「ふあがああああああああ」
そんな大きな欠伸の音が響く。ビリビリビリ――とまるで吹き飛ばされそうになるから、小頭は必死で耐えた。腕を顔の前で交差して畳を擦って後ろに押されそうになるのを必死に耐える為に自身の脚に力を入れた。
「はっはっ――」
呼吸が浅くなる。心臓が早鐘を打つように鼓動を刻み、起きたばかりだというのに全身が熱い。いや冷たい? まるで心臓を握られてるかのような……そんな冷や汗に寝汗とは違う水分で小頭はびっしょりとしてた。
(なんで? どうして?)
そんな思いが小頭の頭には回ってた。だっていくら考えてもわからない。昨日の夜、そのことを思い出してみる。他愛もない会話をして寝たのを覚えてる。最近はとても寝つきがいいからあいまいだが、だからってもしも昨日の夜から野々野足軽がこんな風になってたら強烈に覚えてるだろう。でも、昨夜まではそんな事はないはずだ。
じゃあ、この目の前の鬼のような人物は誰? それに……兄である野々野足軽は一体どこに? 小頭は自然と視線が下の方にいく。それはお腹のあたりだった。もしかしたらポッコリと膨らんでんるんじゃないかと思ったのだ。だってどう見ても目の前の相手は鬼……のように見える。悪魔とかも考えられるが、翼とかはない。それに額に突き出てる二つの角は悪魔という程大きくない。帽子とか被れば隠せそうというかある程度目立たなくすることだって出来るだろう。
さらに言うと大体人っぽい。これで雷柄のトランクスでも履いてたら完璧である。
(お腹は……膨らんでない……か。じゃあお兄ちゃんは……)
鬼のお腹が膨らんでないことに小頭はホッとした。けどそうなると足軽はどうなったのか? という疑問がわく。でもそんな場合でもない。だって次の瞬間食べられるのは小頭自身かもしれないのだ。どうにかして逃げたいところだ。でも……逃げるといってもどこに? ここは片田舎で、それにお爺ちゃんとおばあちゃんの家なのだ。逃げ出した所で二人はどうなるのだ? そういう考えがグルグル回ってる。そんな中、ふと欠伸を終えた鬼と視線がかち合った。
(やばっ!?)
視線をすぐに外そうとした小頭。でもダメだった。全く持って視線が外れない。まるで固定されたように半裸の鬼を見てしまう。そして向こうも瞬き一つせずに小頭を見てる。
(食べる? 食べるの?)
カタカタと体が小刻みに震えだす。するとゆっくりと鬼の口が開くのが見えた。本当はそんなゆっくりでもないのかもしれない。でも、今の小頭にはゆっくりに見えて、鬼の凶悪な牙が鮮明にみえてた。
「お――」
「きゃああああああああああああああああああああああああ!!」
声が聞こえた瞬間、小頭は叫んで背を向けて逃げ出してた。襖もスパーンと開けて、階段を駆け下りる。