その14「魔法の小箱商法」
ピンクローズという名前の通りのブティッ
ク。店内はピンク一色、リボンのついたテデ
ィベアが、色とりどりのかわいい服だらけの
店内。わたしはここの服が大好きです。とは
いえ、一度しか行ったことがありません。
ブティックのオーナーの安部さんは、自分
で東南アジアやイタリアなどに年に4回ほど
買い付けに行き、妹さんとふたりで小さなブ
ティックを経営していました。
当時わたしは、洋服といえばあわせやすい
黒ばかり。そんなときに出会った安部さんは、
フリル満開のブラウスにきらきらジーンズ、
華やかな雰囲気で、とても元気な人でした。
「30過ぎたら黒い洋服は老け込むからだ
めよ」「ボトムが明るい色だと3歳若く見え
るわよ」「かわいいんだから自信もって!」
などとやつぎばやに言われ、会えばとても
楽しい気分にさせてくれました。
あるとき、たまたま大分出張があり、これ
幸いとお店をたずねました。
「よく来たわね!じゃあ着せ替え人形はじ
めましょうか」と、彼女は、お店中の洋服か
らわたしに似合いそうなものを片っ端から選
び始めました。2時間ほどいままで着たこと
もないタイプの服を着せてもらって、わたし
の気分は絶好調。結果、Tシャツ、ブラウス、
パンツなどあわせて8着を購入しました。
一週間ほどで、丈つめをしてもらったパン
ツが送られてきました。それだけでなく、ダ
ンボールにほかの洋服も入っていました。
「新しいのがきたので、気にいりそうなも
のをいれてみたけど、気に入らなかったらそ
のまま着払いで送り返してね」という手紙と
ともに、また好みの洋服が次から次へと出て
きました。気に入ったものだけを選び、お金
を振り込んで、残りはお店に返送しました。
それをきっかけに年に数回、彼女から洋服
がつまったダンボールがとどき、いるものを
選んでサイズ直しのものといらないものは送
り返す、ということが続きました。
ダンボールが届くたび、それはわくわくと
箱をあけます。一度は変わったスーツが入っ
ていて、「イタリアで見つけたの。あなたに
ぴったりだと思って」とメッセージがありま
した。「イタリアから私のために仕入れてく
れたんだ~!」と大感激。当時はまだテレビ
携帯通話もスカイプも無かったですが、デジ
カメで写真を撮ってメールして、電話をかけ
て、「どう?似合う?」「似合う似合う!」
なんて、もう大はしゃぎです。
箱が届くたびに感じること。わたしのこと
を考えてくれたんだなという嬉しさ、信用し
てくれているありがたさ(後払いですから)、
まるで占い師のように、気分をにぴったりの
楽しい洋服たち。
わたしはひそかに「究極の魔法の小箱商法」
と、名前をつけてみました。
ファッションが天職と、心から仕事を楽しむ
安部さんならではの、素敵なメソッドです。
(2011年8月15日)