月夜の明かりすら碌に見えない夜。
おまけに冬、北の台地となると死ぬほど寒い。
だがそんな中、現在大隊は伏撃地点で待機している。
計画通り狭い回廊を通過する帝国軍に対して奇襲を仕掛けるつもりだ。
当然火なんて起こせないので戦友同士で固まって暖をとるか(意味深)
己の剣牙虎に抱きつくかの2択で暖を取るしかなく自分は後者であった。
「響はいい、実にいい」
脇に座らせた剣牙虎。
名を響と言う自分だけの剣牙虎だ。
軍に放り込まれ、剣虎兵に関わるようになってから飼い始めた。
名前の由来は当然のことながら艦これの「響」である。
タマとかミーちゃんとか考えたけど猫にしてはでかいし、
勇猛さと愛らしさの両者を兼ねることができる「響」が自分的に一番しっくり来た。
ああ、戦争なんて忘れてこのまま一生もふもふしたい…。
「…中隊長。お楽しみの所失礼ですが、招かざるお客が来たようです」
なんてだらけていたら先任軍曹の現実を教えてくれた。
耳を澄ませば街道を歩く大勢の足音、そして僅かに動く影の群れ。
くそ、知っていますよ、ちくしょうーめ!
「中隊装填始め、膝撃姿勢。復唱はいらん。
大隊の合図まで撃つな、それと馬鹿が早とちりしないように見張れ」
私の命令を猪口が小声で伝達する。
あちこちで装填する音、マスケット銃なので銃口から火薬と弾を入れて押し込む音がする。
「出来れば来てほしくなかったな…」
そして装填している最中、そして装填を終えてからも帝国軍はその歩みを止めていなかった。
望遠鏡を使わなくても肉眼でハッキリと帝国軍の姿を捉えることができていた。
おまけにこっちの姿を見せたわけでもないのに強行軍らしく原作通りの大兵力で来たようだ。
今頃新城、もとい魔王様は内心で現状を罵倒しつつ色々と葛藤しているのだろうなぁ。
正直逃げたいけど、逃げれば軍法会議で死刑はまったなしだ。
で、この状況では逃げようにも逃げれない。
ああ、くそ戦場の扉が直ぐそこまで近づいている。
距離は120間、といった所か?
後もう20間ほど詰めた所で戦いが始まる、残された時間は――――。
なんて考えていたら射撃音が轟いた。
大隊の合図でも砲でもなく小銃のロケット花火のような甲高い音が。
よりにもよって自分の中隊からその音が聞こえた。
そしてそれを合図に私の合図なしに一斉に射撃が始まってしまった。
え、ちょ!!?
「緊張に耐えれなかった兵士がいたのでしょうね…」
猪口先任軍曹がため息混じりに解説してくれる。
あ、そういえば原作では偵察のさいに若菜と一緒に使えん兵士も見殺しにしていたな。
けど、こっちじゃ自分の死亡フラグを叩き折るため回避したけど、こんなバタフライエフェクトが発生するなんて…。
「あ、うん。ご苦労。
で、その早漏野郎の大馬鹿はどこの小隊にいたと思う?」
「新城小隊のようですね」
よりにもよって魔王様の下でやらかしたのか…。
こりゃ、死んだな。
魔王様は無能を死ぬほど嫌うし。
ん?
「大隊の合図です、中隊長!」
空を見上げれば真っ赤な信号弾が撃ちあがる。
ああ、こりゃこっちの早とちりに慌てて打ち上げたのだろうな。
直後、他の中隊から射撃が開始。
死と破壊を振りまき帝国軍の屍を量産する。
ああもう、後戻りはできない!
「中隊、装填急げ!!」
こうなったのも全て早漏野郎のせいだ!
後で早漏した馬鹿は生きていたら絶対〆てやる!!
絶対だ!