弁護士さんへの大量請求事件のその後である。 この点については、すでに書いた。
過去の記事
1大人よしっかりしてほしい
2中高年はなぜ大量請求に走るのか
経緯は次のとおりである。2016年に東京弁護士会が朝鮮学校への補助金支給をめぐる国の対応を批判する会長声明を出したことがきっかけに、ネット上などで懲戒請求を出すよう呼びかけに応じて、中高年(1000人くらい)が、東京弁護士会の役職者ら10人に対し、大量の懲戒請求を出した(合計13万件にもなるらしい)。
しかも、それに対して、「ひどい」とツィートした弁護士に対してまで、大量の懲戒請求が出されている。懲戒の理由である犯罪行為は外患誘致罪である。外患誘致罪は死刑しかない。弁護士に対する懲戒請求は、「弁護士業務の禁止」である。要するに、死刑、あるいは仕事のクビにするということで、あまりに常軌を逸している。
これについては、すでに2回書いた。私の知り合いのなかには、いわゆるネトウヨと呼ばれる人もいて、親しく話をするが、定年を過ぎた人が、なぜそうした行動に走るのか、同世代としても興味深いし、ある種の「まじめさ」の発露であることは理解できる。ならば、そのエネルギーを民生委員や保護司、自治会の役員など、もっとそのパワーを活かせるところに向けてほしいと思っている。
私たちは、親から、「数をたのんで人を攻撃する」ことは恥ずかしいことだ。相手にもの申すときは、「堂々と名前を名乗のり、陰からものをいうという卑怯な振舞はするな」と厳しく教わってきた。あるいは、子どもたちに、そのように教えてきた。にもかかわらず、その世代が、なぜ、こんなふるまいをするのか、とても理解できない。
せめて、裁判になり、弁護士さんから訴えられたら、正々堂々、自分の主張をして、汚名挽回すべきだと書いたが、実際の裁判では、まともな弁論がなく、自ら「結審を求めます」という展開になっている。若者が一番嫌いなのが、無責任な振舞であるが、それを挽回するせっかくのチャンスをなぜ活かさないのだろう。
論点のひとつが、朝鮮学校への補助金支給である。ただ、ここで問題になっているのは、「声明」なので、これは政治的表現の自由の問題である。だから、憲法89条は特に問題にならない。この声明(表現の自由)が、外患誘致罪になるという論理を法廷で主張するのは、どの弁護士さんでも難しいだろう。
ちなみに、憲法89条であるが、憲法には、「公の支配」に属さない教育、慈善活動に公金を支出できないと書いてある。この条文を根拠とするのだろうが、その議論は、あまりに稚拙である。
憲法を少しでも勉強した人は、誰でも知っている議論であるので、これ見よがしに書くのははばかられるが、憲法89条は、私が最初に書いた論文なので、書いておこう。
憲法89条は、官による干渉を防ぎ、公金の乱費を防ぐための規定である。この「公の支配」の理解であるが、これを文字通り「役所の支配」と読む説(厳格説)はないわけではないが、もはや異説だろう。この説だと、私立大学や私立高校にも、公金が支出されているが、これが憲法違反になってしまう。
通説・判例は緩和説である。簡単に言うと、税金の使い道に収支報告があれば、「公の支配」があると考える考え方である。私立学校の教育内容に立ち入らず、しかも税金の乱費を防ぐための折衷的な運用である。だから、私立学校にも補助金が出せる。
ときどき、一条校かどうかの議論があるが、一条校は、学校教育法の概念で、憲法89条とは、別の議論である。実際にも、アメリカンスクールやドイツ人学校などの非一条校にも補助金が支出される。さらには、今日では、NPOが行っている社会教育にも補助金が出されている(むしろ朝鮮学校に補助金を出さない論理のほうが難しい。不平等だというそしりを受けるからである。補助金を出さない行政側の判断を違法としない判決が多いが、結局は、時の勢い=国民感情のようなものなのだろう)。
どうせ社会に関わるならば、ネットの空中戦ではなく、地道な活動(これは確実に社会を支えるものである)のほうが、ずっと面白いし、充実感があるのに、なぜネットに走るのだろうか。この点は、興味深く、ぜひきちんと論文にまとめてみたいと思うが、もはや政治学や法律学の範疇を越えるので、とても手が出ないであろう。