松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆市長提案の議員定数削減条例(1)・議員定数条例の発案権者

2022-09-25 | 市長提案の議員定数削減条例

 市長提案の議員定数削減条例を考えてみよう。

 この問題を考える発端は、安芸高田市の事例である。ここでは副市長定数2名を1名に減らされたのが動機となって議員定数の半減が提案された(詳細は、安芸高田市市政刷新ネットワーク通信に詳しく載っている)。議員定数問題以外にも、安芸高田市では、地方自治の常識からみると、イレギュラーな事例・提案が行われていて、実に興味深い。おおよそは、かつて阿久根市で起こったケースをイメージすると理解できるだろうか。ただ、阿久根市の場合は、その後の地方自治法の改正につながったが、そこまでのインパクトはないように思う。

 興味深い論点は多数あるが、ここでは市長提案の議員定数削減条例に絞って、これを法律学、政治学の観点から考えてみたいと思う。全体としては、何回かに分けて書くが、時間のすき間に書いているので、断続的な原稿になると思う。

 ではまず最初は、法律学的な議論である。要するに、(1)二元代表制のもと、市長が、議員の定数削減条例を提案できるのか、議員定数条例の提案権者をめぐる問題である。(2)できるとして、この条例の立法事実、政策事実をどのように説明するかである(次回以降の論じる)。

 なお、議員定数条例を市長が提案できるかについては、これまでほとんど議論になっていない。それは、市長が一方的に議員定数削減条例を提案しても、たいていは否決され、条例が成立することは考えにくいからである。のちの議会運営を考えてみても、関係をこじらすだけなので、実際には、こうした提案がほとんど行われないからである。

 まずは(1)議員定数条例の提案権者の問題である。二元代表制からの単純な議論では解決できない。

 ①コンメンタールを見ると、市長も「提案できるとされている」(要説逐条地方自治法も新基本法コンメンタールも)とされている。ただし、その理由は書かれていない。
 
 ②議会基本条例のいくつかでは、市長の提案権を認めたうえでの規定が散見される。
 たとえば東松島市の議会基本条例では、第18条(議員定数及び議員報酬)として、 「 議員定数及び議員報酬は、別に条例で定める。 2 議員定数及び議員報酬の改正に当たっては、行財政改革の視点だけではなく市政の現状と課題、将来の予測と展望を考慮するとともに市民等の客観的な評価等を参考としなければならない。3 議員定数及び議員報酬の条例改正は、市民の直接請求及び市長の提案を除き、委員会又は議員が提案し、その理由について説明するものとする」としている。

 なお、この規定のポイントは、第2項で、「議員定数及び議員報酬の改正に当たっては、行財政改革の視点だけではなく市政の現状と課題、将来の予測と展望を考慮するとともに市民等の客観的な評価等を参考としなければならない」としている点である。これは立法事実、政策事実に関する条件である。コストカットできるという単純な理由で議員定数を決めてはいけないといことになる。提案するには、自治のあり方から、きちんと組み立てて、どのように自治をつくっていくのか、議員が欠けた穴をどのように埋めていくのかという展望を示すことが必要となる。議員制度は、地方自治の基本なので、こうした議論は当然のことである(この点は、立法事実、政策事実に関する問題で、提案者はきちんとした理由を示すことが求められる。この点は、次回以降)。

 では、市長も議員定数に関する条例を提案できるとする根拠はどこになるか。

 ③消極的な理由としては、委員会についての自治法109条は「普通地方公共団体の議会は、条例で~」と明確に議会の権限としている一方、定数についての90条91条は「定数は、条例で定める」とのみうたい、長・議会いずれの権限ともしていないので、長も提案できると解することもできよう。

 ④積極的理由としては、団体意思、機関意思の議論が参考になる(野村稔・鵜沼信二、 『改訂版 地方議会実務講座第 2 巻』、 ぎょうせい)。
 議決には、 例えば条例の制定・改廃や予算の議決のように団体意思に関するものと、意見書の提出、会議規則の制定・一部改正、議員の懲罰などの案件が機関意思に関係するものがあるという議論である。

 団体意思というのは分かりやすいが、機関意思という言葉は分かりにくい。要するに自治体全体の問題なのか、議会独自の問題なのかの違いということだろう。いずれにしても、議会の意思決定には、この2種類があるという区分は有益である。例えば、議会で可決された条例は、それが議員発議によるものであったとしても、長が公布することになる(法16条2項)のは、これは自治体全体の問題なので、自治体を対外的代表する長が行うという論理である。

 そして、団体意思、機関意思という分類は、 発案権の所在に影響を与える分類とされており、 団体意思を決定する場合は、 一部を除き(予算の提案 (地自法 112 条 1 項))、 原則として、 議会の議員および長の双方に存在するのに対して、 機関意思の決定に関する議案は、 議員に発案権が専属するものとする。私は、市長と議会の関係を自治の共同経営者ととらえているが、自治体全体に関する条例は、共同経営者である市長、議会とも提案権があることになる。

 さて、議員定数であるが、これは住民の一方の代表者を選ぶ地方自治の基本事項中の基本である。議会プロパーの問題ではなく、自治体全体の問題なので、市長と議会のどちらかに提案権が専属的に属するとの規定がない場合(③)、市長と議会の双方に、提案権があるとみるべきだろう。







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