【人生をひらく東洋思想からの伝言】
第175回
『一期一会(いちごいちえ)』(仏教)
私たちの日常会話に深く根付いている「一期一会」という言葉。
聞き慣れた言葉でありながら、その深い意味や由来については
意外と知られていないかもしれません。
この言葉の成り立ちを紐解いていくと、興味深い発見があります。
「一期」は仏教用語で「一生」を、「一会」は「一つの集まり」を意味します。
ただし面白いことに、「一期一会」という言葉自体は仏典には登場しません。
実は、この言葉の源流は茶道の世界にありました。
茶聖・千利休の弟子である山上宗二が著した『茶湯者覚悟十体』の中で、
次のように説いています。
「そもそも茶湯の交会は、一期一会といひて、たとへば、
幾度おなじ主客交会するとも、今日の会にふたたびかへらざる事を思へば、
実に我一世一度の会なり、さるにより、主人は万事に心を配り、
いささかも粗末なきやう、親切、実意を尽くし、
客も次の会
実意をもって交るべきなり、これを一期一会といふ」
(茶会の出会いは一期一会である。たとえ何度も同じ主人と客が会うとしても、今日のこの時間は二度と戻ってこない。だからこそ、主人は細部まで心を配り、誠意を尽くす。客もまた、次の機会までに会えないかもしれないと心得て、主人の心遣いに感謝し、真心を持って交わるべきである)
この精神は、茶道の世界を超えて、現代の私たちの生活にも大きな示唆を与えてくれます。
人との出会いや関わりの一瞬一瞬を、かけがえのない機会として大切にする・・・
この心構えは、忙しい現代社会だからこそ、より一層その価値を増しているように思えます。
日本人なら誰もが一度は耳にしたことのある「一期一会」。
この機会に、その本質的な意味をあらためて見つめ直し、
日々の出会いや関わりを、より大切に、より深く味わっていきたいと感じました。
参考文献
『暮らしに生きる仏教語辞典』山下民城編 国書刊行会
大磯 六所神社