あの子はほんとうにつくづくヒメに似ている。
可愛くいじらしく可憐であって驚くほど執念深くてずるい。
従順で穏やかな朗らかな愛嬌を保とうとしていてそれでいてすがる。
ほしいものを声に出して言ったりしないし、人に具体的なお願いもしない。
それでいて、自分の傍にいてほしいって勝手に思っててそして自分の望み通り
じゃないと、はっきり言えばいいのに言わずに勝手に傷ついたように見せるか
、必死に繋ぎとめようとやっきになるか、半ば自暴自棄になった発言や行動を
とる。勝手なんだな。自分が愛されてるのが分かってるからそれに甘えて
振り回そうとするんだけど、ちょっと離れたりすると繋ぎとめようとする
ずるさ。それは未熟で稚拙な子供らしいわがままなのだ。未熟なずるさ。
そのことに君は気づいているのだろうか?
私は変わった。否変えた。髪を短くして、新しいコートを買って、香水を
まとって、苦手な料理にも逃げずに挑戦した。
みんな変わったって言ってた。一番言ってたのは気づいたのはヒメ子。
驚いていた。一番。
「先輩変わられましたよね」って。で、すごい驚いてて何か言葉を続けようと
するんだけど、それは周りの声にかきけされて。
先輩がね、ヒメ子の恋バナ探ったの。何もないって否定して。
ほんとかよって思って。あってないって言ってるのだ。でも信じていたい。
君の言葉を。そして君の無自覚の愛らしさとずるさがまたこう言うのだ。
「先輩は僕の味方ですよね」
せつない哀願する揺れる瞳で私を見つめる。それがずるいんだ。無自覚なんだ。
無自覚で私の心を利用するようにして。計算の方がまだマシだっつうの。
心から助けを求めるんだ。いつもそういう役回りだ。私に護ってほしいのだ。
で、問題なのがまた誤解してて。トンチンカンな僕の姫君は。
「料理もできて髪も短くして素晴らしいイメチェンをした先輩になにか
あったに違いない。彼ができたのかも?」ってまた迷走を豪語。
そんであっけらからんとからかって騒いでるなら、私もああこいつにとって
私の告白は過去のもので私はお前を忘れてとっとと新しい男に走ったって
思われてんだって感じじゃない?でもまたまたずるいんよ。
そんで新しい恋を応援します☆みたいな態度でいるべきじゃないか?
つらいけどよ。でもね、あいつ2人になった時にあいつからわざわざ
言ってきたんだぜ。
「今度の人はお金持ちなんですか?」って。
私がコートと時計してるからって。プレゼント魔だと思ったらしい。
それでさ、それを無邪気にからかうように言ってるならギャグじゃん?
そんならさまあつらいけどギャグで返せるじゃん?
なのにその言い方と表情ときたら!
あいつ私をまっすぐ見て、またあの濡れたずるい愛らしい眼でせつない表情で
真顔で聞いてきた。どうしたらいいかわからなかった。なんでそんなせつなく
寂しげな顔すんだよ!新しい男探せって言ったの誰だよ。ほらこれだ。
自分が選ぶ立場になったことで勝手にやめにしたくせに、離れてしまうって
思うと必死で繋ぎとめようとするんだ。未熟で無自覚だから始末に負えない。
そんでお前が好きだから好きになってくれるかもって変えたこと、
本気でお前を好きなことを言おうとした。だけど僕に余裕はなかった。
その応えはやっとで。
「違うよ。私はなんにもないよ」
そしたら聞いてもいないのにあいつはこう言う
「僕もなんにもないですよ」
なんでそんな言い訳するの。先輩に問い詰められて私にだけは疑われたく
ないらしいのか。複雑。
ホントは似てるのは僕らなんだよ。悲しいほど痛いほど似てるんだ。
心の奥底が似てるから分かりづらいんだけど。ばかなんだ俺らは。
無駄に傷つけあってる。
ほんと明るく振舞って軽口開くたびにどんどんお互いに傷ついていくよ。
意地っぱりで無意識に残酷ででも情が深くてどうしようもないのに
素直に相手に伝えるのが下手。だから逆さに伝わってしまう。
卑屈な意識が理解を逆さにする。だからすぐ誤解と猜疑でいっぱいになる。
嘘と妄想で塗り固められた異形が、さも真実であるかのように意識にのさばる。
大切なんだ。ほんとに。この未熟もののこと。我儘言わない我儘な姫君のこと。
受け入れたい。こいつ護りたい。他の誰でもなく俺の手で幸せにしたい。
守り抜く、その体、心、意志、手折られぬように。
一心に愛を注ぐよ。決心した。覚悟した。このバカを護り抜くって決めて
しまった。新しい男に攫われてしまわないようにしながら、このバカの
我儘をぶっ壊して、この可愛い人のばればれの芝居ぶち破って、この手で
愛するとありったけの真実の愛のたけをぶつけてみよう。
僕は自分の愛のことばかり考えていた。こいつといる自分の時間、こいつから
自分に向けられる笑顔、言葉、メール、表情。自分の手元にあるあいつだけ
に夢中になって見失ってたんだ。
だけど自分の気持ち伝えて、あいつと向き合ってみたら、落ち着いてあいつを
見るようになった。そして思ったんだ。本当にあいつがすきだって。
あいつは私の太陽なんだ。あいつが僕にくれたもの注いでくれたものばかりだ
った。その太陽自身の幸せを私は考えたことがあったか?
今度は僕が君を幸せにしたい。僕のこの手で君の悲しみを癒し、闇から光を
照らすよ。どんなときも味方でいてなにがあっても君を護るよ。
愛しい花よ。