歌うように語ろう

観劇や観戦(主にフィギュアスケート)等について語るブログです
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東宝エリザベート 2015-2016

2015年09月20日 | 観劇関係

もう閉幕してひと月近く経過しているので遅きの感大いにありですが、ちょっと更新のリハビリ?もかねて軽く感想を書き留めてみます。

観劇関係の方が正直書き方にとても気を使うのですが(以前噛みつかれたこともありますしねw)当然のことですけどもまた改めて注意書きを冒頭に書きます。

その注意書きを無視して度を越したコメントを残された場合は削除する場合もありますのでご了承ください。

よろしいですね、ちゃんと書きましたよ?

注意書きはたったこれだけ。感想はあくまでも私の私見によるものですので押し付ける気もないですし正しいとも言いません。

ですから読まれたあなたの意見と違ったとしてもそれはそれで結構ですが、事実関係の訂正を除き意見の削除や更改の求めには応じません

世間にはたくさんのブログがありますので、ご自分の意見と合うところを探すなり、黙ってブラウザバックをすることをお勧めします。

私はこう思ったというご意見は場合によっては拝聴しますが過度に一方的かつ攻撃的なものは受け入れかねます

 

さて、始めましょう。

3年の間隔を置いて開幕した東宝エリザベート、まず特筆すべきは演出と舞台装置の大幅な変更に加えて、キャスト陣が一新されたことです。

全体的に若返ったキャスト一覧を見て期待と不安を抱きつつ帝劇に足を運んだのが6月14日。最初に観たのは花總シシィ+城田トート

(佐藤フランツ・京本ルドルフ・尾上ルキーニ)でした。

まず焦点として注目したのが「伝説のシシィ」として国内では名高い花總シシィが帝劇ではどんなシシィ像を魅せてくれるのか。また、5年前に旧演出で

トートを演じた城田さんがどう変えてくるのか、あるいは変わらないのか。ミュージカル経験が乏しい佐藤フランツは果たして皇帝に見えるのか。

ジャニーズJrであり京本二世であるルドルフは、梨園の人気役者松也はいかに?

結果として上々の滑り出しでした。特に、今までずっとタイトルロールは同じ宝塚OGとはいえ男役から迎えていたものが娘役からということで

エリザベートの強さやエゴイスト(だと本人はあまり思っていなかったのではないかと史実を紐解くに思われますがそれはさておき)ぶりをどのように

花總さんが表現するのか興味津々でしたが、少女時代から晩年までとても自然な流れで演じ続け、特に秀逸だったのが一幕ソロの「私だけに」、

今までこのソロでここまで感動したことはなかったというほど心動かされたことは忘れがたい記憶です。

また、前回5年前はどうしても歌唱に不安定さがぬぐえなかった城田さんも5年間の経験をきちんと活かし、舞台上では余裕さえ感じさせてくれました。

もっとも、ご本人いわく前回同様胃薬のお世話になっていたそうなのでプレッシャーは前回に負けないほどのしかかっていたのかもしれませんが。

後述しますが、Wキャストのもう片方である井上さんとは全く異なるトートで双方それぞれ良さを存分に享受できました。歌詞の中にある「蒼き血を流す」トートとしては

城田トートの方がより人間離れしている印象を強く受けるものでした。城田トートが青い炎ならば、井上トートが赤い炎といった具合でしょうか。

佐藤フランツはオペラ歌唱ならではの聴かせる歌で皇帝としての威厳を表現しましたが、どこか妻であるシシィに対してどう応えていいのか測りかねているフランツ像に

見えました。優しさを持て余すというか、自由を求め続ける妻を束縛しないことでのみ愛を示すかのようで。一方の田代トートは生まれながらのロイヤルイメージがにじみ出て

いるかのような皇帝らしい皇帝に映るのとはまた違って、私はどちらのフランツにも好意と同情を抱かずにはいられませんでした。

京本ルドルフは若さゆえの暴走と幼さが悲劇を招いたのだと熱演から伝わってきました。歌唱に癖があまりなく、音階を外れて歌うこともほぼなかったのは期待以上でした。

二度目の登板である古川ルドルフからは自らの意志で革命に身を投じ強く生きようとしたものの、どこかでボタンを掛け違えてしまい歯車が狂ったまま時代に翻弄され

最後は人生への絶望と疲弊で自ら命を絶った皇太子像が見えました。途中降ってくるハーケンクロイツの旗を足で踏みつける一幕には静かながら彼の激情が

伝わってきたものです。

そして、ずっと長きにわたりシングルで演じられていたルキーニがついに若手二人のWキャストで実現しました。私はこの変化をおおむね歓迎して観ました。

尾上ルキーニは前任者の狂言回しポジションをかなり踏襲する演技プランのようでしたが、良かったのはせりふ回しが非常に聞き取りやすかったことです。

6月下旬に難聴の母を伴い観劇した際にも聞き取りやすいと好評でした。

一方の山崎ルキーニはかなり独自色の強いルキーニでした。歌唱力は文句なしでしたが、好き嫌いが真っ二つに分かれるルキーニだと思いました。

良くも悪くも「山崎育三郎」が前面に出ているルキーニ像に私の目には映りました。

そして、今回はトリプルで臨んだ少年ルドルフはいずれもレベルが高く安心してみていられる良いキャスティングでした。個人的には松井月杜くんの

少年ルドルフが秀眉だったように見受けられました。

 

そして、別の日に観た井上トートは予想に反し、どちらかというと宝塚のトートに寄せてきているように私には見えました。

ミュージカル界の若きプリンスと呼ばれる彼ならば、おそらく本家ウィーン版を踏襲した王道路線で圧倒してくるかなと予想したものの、

やや違っているように私は感じました。

もちろん彼の最大の武器である歌唱力は申し分なかったですし、ウィーン版とかけ離れているというほどでもないのですが、そこかしこに宝塚の気配を感じさせる

ようなトートというべきか。非常に抽象的ですが、あえて言うなら城田トートが人間離れして見える所為かより男性的なトート(もちろんそれが間違っているとは微塵も

思いません)に見えたのです。言うなれば、人間臭さをどこかにはらむトートといった印象でした。前述のとおり、城田トートが青い炎ならば井上トートは赤い炎に

見えたのです。そして、城田トートが押したり引いたりの駆け引きをどこか楽しむかのように見える一方で、井上トートからは強いシシィへの執着と情熱をより感じました。

それゆえ赤い炎に見えたのかもしれません。

蘭乃シシィについては非常に書き方を迷うところですが…シシィの我の強さやエゴイストは存分に感じさせる芝居だったと思います。

しかし、言いにくいところですが非常に歌唱が不安定だったので(特に「私だけに」「私が躍るとき」)ちょっとはらはらする場面が多かったことは否めません。

彼女には彼女の良さもあるのでしょうし、昨年宝塚で最初で最後の観劇(「エリザベート」です)をして彼女のシシィを見たときはそれほど不安定さを感じなかったの

ですが、今回は今一つしっくりこなかったのが私の正直な感想です。蘭乃さんのファンには申し訳ないですが。

ひょっとしたら、退団後初の男女混合の舞台で男性とのデュエットなど、宝塚時代からのシフトチェンジがまだ不完全だったのかもしれませんね。

まだ若い女優さんですし、今後の頑張りに遠くから声援を送ることとしましょう。

そして、田代フランツは2010年から5年で見事に息子から父帝へと姿を変えて登場してくれました。安定した歌唱はもとより、ぴんと伸びた背筋や佇まいからも

皇帝の自負と誇り、そしてオーラがしっかりと伝わってきました。シシィへのアプローチは「溺愛しながらも自分の身分を決して逸脱しない」したがってどんどん距離は

広がるばかりなのをわかりつつも諦観の中、遠くからシシィを見守る孤独な皇帝像が悲哀を込めて演じられていたように見受けられました。

歌唱に関しては佐藤フランツと同等かもしくは佐藤フランツがやや優勢かなと思われる時もありましたが、演技で説得力のある田代フランツを見せてくれたと

思います。

古川ルドルフは前回2012年よりも少し声量が増して安心してみていられるルドルフに成長していたと思います。前回は、今年の京本ルドルフのような

若さゆえの暴走からの悲劇を演じているように見えましたが、今年は前述のような懊悩の過程が安定感を増した歌唱と演技に支えられて前回とは

異なる演技プランをもって伝えられたと思います。

二人のゾフィ―はどちらも甲乙つけがたい出来栄えでしたが、私がより冷たさを感じたのは香寿ゾフィーの方でした。彼女自身もまたハプスブルクの歴史の

歯車である矜持を持つが故の厳しさでもって容赦なく厳格な姑、祖母を演じているのに対し、どこか剣ゾフィーはシシィには厳しいものの孫のルドルフには

若干の躊躇を感じるときもありました。

ゾフィーが命尽きる前のソロで分かるように、彼女は決して息子フランツ(そしておそらく孫ルドルフも)が憎くて厳しくしてきたわけではなく、帝国を背負う

皇帝として立派たれと責任と願いをもって時には歌詞にあるように「心殺して」務めたわけです。

このソロ曲はこの作品が誕生した当初はなかった曲ですが、ゾフィーの人間像をちゃんと観る者の心に刻むためにもやはり必要な曲だと思います。

 トートとシシィの「私が躍るとき」も違う意味で重要な曲だと思いますが。

 

ところで演出と舞台装置も今回からかなり変わりました。特に舞台装置は大きく変わり、皇帝と皇后、そしてルドルフの棺が大きく強調されて終始移動しながら舞台上に

「君臨」しました。「私だけに」のような棺の高さが活きる場面もあったので全面的に否定はできないのですが、その一方でマイヤーリンクでのルドルフの懊悩から自殺へ

移るシーンなどでは少しダンスに物足りなさを感じるときもあり、もうちょっと見直してもらえると個人的には嬉しく思います。

演出では最大の変化が小池先生も語る通り、落命前のトートとのキスがシシィ・ルドルフ共に自分から(前回まではトートから)に変更になったことでしょう。

これは彼らが能動的に死(トート)を受け入れたという解釈を導入したものと推察します。

トート、つまり死は概念であり具現化でもキャラクターとしての存在を疑問視する考え方もあるかと思いますが、私はやはりシシィやトートが身近に感じ、そして

ついに受け入れたトートという存在は彼らの潜在意識や願望から来る存在ではあるものの、やはりこの作品においては死の具現化であり象徴でもあるというのが

私の解釈です。

もちろんどのように観るかは観客各々の自由であり、正解・不正解を争うのは野暮だと思うのでなんとも言えませんが。

 

 

そして、今年の前楽では早くも来年のツアーが発表されました。

東京に始まり10月の名古屋に終わるという長丁場ですが、なるべく多く今回のキャスト陣にまた「エリザベートカンパニー」の一員として再会できればと願っています。

 

短くするつもりがだらだらと長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださいました方、ありがとうございました。

 

以上


レディ・ベス観劇雑感

2014年05月04日 | 観劇関係

クンツェ&リーヴァイコンビによる新作ミュージカル「レディ・ベス」を観て参りました。

プリンシパルの簡単な感想とともに、演出やストーリーなどについても少々語ってみたいと思います。

あくまで一個人の感想なので、お読みになる方と感想は同じとは限りません。そこは感覚の相違ということであしからずご了承ください。

 

さて、私は一応メアリー以外のプリンでWキャストは両方観たのですが、それぞれカラーが違ってそこは興味深く観劇できました。

まずはベス。どちらの役者さんも私にとっては初見(声優ファンでも宝塚ファンでもないので…)でまっさらな目で見ました。

その上での感想としては、平野ベスは歌で押し切る勝気なベス、花ふさベスは芝居とオーラで君臨するベスという印象でした。

平野ベスは期待以上に歌唱部分については良かったと思うのですが、若干やんちゃで勝気さが勝って見えました。

それが悪いというわけではなく、そういう個性として面白く拝見しました。

一方の花ふさベスは一幕では少し歌が弱いかなと思ったのですが、二幕にかけてどんどん意志を示すとともに盛り上がりを

感じました。ややおとなしげな雰囲気からより一層の数奇な運命を裏付けるような芝居だったと思います。

体格は平野ベスより大きいくらいだと聞いていますが、きゃしゃで小柄に見えるのが不思議でした。可愛らしさの中にも

気品と気高さをアピールする「レディ」らしさを感じました。

 

山崎ロビンは安定の歌唱力で聞いていて安心する歌声でした。花ふさベスとの組み合わせで観劇したのですが、ぐいぐいとベスを

引っ張っていくように感じました。そしてどちらかというとクールなロビンに映ったのが意外でしたが、終始危なげなく新作と言えども

魅せてくれました。

加藤ロビンは見た目だとクールなのですが、芝居に入るととても情熱的に感じました。歌唱は以前よりもさらによくなっていると思います。

滑舌がもっとよくなり歌詞が聞き取りやすいともっといいなと思いましたが、私が聞き取りがあまり得手ではないからゆえの感想かもしれません。

 

メアリーは上記の通り未来さんのみ見たのですが、風格や威厳からしても英国女王として支持されていてもおかしくない気品と説得力を

感じる歌と芝居でした。特に威圧感さえ覚えるオーラで、強引ささえなければもっと民衆がついていったのでは…とも思ったり。

実際史実で今まで「ブラッディー・メアリー」として批判の的だったのが歴史を見直そうという動きの中でまた違った見地が出ているとか。

病を得て若い夫には去られ、彼女も孤独にずっと耐えていたのだと二幕後半では哀愁を漂わせ歌い上げます。考えてみれば

彼女も父王や歴史の流れに翻弄されていたのですよね。

 

そしてメアリーが生涯忌み嫌ったベスの母アン・ブーリン。和音さんの歌は安定して聞けましたし彼女自体には文句はないのですが、

亡き母としての出番がちょっと多すぎるかなと感じました。個人的に父王ヘンリー8世の言い分を一曲でもいいので歌に託して聞いてみたかった

と思うのですが、これはたぶん少数意見ですかね(笑)

 

フェリペ王子は出番の割には思ったよりも個性の違いが出たような気がします。

平方フェリペはそれほどはじけず冷めた目で女に手を出しつつ俯瞰で周囲を見ているように感じさせてくれました。ベスへの介入も考慮の上という

クレバーな王子と言ったところでしょうか。

一方の古川フェリペは周囲を引っ張りまわす印象。平方さんも歌が良くなっていましたが、古川さんも更にうまくなりましたね。安定感が出てきたように

思います。芝居では、本当に女好きで好きなようにふるまう自由人の雰囲気が特に感じられました。

 

キャット・アシュリーの涼風さんはいつも通り安定した歌唱でした。地味目の役どころなのであまりオーバーアクションな演技も出ずよかったです。

 

家庭教師のもう一人、ロジャー・アスカムは石丸さんと山口さんでこれまた大きく印象を変えているなと今日深くそれぞれ拝見しました。

山口ロジャーは父のような包容力を感じさせる柔らかな歌声と余裕を、石丸ロジャーは優れた教師として知恵を授けるいかにも家庭教師らしさを

芝居の流れの中で聞き取りやすい歌で表現していたと思います。

 

ガーディナー卿の石川さんはコミカルな演技と悪役然とした迫力のある歌で見事にメリハリがついているのがさすがでした。いつもしっかり脇を支えて盛り上げて

いく仕事ぶりには安心感と信頼感を持てますね。

 

そして、ここからは歌や芝居の演出などになりますが、楽曲自体は英国風やスペイン風も織り交ぜつつ悪くないなと思いました。

しかし、演出やストーリーの流れの中で疑問に思うところもいくつかありました。その一つが上記のベスの母アン・ブーリンの出番の多さでもあるのですが、

他にも気になったことを以下にいくつか書き留めていきたいと思います。

 

まずはベスとロビンの恋の顛末の描き方です。恋に落ちる流れも若干強引に感じたのですが、それ以上に引っかかったのがロビンとベスの逢瀬です。

バルコニーでのやりとりにものすごく既視感を覚えます。そう、ロミジュリにそっくりなのですよね。その後悪夢を見て飛び起きる(ここはロミオとベス、男女逆ですが)

ところまで似ています。私が何度もロミジュリをミュージカルで見ているせいもあるのでしょうが、ここはすごく気になりました。

 

それと、ロビンへの想いと王座の間で揺れ動く心情はもっとじっくり描いてほしかったですね。また、二幕最後の王座に就くベスの姿はもっとスポットライトを

当ててほしかったですし、ロビンへの思いがまだベスの中で未消化で残っている設定にせよ、終幕はもっと盛り上がるハッピーエンドらしい演出が

欲しかったです。盛り上がる楽曲や大きな歓声などがあればと、正直物足りなさを覚えました。

 

今回の日本公演が初演(ワールドプレミア)ということになりますが、もし海外で上演されるとしたらどんな演出でどういう評価になるか気になります。

いくつか要望も書きましたが、私はそれなりに楽しめたと思います。ただ、どうしてももう一度無理をしてでもまた見に行きたいかと問われると、

うーん…?と考え込んでしまうような舞台でもありました。

役者さんたちにはほとんど不足は感じなかっただけに、そこは残念に思います。

でも、新作ミュージカルを見るとき特有の新鮮な気分を味わえたことは良かったと思っています。

 

以上、簡単ですが個人的な所見を書き記しておきます。

 


渋谷ヴェローナ~ロミオ&ジュリエット2013 感想諸々

2013年09月28日 | 観劇関係

3日4回観てきて、大体の感想を少しずつ書き留めたものをまとめてアップします。

なお、清水ジュリエットは予定していた日に休演だったこと、また大貫死はスケジュールの都合上持っていたチケットは

身内に譲渡したので主なプリンシパルではこのお二方については感想はなしです。

また、感想はあくまでの一個人の趣味嗜好にすぎませんし、違う感性の方もいらっしゃるでしょうが感じ方に正誤はありません。

ご覧になるあなたのご意見と異なったとしても、悪しからずご了承くださいませ。

それでは以下、キャスト毎に感想をまとめてまいります。

 

<城田ロミオ>

特に歌唱力で前回以上の安定感を見せ、安心して見られました。総合力の高いロミオだったと思います。

一幕では仲間たちとの友情を屈託なく、またジュリエットへの愛を含めて幸福感溢れる様子を体いっぱいで演じたからこそ、

二幕の悲劇性がより引き立つように思います。

4Starsを経て歌唱力で進化を遂げつつも、実年齢よりも10歳近く若い役どころをみずみずしく表現できていたのではないでしょうか。

惜しむらくはダンス。世界の王でのダンスは、恵まれた体型、中でも長い手足が活きるようにもっと大きくメリハリのあるダンスで

魅せてくれたら更に良かったなと思いました。

 

<加藤ティボルト>

歌手活動はともかくミュージカルのプリンシパルとしての経験値はそれほど積んでいないはずと記憶していますが、それでも

強さと大人の色気が漂う魅力あるティボルトでした。ジュリエットへの愛を静かに秘めていながら、自らの置かれた立場へのやるせなさなど、

苦悩が存分に伝わってきます。ソロは高音域など難しい曲がありますが、うまく歌い上げていたと思います。時折見せるシニカルな笑みも

ティボルトの複雑な内面を奥行き深く見せてくれました。加藤ティボルトからは「苦悩と絶望」を特に感じ取れたように思いました。

 

<フランクジュリエット>

前回初演公演では初々しさと共に新人ならではの不安定さも目立ちましたが、再演までに他の舞台での経験も積んだこともあり、

初々しさはまだ少し残しつつも、ご本人の言うような強い(意思を持った)ジュリエットが健気さや一途さと共に表現できていたと思います。

まだ本当に若いだけあって、成長著しいのが本当に頼もしく、安心して見ていられるジュリエットになって帰ってきてくれてとても喜ばしく思いました。

特に歌が安定して外れずに歌いながらも、しっかり感情が乗せられてこちらに伝わってくるのが心地いいですね。

今後も別のステージでの活躍を期待しています。

 

<尾上ベンヴォーリオ>

梨園の方のミュージカル歌唱に興味津々で拝見しましたが、安定・安心して聴ける歌唱でした。それに加えて、一幕は狂言回しを彷彿とさせるような

テンポの良さでメリハリよく台詞運びが進み心地よく耳になじみました。一幕がコミカルな演技なので、強いて言えば二幕でもっと悲壮感を強調して

頂けると(「どう伝えればいい」など)いいような気もしましたが、概ね満足していますし素敵でした。

 

<平方ベンヴォーリオ>

前回とは違う役での登板となりましたが、想像以上にしっくりきました。心なしか、前回の浦井ベンと演技プランが似ているように思えます。

(真似しているというわけではないですよ)歌は安定していて耳になじみましたが、若干台詞を急ぐ傾向にあるのか聞き取りにくい時がありました。

私の耳の問題もあるかもしれませんが、滑舌ももう少し明瞭だと台詞が聞き取りやすくて助かります。総体的には尾上ベン同様安定した歌と演技でしたね。

 

<水田マキューシオ>

まだ舞台経験が浅く若い役者さんですが、期待以上に健闘しておられたと思います。若さゆえの暴走が、フレッシュな演技で表現されていたのでは

ないかと思います。歌唱力に関しては、もっと経験を積んでいけばさらに伸びるかと。

余談ですが、大公と似ていないせいもあるのか甥にはさっぱり見えないのがなんともはや。もちろん水田さんが悪いわけでは全くなく、見た目の印象の

話です。まあどうでもいいですね。

 

<東山マキューシオ>

悪いことを悪いと分かっていてやってしまうマキュという印象を受けましたが、なぜかこちらは背反するイメージなのに大公の甥に見えました。

理由は全くわかりませんが、単に雰囲気の問題でしょうか? 

歌はもちろんですが、演技や細かい所作にも少しの余裕が感じられました。

 

<中島『死』>

静かに、時に激しく本当に人外の雰囲気を存分に発揮する「死」ですね。個人的に好みに合うのか、かなり目を引かれました。

相変わらずピルエットがぶれずに綺麗で素敵な舞踊を見せていただきました。この方だけはカテコでも「死」のまま(人間に戻らない)のが

ちょっと面白いですね。中身も個性的な方なのかもしれません。

 

<宮尾『死』>

もちろん綺麗に、かつダイナミックに踊れているのですが、不気味さを感じさせる「死」にはあまり見えなかったような気がします。

あくまで抽象的な存在であり、観客の受け取り方にゆだねられるキャストなので私の感性と合わなかっただけかもしれません。

ただ、不満なのかというとそういうわけではないです。ダンサーも個性が色々だなと思った、それだけのことです。

スケジュールが合わないので見られませんが、Kバレエで白鳥に出演されるらしいので、関心を持った程度には好感を持ちました。

 

<古川ロミオ>

一言でいうならば「幸薄ロミオ」。どことなくつかみどころのない印象でした。確かにロミオとしてはこれもアリで、それだけに二幕での

悲劇的展開に説得力がありました。時々声量が落ちてしまうのが残念ではありますが、2012年のルドルフ役(「エリザベート」)の時よりも

更に経験を積み、期待以上に検討されていて素敵なロミオだったと思います。

 

<柿澤ロミオ>

期待通りの歌唱力には満足しています。予想外にも「世界の王」でのダンスは3人のロミオの中で一番シャキシャキ踊っていたように

見受けられたので驚きました。彼の場合は一幕での歌や踊り、仲間との芝居に説得力を感じました。全体的にポテンシャルの高さは

十分に魅せて下さったと思います。

 

<城田ティボルト>

ラスボスと言っていいような存在感の大きさに圧倒されました。恵まれた体躯のおかげもあるのでしょうが、一対一だと歯が立たない、

キャピュレットの女たちが言うような「頼りになる男」像としては説得力がありました。ロミオとの演じ分けはどうかと興味を持ってみましたが、

見事に演じ分けできていましたね(もちろんそうでなければ困惑しますが)いつ切れるともわからない危険な男、という評はこちらの方が

より危険度が高そうに見えました。一歩間違うとチンピラかと。しかしその一方で秘めた思いが全く報われないことに対する怒りや

悲哀も感じさせてくれました。

 

<その他プリンシパルについて>

新しくなったロミオママは前回キャストよりも強い歌唱でジュリママと堂々と渡り合えてよかったと思いつつ、衣装がそのままなのが

残念でした。前の方には合っていても、今回のママにはちょっと…。

その他、石川、涼風、ひの、未来、安崎各氏らベテランが今回もいい仕事をして下さったと思います。若手プリンシパルが生き生きと

動き回るのをベテランが脇で支え要所要所を締めて下さるからこそ、単に若手が暴れまわるだけの舞台にならずに済みます。

特に3人のロミオに少しずつ異なるアプローチをしていた未来さん、安崎さんの演技にはコミカルな中にも緻密な計算が見て取れて

さすがだと感じ入りました。

 

演出やチケットの売り方など、運営や裏方には少々不満はあるものの、舞台そのものやキャスト陣には概ね満足しています。

このまま大阪千秋楽まで、これ以上のけが人が出ることなく無事終幕できるよう祈りつつ、個人的な感想をしたためさせていただきました。

 

以上


2012年観劇-感激覚書

2012年12月20日 | 観劇関係

今年もいろんな舞台を見る機会を得ました。

今年後半は、親族の体調問題があり大幅に趣味を控えるようになったので前半が多いですが、特に良かったと思う舞台を

いくつか思い出とともに記しておきたいと思います。

来年も親族の体調次第ですが、おそらく今年後半並に出かける機会は減りそうですので、楽しかった記憶を反芻する、ほとんど

自分の自己満足です。まあブログ自体そんなようなものですよね。

 

*東宝「エリザベート」(5月~6月)

まだいろんな意味で余裕があった頃なので、何回か通いました。トート3人とシシィ二人、ルドルフ3人それぞれ見ることができました。

さすがに全部の組み合わせは見られませんでしたが、やはりエリザは私の中でも屈指のお気に入り演目だけあって、毎回細かい発見や

ささやかな感想が折り重なってゆきました。

今年のエリザツアーで注目を浴びたのは、やはり本家でトートを演じているマテ・カマラスさんが日本語でトートを演じたことでしょうか。

賛否両論ありましたが、私はマテトートやっぱり好きです。心なしか、ウィーン版より大人しめのトートのように感じましたが、日本のシシィに

あっちのノリで野性的に演じてしまうと合わない気もしますし、それはそれで良かったのかなと思います。

シシィは春野さんと瀬奈さん両方それぞれにいいところがあると思いますが、一つだけ疑問だったのは春野シシィが「私だけに」を笑顔で

ずっと歌っていたこと。リプライズのところではなくて最初のいさかいの後の「私だけに」です。

私の解釈のシシィとは違った考え方で演じられたのでしょうし、もちろんおかしいとか難癖をつけるわけではないですが、半年たった今でも

記憶に残るくらい、私の中では新解釈なシシィでした。

 

*CLUB SEVEN 8 Stage(8月)

このシリーズで観劇するのは2回目になります。今回は男性キャストのみ。女性キャストがいた前回とはやはり部分的に大きく変えた部分も

ありましたが、50音順などはそのまま。難しいことは考えず、エンターテイメントに徹していて理屈なしに楽しめる舞台でした。

部分的にキャストもインアウトあり。ジャニーズの方が入ったのは初めてだと思いますが、TVへの露出より舞台畑でずっとキャリアを積んでいる

方なので思ったほど違和感なかったと思います。

おじ…もとい、おにいさん組とヤング組でそれぞれ持ち味がミックスしていて楽しい舞台です。また、時期は知りませんが次の公演が決まっている

らしいと風の噂で聞きましたが・・・次は行けないかな。ご縁があればまた観たいですね。

 

*フランス版 ロミオとジュリエット

全体的に安定したクオリティで大いに楽しめました。2つの理由で特に記憶に残っています。

理由その1.上演中に地震発生。微妙に動揺する観客席をよそに、舞台はそのまま続行。地震耐性は日本人の方が高いはずですが、

演技に入っている役者さんはさすがにプロです。ともあれあまり大きな地震でなくて何よりでした。

理由その2.ジュリエットアンダーの回に当たった。格別体調不良というわけでもなかったようなので、理由は分かりませんが発表されていたキャストではなく

アンダーのジュリエットで拝見しました。1回しか見なかったので、本来のジュリエットも見たかったですが、アンダーのジュリエットも十分良かったので

不満ではありません。

個人的にはカテコの時に大公様がすごく煽っていたのと、スキンヘッドの大柄な方だったのとで、ものすごくインパクトを感じ忘れられません。

大公様(のキャストさん)、また日本に来てくださいね。

 

*ウイーン版 初演20周年記念コンサート エリザベート

本来のミュージカルとしてではなく一応コンサートと銘打っての公演でしたが、ちゃんと衣装を着てダンスも結構入っていたので、ほとんどミュージカルを

そのままみている気分で堪能させて頂きました。

エリザベートを長年演じられていた、マヤ・ハクフォートさんが今回のツアーをもってエリザベートを卒業ということでしたが、やはりさすがの歌唱力と

存在感に圧倒されました。

私は歌だけでしたらピアさんや現役のアンネミッケさんの歌もかなり好きなのですが、トータルで語るならばやはりマヤさんのシシィは特にすばらしいと

思います。シシィの威厳や孤独感、感情の動きがとてもよく伝わってきます。

今後マヤさんのシシィが見られなくなるのは残念ですが、最後に生で拝見できて満足です。

マヤさん、今までシシィ役お疲れ様でした。

 

以上、他にもよい舞台はありましたが、特に記憶に残るもののみチョイスして簡単な覚え書きとさせていただきます。

また来年以降もいい舞台と出会えることを願っています。


癌晴ったで賞―中村勘三郎氏逝去に思う

2012年12月06日 | 観劇関係

12月5日午前2時過ぎに中村勘三郎さんが逝去されました。まだ57歳、それほど重篤な状況とは報道されていなかっただけに

衝撃もひとしおです。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

芸の道に「完成」はなく、各々の役者さんたちは日々精進を重ね舞台やTVにと臨んでいらっしゃいます。

先日の森光子さんのご逝去にも非常にさびしい思いがこみ上げましたが、勘三郎さんの来春予定されていた公演を叶うなら見たかった

だけに、残念で仕方ありません。

むしろ還暦を過ぎてより一層、磨きがかかる勘三郎さんの歌舞伎が見たかったです。本当に悔やまれます。

 

しかし一方で、癌と闘ってきたご主人を思いやり、夫人のコメントには「癌晴ってきた」との文言がありました。

側で見守ってきたからこそ出る言葉でありましょう。

卑近な例で恐縮ですが、私の父も癌で闘病中です。手術も不可能な状態なので、我ら親族はなるべく可能な範囲で顔を出して

たわいもない話をするしかすべはありません。一番苦しんでいるのは本人ですから、ただ我々は祈るのみです。

 

勘三郎さんは癌というより肺炎からの呼吸不全が原因とは思われますが、まだまだ多くのやりたいことがあったことでしょう。

それでもあえて、いち舞台ファンとしては「癌晴ったで賞」を進呈し、心から生前の文化功労への感謝を伝えたいと思います。

 

どうか安らかにおやすみください。