">【艦これ×皇国の守護者】
久しぶりにSSを紹介したいと思います、今回は1周年を迎えた「艦これ」のSSです。
作者はあの東方の先代巫女シリーズを執筆されている方で、緻密な描写、細かい心情表現が得意です。
何よりも、一話あたり1万字と非常に読み応えがあります。
「長門さんは、きっとアナタを英雄にしたいのです」
全く予想していなかった答えに、新城は目を丸くした。
「……なんだと?」
「いえ、もっと単純に、アナタの為に武勲を挙げたいのだと思います」
「僕の為に?」
「はい」
「ますます理解出来ない。何故、彼女がそんな動機に至るのだ?」
「それは、彼女にしか分かりません。彼女だけが見た、あるいは経験した何かが、その想いに至らせたのかもしれません」
「曖昧すぎる話だ。君の話も憶測に過ぎないし、何の根拠もないだろう」
「憶測には違いありませんが、根拠はあります。アナタの下で戦う艦娘として、私も同じ気持ちだからです」
「なんだって?」
「私も提督の為に戦い、そして出来ればアナタを誰もが認める英雄にしたいです」
龍田は笑いながら、そう答えた。
本心が透き通って見えるような、美しい笑顔だった。
新城は、今度こそ心の底から困惑した。
好意と敬意を込めた龍田の真っ直ぐな視線に耐えられず、
逃げるように目を逸らせば、傍らの不知火が同じように自分を見ていることに気付いた。
まさかと思い、天龍に視線を移せば、こちらも同じように笑っている。
三人の笑みが全く同じ意味を秘めたものだと、何故か理解出来てしまった。
「それは困る」
新城は硬い声で、かろうじてそれだけ言った。
「何、情けないこと言ってんだ。オレは龍田みたいに、アンタに偉くなって欲しいなんて思っちゃいない。そういうの、よく分からないしな。
だけど、アンタをオレがこれまで会った他の腑抜けた提督どもよりはマシな奴だと思ってるし、それを周りの奴らに思い知らせてやりてぇと思ってる。オレは、アンタの為に死ぬまで戦うって決めたんだ」
天龍が笑いながら言った。
牙を剥くような獰猛な笑みだったが、そこには獣が自分の群れの長に向けるような純粋な敬意と忠誠があった。
それは艦娘達が無条件で持つ、ある種の刷り込みにも近い上官への敬意と好意とは違う。多くの提督が羨望して止まないものだった。
しかし、新城本人の内心はそれをまったく認めていない。
軍隊における大抵の不快事に新城は慣れている。
自身の生まれや立場から、軽んじられたり疎まれたりすることなど幾度となく経験した。部下や上官からの悪意など、その最もたるものだ。
だからこそ、龍田や天龍から向けられる健気とすら思えるほどの信頼と期待が臓腑に重く刺さるのだった。
「君達は僕に率いられて地獄に行くことが望みだとでも言うのか?」
「提督。非礼を承知で申し上げます」
背筋を伸ばして、不知火は答えた。
「不知火の任務は、提督が望む時、望む存在になることです」
新城はため息を吐いた。
何もかも諦めたような気分で、何もかも手に入れたような幸福感を味わっていた。
少なくとも、人間を超えた力と美しさを備えた三人の女から与えられる信頼と好意が、男として嬉しくないはずがなかった。
畜生。自分が戦場にいるのは戦う為であって、忘れ難い者達を得る為では決してないのに。
「やはり僕には理解出来ない」
新城は言った。
「どうしていざとなると、誰も彼もが地獄へ望んで進撃したがるのだ?」
某架空戦記作家の再現度ぱねえ
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