とき 第一帝政9年晩秋
ところ
フランス・フォンテーヌブロー宮殿
登場人物
ボナパルト・ナポレオン フランス皇帝
ピエール・ニコル 皇帝付きソムリエ
フランス国は
ジビエ(gibier)のシーズンの真っ只中。久しぶりの狩猟を終え、今日射とめた大鹿を大好物のいつもの
シャンベルタンとともに平らげてくつろぐボナパルト・・・
「ピエール、なんぞ新しい食後酒はないか。」
「はい皇帝閣下、日本国のムッシュ・トリイより
HIBIKI 12Years なるウイスキーが届いておりますが、ご試飲なさいますか?」
「なにジャポンとな。東洋でもウイスキーを嗜むのか?」
「そのようでございます。ラベルによりますと1899年創業とあります。」
「はるか未来ではないか?そーじゃ異国ではわが帝国とは違う暦を使っているのかも知れん。まー細かいことはどーでもよい。早く持ってまいれ。」
「どれどれ、なかなか見事なボトルじゃのー。」
「説明書きによりますと24面カットのデキャンタボトルだそうであります。なんでも一日を24時間、一年を24節気に区分する日本国の暦に由来し、時間を象徴しているとのことでございます。」
「そーか、余のクリスタルグラスに注いでみよ。」コンコンコンとここちよい
響き。
「見事な琥珀色じゃのー。」開栓と同時に立ち上がるトップノート。大きな鼻を近づけ香りを利きわける皇帝。
「これはどーじゃ。なにやら果実の香りがするぞ。プラムのような。ハニーの香りもかすかではあるが・・・。ピエール、そちもかいでみよ。」
「皇帝閣下、さすがでございます。プラム、ラズベリー、パイナップル、蜂蜜の香りが感じられます。なるほどなるほど。説明書きによればホワイトオークの樽で熟成させた後、梅酒でシーズニングした樽でさらに熟成させた原酒と30年以上貯蔵された原酒をブレンドしているそうでございます。」
「梅酒とな。なかなか工夫しておるではないか。わが国の醸造家も見習わせなければならん。」
「御意」
「まずは生でやってみよー。」
「・・・男は黙って・・・」 ピエール この皇帝のつぶやきに何故か動揺する。
「 うまいんだな、これが。 」 ピエール ほっと安堵のため息。
「ムッシュ・トリイもなかなかやるじゃないか。口に含んだ後、口中いっぱいに拡がる豊かなかおり。だんだんとのどの奥まで熱さが伝わり、舌全体を襲ってくるけだるい痺れ。甘みとかすかに感じられる苦味との絶妙なバランス。飲み込んだ後の鼻から抜けるここちよい余韻。オー、トレビアン!」
「皇帝閣下、閣下はソムリエとしても超一流でございます。」
「あたりまえじゃ。余の辞書に不可能の文字はないと云うことを知らんのか。」
「恐れいりました。」
「うまくて全部ストレートで飲んでしまいそうじゃ。今夜は久々の夜の戦にさしさわりがあってはならんからな。なにか割るものを持て。」
「はい、直ちに。」
「おーこれはフランスの誇り、
ペリエ(perrier)ではないか。そーじゃ、忘れておった。ピエール(pierre)、そちはペリエ村の出身であったな。」ペリエのボトルが開けられる。シュワー・・・。
「閣下、今しばらくお待ち下さい。まず、グラスに多めの氷を入れ HIBIKI を注いだ後この銀製のマドラーで13回半かき混ぜた後、HIBIKI の3倍の量のペリエを注ぎもう一回かき混ぜよとあります」
「ジャポネは細かいことにこだわるのー。ウムウム。これも悪くない。今夜はこれで行こう。ピエール、ムッシュ・トリイによろしく伝えてくれ。わしの好みはストレートじゃと。ご苦労じゃった。もー下がってよい。」
さて、皇帝の寝室では・・・
「お~愛しの
マリー・ルイーズよ。 長く待たせてすまんかった。こっちゃ来い
」
配役 ボナパルト、ピエール(一人二役) 僕
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