白い月

白い月

無月

2016-09-19 10:07:33 | 心事ポエム
生れ直すのにも 生き直すにも倦んだ月は

薄青い雲を従え 《その時》を待っている


告知された余命をも無邪気に振り払い
 
聴こえぬふりをして風に飛ばし

愚かにも ああ。

根拠もない奇跡を確信しているらしい


独り居の隠れ家は遺恨の杜の中で朽ちる

覗き込んでも何もない

日輪を追う暮らしを飾り ひたすら繁茂し続ける蔦の家は

いずれひとひらの霧のように消える筈


一病に由縁する鈍い痛み抱え 

無辜の民の放浪にも付き合う

無涯の火焔は尽きず 

灰を積みあげる地軸の生業に休みは無い


田を埋め 

森を消し 

流れをねじ曲げ 

人を誘い込み 死の淵へとなだれゆく

酷い秋だった 
 


生死一如

2016-09-04 08:33:07 | 心事ポエム
 晴れて無為の日は 好い日 

 纏わりつく湿気の日は嫌な日 


 向こう見ずの猫の旅を

 爆竹で追い払う家庭菜園者の怒りは大人気ない


 悩み続けている寛容な山鳩が

 噂の中で事もなげに振舞っている


 起きたことの全てが理に合わぬ

 極限をこえる激流に放たれた外道の魚の幸運


 痛みも かゆみもないのに何故か 

 一向に帰宅の許可が出ない寡婦


 隠された謎の数々は見ないことにする

 寄り添わずひたすら祈るだけで良い生死


 辺境地の幸福に目が眩む

 美しい息吹に満ちて生き 死にたいものだ




霖雨

2016-08-02 19:58:41 | 心事ポエム
物みな濡れそぼる

この季を生きる蟲も蝶も病んで

声をあげることもなく逝く


累々たる死を潜ませた蒼茫も

実生の種を抱えたまま腐っては

黴の花を増やし続ける



鳥たちは 樹々の間にひっそりと潜んで動かない

抱えた卵も孵らずに溶けてしまった


夢かと見まちがう変貌する大地

こんな筈ではななかった

取るに足らぬ老女の息災など 何ほどの意味があろう


一陣の冷風が欲しいだけ

太陽光が蒸気を乾し上げ

一気に吹き飛ばす熱情が痛ましい


訳もなく覚悟も無く 安易に受け取ってしまった 

今年の夏・・・そして未来よ

心月

2016-06-29 14:39:40 | 心事ポエム

息も絶え絶えの夜の海で

夜光虫が

ラムネの瓶を揺らしている

 

嗤ってよ

躰を反らせながら

涙さえ浮かべている

 

人が流す あらゆる涙

時がすり抜ける間は

せめて寡黙な傍観者たれ

 

枯れ木でさえ たっぷり水を含み

過剰な雨に流れる表土

満たされないままの海を汚し続ける

 

此処にいて 横たわるわたし

置き去りにされたまま朽ちてゆく

遮るものは何もない

 

 

 

 


無碍の空

2016-06-01 12:55:31 | 心事ポエム

 一体何が起きているのでしょう?

 

昨日、今日のキリンが抱えている不具合は

折れた首

傾く肩

緩む歯茎

痺れたままの末梢神経

委縮する海馬

ぼやける視野 視界

曲がらない背筋

ぎごちない固い指

 

日常化した些末な変化も

あるがままを受け容れ

天の 地の異変にも動ぜず

再びの六月の湿った匂いを吸いこみながら

纏わりつく ぬるい雨に潤い

光りの怠慢を許している

 

ぬれて輝く蒼茫の影で

息を潜める生き物たちの

束の間の休息と怯えも

やがて来る熱波に撃たれ

とどろく雷鳴と悲鳴に変わるだろう