と話されていたこともあり「スポーツ関係のノンフィクションライター」とのイメージが強いんですが
世間的には「バックパッカーのバイブル」と呼ばれている
「深夜特急(第一便~第三便)」のライターの方という認識みたいですね?
もっとも、スポーツにしても旅にしても、最終的には「人としてどう在るか?」ということを
突き詰める…というか、長年に渡って問い続けていらっしゃるんじゃないかと…?
この映画も、ボクシングを通して、その「ドラマ」の部分にスポットが当てられていて
予告編のキャッチコピーは「二人は『一瞬』だけを生きると決めた」というものだし
パンフレットの見開きには、拳を構えて向き合う広岡と翔吾の姿に
「どう生きるかなんてどうでもいい」
「どう死ぬかなんて知ったことか」というフレーズが添えられてました
その物語は、ボクシングの世界チャンピオンになる夢を諦め
アメリカでホテル事業を成功させた広岡仁一(佐藤浩市さん)という男性が心臓病を患って
「人生の最終コーナーを昔の仲間とゆっくり歩くつもり」で帰国し
一人で飲んでいた居酒屋で、大騒ぎしている若者たちに注意したところ「場外乱闘」に発展(汗)
同じ店に居合わせた黒木翔吾(横浜流星さん)という元ボクサーの青年も店を出て
その様子を窺っていると、もちろん、広岡の圧勝に終わり
翔吾が広岡に近寄って行き、若者たちの仲間だと勘違いした広岡にノックアウトされながらも(苦笑)
「ボクシングを教えてくれ」と頼むと、あっさり「断る」と返される…という出会いのシーンに始まり
広岡が、かつて所属していた「真拳ジム」を訪れ
亡き父の跡を継ぎ、ジムの会長となっていた真田令子(山口智子さん)に
今は落ちぶれているという二人の仲間(片岡鶴太郎さん・哀川翔さん)の居場所を訊ね
それぞれに「俺と一緒に人生を考え直してみないか?」と声をかけたものの
広岡が借りた家(事故物件(汗))に同居することになったのは鶴ちゃんだけ…
哀川さん演じる元ボクサーは、アメリカで成功し、凱旋帰国した(と思っている)広岡を妬んでいる模様…
そんな広岡について、佐藤浩市さんが…
「広岡は、自分の最期を、人生で一番良かった時期の仲間たちと終えたい(という)
非常にロマンティックなことを考えていた男なんですよね
原作にある、そうした背景的なことは、あまり映画では語られていないじゃないですか
でも、逆に良かったかなと思っています
セリフで説明しなくても、なんとなーく伝わるものってあるし、映画って、そういうものでしょ」
…と、話されているのを拝見して、甲斐さんが、映画「照和」をお撮りになったフカツマサカズ監督に
「全部説明しようとしなくていいよ」とおっしゃったことを思い出しました(笑)
ともあれ…初老の元ボクサーたちが暮らす家に、あのノックアウト以来ずっと
広岡を探していたという翔吾が訪ねて来て、再び「ボクシングを教えて欲しい」と懇願するも
広岡はすげない返事…が、かつての仲間たちが「テストしてやれば?」と促し
自分たちが若い頃にやっていたトレーニング…
河っ原の急勾配の土手を走って10回登ること…を指示したところ、あえなくリタイア(苦笑)
「10回登れるようになったら、また来い」と言われた翔吾が、見事リベンジを果たし
不公平な判定負けに怒り、一度は辞めたボクシングを「ゼロから教えて欲しい」と頼み込むも
心臓に病を持つ広岡は「俺は年だ、先が短い」と頑なに拒否
その途端に翔吾が「俺も先なんかない!今しかないんだ!」と訴えると
その激しさ、切実さに打たれた広岡は、翔吾を家に住み込ませてトレーニングすることに…
奥さんは、このシーンの横浜流星さんを拝見して
「HERO」や「感触」の頃の甲斐さんが、何かに急き立てられるように
がむしゃらに突っ走っておられたご様子を思い浮かべていたらしいんだけど
流星さんご自身も、パンフレットのインタビューの中で…
「僕も翔吾と同じように『今しかないから、一瞬一瞬を燃え尽きたい』という感覚を普段から強く持っています
人生は一度しかないし、極端に言えば、明日死ぬかも知れない
だから、後悔しないように、毎日を必死で生きている翔吾に、非常にシンパシーを感じます
彼の嘘偽りのない言葉にも深く共感しましたので、違和感なく演じることが出来ました
『翔吾は、今どきの若者とは少し違って、自分の感情をストレートに表に出す』と言われて
そこは、僕自身とは違うのですが、彼の芯となる部分なので、大事に演じていきました」
…と話されているのを拝見して、ナンとなく、奥さんの言わんとする意味は判ったような気が…(笑)
それはさておき…所属ジムは、広岡の古巣の真拳ジムに決まりかけたところ
翔吾が、世界戦を控えたジムのホープである大塚(坂東龍汰さん)をスパーリングで倒したことで
「考えるボクシング」がモットーの真拳ジムに
翔吾のような荒々しいスタイルのボクサーは合わないと、山口智子さん演じる会長に断られてしまい
…って、この大塚役の坂東さんは、木村拓哉さん主演のドラマ「未来への10カウント」にも
ボクシング部員として出演なさっていたんだけど
「小学生の頃からやって来た空手のクセが抜けない」という設定の役で
今回の横浜流星さんと重なるなあ(笑)と思っていたら
甲斐さんのお気に入りドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」で
坂東さんと流星さんは共演なさってました(笑)
ともあれ…その「みらてん」でも、坂東さんのボクシング指導を担当された松浦慎一郎さんは
「初めて会った時は、1ラウンドももたなかったのが、陰ですごく努力していたようで
いつの間にかスタミナをつけていました
今回は最初から鍛えて来てましたね」と振り返られ
坂東さんは「プロボクサー役を演じることは、一つの僕の夢でもあったので
決まった時は本当に嬉しかったのと同時に、過酷な役作りから撮影を想像して
楽しみな気持ちと不安な気持ちがありました
撮影が始まるまでに、僕がやるべきことは、ひたすらボクシングと向き合うことでした
大塚は、ボクシングのシーンの撮影がほとんどだったので
ボクシング指導の松浦さんと流星くんと、たくさん話し合いながら作っていきました
流星くんは、とにかくフィジカルが強く、大塚も負けないくらい強く見えないといけないので
喰らいついて、がむしゃらに演じました
松浦さんは、僕の得意な打ち方を生かして、手を作って下さり、本当に助けられました」と明かされてます
ちなみに…松浦さんは、トレーナー役となられる佐藤浩市さんにミット打ちの指導をなさった時のことを
「『受けるのは怖いと思いますが、ミットをなるべく顔の近くに構えて、パンチを迎えに行って
どっしりとした態度で流星くんをリードして下さい』と話しました
流星くんのパンチを受けると、かなり痛いはずなんですが
佐藤さんは、絶対に流星くんの前では痛いと言わない
『本気で来いよ』と、カッコよかったですね」と振り返られ
流星さんは「佐藤浩市さんからは、どんな刺激を受けられましたか?」という質問に…
「とても優しく包み込んでくれる方で、現場でも、共演者とスタッフの士気を上げるために
自ら声を上げて、時には厳しく言って下さって…
(広岡)仁一と翔吾として、心で近づけたという実感がありました
演じる仁一の目と、それを俯瞰で見る客観的な視点を持たれていて
自分は、翔吾として生きている時は、翔吾の目でしか見られなかったので
まだまだ視野が狭いなと学ぶことが沢山ありました」とおっしゃってるんだけど
佐藤浩市さんは、年齢を重ねられても「大ベテラン」と呼ばれていらしても
いつも何か新しいことに挑戦なさっているというか
もちろん「重鎮」的な役柄も、ピッタリとハマってお見事なんですが
「よくそんな役をお引き受けになりましたね?」と
観ているこちらがヒヤヒヤするような「イッちゃってる系(笑)」の役を演じられたりもするので
この「広岡仁一」という男性が、本当に心から自分の最期を受け入れるまでの過程を
繊細に演じることが、お出来になったんじゃないかと…?