
アートは今どうしているだろうか。最後にあってからもう25年経っているので、あいつもかなりのおっさんになっているに違いない。当時はまだ二十歳ぐらいだったはずだ。
ひょろりとした瘠せがたでどことなく知性を感じさせる雰囲気をもっていた。
僕が釣り好きなのを知るとニジマス釣りに誘ってくれた。今となってはどこに行ったのか記憶があいまいだ。方角としてはサウサリートを過ぎてサクラメントに向かう MARIN COUNTY のどこかだ。
釣具店で FISHING LICENCE と餌を買う。カリフォルニア州では無許可での釣りは違法で、もし見つかると罰金と釣り道具一式を没収されてしまう。実際に僕の友人は見つかって処分を受けたそうだ。餌はイクラを使う。瓶詰め入りで売っている。そのまま酢飯をつくればイクラの軍艦巻きの一丁あがり。こちらのニジマスは食通だ。
日本ではヤマメやイワナの渓流釣りの経験がある僕だがニジマスは初めてである。要領が掴めないままどんどん上流に向かって行くうちに川幅がどんどん狭くなり、ある一軒家の裏庭と接する小川にたどり着いた。見たところ絶好のポイントである。しばらくやっているとかなり遠く離れた家の中から怒鳴り声が聞こえた。アートに聞けば家の主人が「そこは俺の川だからよそで釣れ」と文句を言っていることが分かった。生まれつき尻の穴が小さい僕が竿をもって移動しようとしたら意外にも優男然としたアートは「遠くから投げれば平気さ」と動こうとしない。
しばらくポチャポチャとキャスティングをつづけていたら、ものすごい形相の大男がライフルをかかえて裏のドアから飛び出して来た。
われわれに照準を合わせて低い声で言い放った。
“LISTEN! I SAY ONCE AGAIN. DON'T FISH IN MY RIVER. GET OUT OF HERE.”
目が本気だ。思わずアートを見る。その目の中に恐怖を見た。
ほうほうの態で逃げ出した帰り道、海水浴にもってこいの清流の深みがあった。ふたりともパンツ一枚になって泳いだ。
久しぶりに思い出したのはあの時の恐怖に怯えた目と間抜けなアートのパンツ姿だ。
PHOTO BY FREDERIC LARSON / SAN FRANCISCO CHRONICLE
ひょろりとした瘠せがたでどことなく知性を感じさせる雰囲気をもっていた。
僕が釣り好きなのを知るとニジマス釣りに誘ってくれた。今となってはどこに行ったのか記憶があいまいだ。方角としてはサウサリートを過ぎてサクラメントに向かう MARIN COUNTY のどこかだ。
釣具店で FISHING LICENCE と餌を買う。カリフォルニア州では無許可での釣りは違法で、もし見つかると罰金と釣り道具一式を没収されてしまう。実際に僕の友人は見つかって処分を受けたそうだ。餌はイクラを使う。瓶詰め入りで売っている。そのまま酢飯をつくればイクラの軍艦巻きの一丁あがり。こちらのニジマスは食通だ。
日本ではヤマメやイワナの渓流釣りの経験がある僕だがニジマスは初めてである。要領が掴めないままどんどん上流に向かって行くうちに川幅がどんどん狭くなり、ある一軒家の裏庭と接する小川にたどり着いた。見たところ絶好のポイントである。しばらくやっているとかなり遠く離れた家の中から怒鳴り声が聞こえた。アートに聞けば家の主人が「そこは俺の川だからよそで釣れ」と文句を言っていることが分かった。生まれつき尻の穴が小さい僕が竿をもって移動しようとしたら意外にも優男然としたアートは「遠くから投げれば平気さ」と動こうとしない。
しばらくポチャポチャとキャスティングをつづけていたら、ものすごい形相の大男がライフルをかかえて裏のドアから飛び出して来た。
われわれに照準を合わせて低い声で言い放った。
“LISTEN! I SAY ONCE AGAIN. DON'T FISH IN MY RIVER. GET OUT OF HERE.”
目が本気だ。思わずアートを見る。その目の中に恐怖を見た。
ほうほうの態で逃げ出した帰り道、海水浴にもってこいの清流の深みがあった。ふたりともパンツ一枚になって泳いだ。
久しぶりに思い出したのはあの時の恐怖に怯えた目と間抜けなアートのパンツ姿だ。
PHOTO BY FREDERIC LARSON / SAN FRANCISCO CHRONICLE