松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆政策起業家とは何か(3)要件②

2022-05-22 | 政策起業家
 政策の窓モデルは、J・W ・キングダン(Kingdon)によって提示された政策決定論である。ここに、政策起業家が紹介されている。

 キングダンは、アジェンダ(政策課題)設定過程を問題、政策、政治という3つの流れで整理している。
①問題の流れとは、いくつかの政策問題の中から、ある特定の課題が注目され、アジェンダとして関心を集めていく過程である。事件や事故などの注目が集まる出来事、統計資料など社会指標の変化、政策の評価結果などによって、問題として認識される。

②政策の流れは、いくつかのアイディアの中から特定のアイディアが政策案として提案される過程である。実現可能性を有し、政策コミュニティの理念・価値と合致するアイディアが政策案として残っていく。

③政治の流れは、さまざまなアクターの影響によって、特定のアイディアが政策として位置づけられる過程である。世論の動向、選挙とその結果、利益団体による圧力、官僚機構や委員会のセクショナリズムなどが影響を与えるとされる。政治や社会を覆うムードや世論も大きな影響力を持っている。

これら3 つの流れが合流するとき、つまり
(1)政策立案者に取り組むべき政策課題として認識され
(2)実現可能性や価値観に合致した政策アイディアが練られ、利用可能な状態にあり
(3)政策変化の契機となるような政治的変化が生まれ、障害となる諸制約が存在しない
という条件を満たすとき、政策の窓が開かれるということになる。

政策起業家は、このそれぞれに関わる。
(1)問題の流れ 
 政策起業家は、政策担当者が気づいていない課題を提案し、特定の問題に対する関心を深めて、アジェンダをより高位に押し上げるために活動する。
 そのため、
・重要な問題であることを数値や証拠に基づいて客観的に明らかにし、行政や市民団体といった政策コミュニティの構成員たちの注意を引き付ける
・政策に起因する事件・事故などを分かりやすく読み解き、問題の存在や意味を気づかせようとする
・キーマンと面接し、問題の意味を理解してもらうように働きかける

(2)政策の流れ
 政策起業家は、政策課題に取り組もうとする政策決定者に対して、その解決の方向性や具体的手段に関する理論や政策案を用意し、政策の窓が急に開いても対応できるように、あらかじめ準備しておく。
・政策の意義や必要性、政策の体系や内容、国や他自治体の動向等を調査し、論文やレポートにまとめておく
・雑誌やインターネットで、政策内容を公表し、いつでも使える政策案があることを示しておく

(3)流れの合流
 政策起業家は、問題、政策、政治の流れを合流させるという役割も担う。自らの有する専門的知識や体験、情報、人脈、時間といった資源を積極的に活かして、流れを合流させることに注力する。

 このうち、一番難しいのが(3)で、最大の政策決定者である市長を動かすのが難しい。どこが難しいかというと、市長の最大の関心事は、選挙であるが、有権者は、優れた政策、時代のリードする政策で投票行動を決めるわけではなく、もっと身近で、分かりやすい政策に、惹かれるからである。

 若者政策で言えば、多くの市長さんは、「大事なことだ」というが、マニフェストに掲げない。そのなかで、唯一、「私もそう思う」と言って、マニフェストの第一に掲げたのが、前新城市長の穂積さんだった。この点については、何度か書いた。『自治するまちのつくり方』(イマジン出版社)

 なぜ、多くの場合、市長を動かすまでにはならないのか。簡単に言うと、政策起業家が提案する政策は、票にならないということだろう(その分、政治の流れをつくるのが難しい)。ただし、これは、私が提案する政策が、住民自治や民主主義の基本にかかわる政策といった、私自身の事情によるのかもしれない。市民の暮らしにより直截的な政策を提案する政策起業家ならば、票になると考えた市長さんは、乗るのかもしれない。そうした政策起業家もいてもいいように思う。



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