松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆神山町へ行く・緩やかな社会性(徳島県神山町)

2019-11-22 | 1.研究活動
 恒例になった徳島県の研修であるが、いつもならば、徳島へは、夜9時着の最終便で行くが、今回は、午前の便で徳島に行き、足を延ばして神山町へ行ってみた。

 神山町は、今では、地方創生の聖地になっている。全国から視察者が集まり、最近では、中国や東南アジアからの視察者も多いらしい。徳島駅からバスで約1時間、過疎のまちである。この過疎を逆手にとって、創造的過疎という切り口で、IT関連の企業を呼び込むまちおこしが注目されている。

 たしかに、徳島からバスに乗ったが、背広を着たサラリーマンが2人、神山まで(町役場のちょっと手前のバス停で降りた)一緒に乗っていた。視察というよりも、仕事の雰囲気だった。

 神山町は、ITインフラが整備された町の環境をベースに、過疎化や空き家を安い賃料、豊かな自然という資源に反転させ、その中での「職住近接」スタイルのまちおこしを行っている。

 だから、場所を選ばない企業が集まり、ITベンチャー、映像、デザイン会社などのサテライトオフィスの立地、集積している。16社あるという。神山町にオフィスがあるのは、ひとつのステータスになっている。

 この産業立地をてこに、それに呼応して、子どもを連れた若者夫婦、仕事を持っているクリエイティブな人材といった移住者がやってきて、また関連のサービス業(カフェetc…)が生まれている(「逆指名」して取込みを図っているとのことである)。

 このように、過疎を与件として受け入れ、そこから、過疎に魅力を感じる産業や人を呼び込むことで、まちの価値を高めていく、いわば逆転の発想的なやり方は、私の好みである。

 この日、私は、視察というよりは、今度出す本の写真を1枚撮るのが直接的な目的で、あとは、街をぶらぶらしようと神山町へやってきた。

 まずは、お約束である町役場によって、地図をもらった。役場の人のお手を煩わすつもりもなく、単に役場の空気を吸うためである(このあたりのマニアックさは、連れ合いは理解し始めている)。


 最初に訪ねたのは、10分ほど歩いた神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックスである。ここにIT企業や徳島県、徳島大学などがサテライトオフィスを設置していることである。ただ現実には、人が常駐しているわけではないようだった。

 この日は、たまたま、関西の自治体連合の人たちが研修をやっていた。空き家問題を考えるということのようだった(翌日、分かるが、このコーディネートは、徳島県の研修センターの人だった)。


 ここで、事務局(?)を手伝っているFさんと話になった。Fさんは、東京の大学の3年生で、1年休学して、神山町に来ているという。神山町で起業しようというものでもなく、きっと面白いと思って、この町にやってきた、そんな感じである。

 こういうフットワークの軽さ、行動力は、まさに若さである。それに対して、私たち世代は、答えをまず決め、そこにどうすれば早く効率的に到達できるかを考えがちである。いろんな答えがあるのは分かっているが、それができない。私の場合は、時間的にも能力的にもなくなっているので、性急になりがちである。さかんにうらやましを連発したと思う。

 目標の写真は、有名なえんがわオフィスにして、いい写真が撮れたので、これを本に乗せるとしよう。


 帰りのバスの時間があるので、コーヒーを飲もうと思ったら、この日は、どこも定休日でお休み。コーヒー豆を売っているお店があったので、試飲ならできますということで、バスを待つ時間、休ませてもらった。「豆ちよ」というお店だった。


 久しぶりに、外でおいしいコーヒーを飲んだ。試飲と言っても、落ち着いたコーヒーカップに、私の希望に応じたバランスの良いコーヒーを入れてくれ、とても試飲とは言えない本格的なものである。私だったら、料金を取ってなどと考えるが、何とも、おおらかなことか。

 試飲だけでは、申し訳ないので、私としては、私が飲んだコーヒー豆を買おうと頼んだつもりだったが、商売気がないのか、私の活舌が悪いのか、一向に、私に売ろうという気配にならず、結局、再度、言い出すタイミングを逸してしまった。

 その分、いろいろな話となった。聞くと(というか、向こうから話たのだと思うが)、お店のご主人(Tさん・女性)は、高校は横浜で、大学も横浜とのことである。あれこれ話していると、あっという間に、バスの時間になった。今度は、バス停まで、送ってくれた(コーヒーは買いそびれたので、連れ合いに、イヤリングを買った)。

 帰りのバスは、とてもいい感じで帰ったが、この感じの良さは何なのだろうか。

 私が旅人だというバイアイスもあるだろうが、ここで出会った人たちの、いわば「緩やかな社会性」のようなものに、共感したためだと思う。

 たまたま出会った人たちは、ここで儲けようとか、一旗揚げようとかではなく、自分らしい暮らしができると思ってここにやってきた。それが、NPOの手伝いだったり、農業だったり、自然との共生であったり、コーヒー屋さんだったり、かたちはさまざまであるが、そこに共通なのは、社会や地域と緩やかに関係しながら、自分のライフスタイルを大事にしていることである。

 これは簡単に言えば、「緩い社会性」ともいうべきものなのだろう。それに対して、私たち世代は、とかく「性急な社会性」を求める。世の中、それでは動かないことは、いやというほど実感しているので、緩い社会性を基本に行動するが、私の場合は、特に心して、心がけなければ、それができない。他方、それを難なくやる人たちを見て、きっと、うらやましさを感じが、それが心地よさのもとになっているのだろうと思う。

 ともかく、有益な一日で、神山町に行ってよかった。
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