諸君よ
紺いろの地平線が膨らみ高まるときに、諸君はその中に没することを欲するか。
じつに諸君はその地平に於ける、あらゆる形の山嶽でなければならぬ。
諸君はこの颯爽たる、諸君の未来圏から吹いてくる、透明な清潔な風を感じないのか。
それは一つの送られた光線であり、決せられた南の風である。
諸君はその時代に強ひられ率いられて、奴隷のやうに忍従することを欲するか。
むしろ諸君よ更にあらたな正しい時代をつくれ。
宇宙は絶えずわれらに依って変化する。
潮汐や風、あらゆる自然の力を用ひ尽くすことから一歩進んで、諸君は新たな自然を
形成するのに努めなければならぬ。
▼宮沢賢治詩集「春と修羅第四集」に納められた「生徒諸君に寄せる」の一節だ。
賢治は終生、農民とともに生きた詩人として知られる。
一九三三年、風雨の中をかけずりまわって農民を指導した無理がたたり、急性肺炎
から三八歳の若さで死去。
「東ニ病気ノコドモアレバ行ッテ看病シテヤリ、西ニツカレタ母アレバ行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ」。
病のなかで手帳にメモした「雨ニモマケズ」を実践したような人生だった。
▼二一世紀にして、なお日本の行く末には重苦しい暗雲が垂れこめている。
まさに賢治のいう「紺色の地平線が膨らみ高まる時」なのだろう。
しかし、よくよく耳を澄ませば、
「されど諸君よ、この闇の中で新たな透明な時代をつくるのは、まさに諸君一人ひとりの力
なのだ」という賢治の力強い叫びが聞こえてくるではないか。
少年 がんばれ。。。