どシリアスなマヌケの日常

毎日毎日、ストーリー漫画を描き、残りは妄想.,いや構想の日々の日記。

その後の大輝〜赤男〜

2023-01-06 08:07:00 | 日記
界と別れてからの大輝は再婚することもなく春菜と颯太を育て上げ、仕事をし社会にも貢献して生涯を終えます。風になり、はるを探しますが見つからぬまま、何度も「人間の生」を繰り返し、彼も「在る者」として赤界に召し上げられます。
召し上げまでかかる時間は少なくとも500年。父、翔は1500年かかりました。

風の時代は転生する度にその間、何度も来ます。その時は「自分の辿ってきた道」を全部思い出します。反省と評価の時代です。何度も何十度も場合によっては何千何百もの「人生という学び」をしますが、終わりが必ずあります。黄泉国に落ちるもの。天界人になるもの。人間であり続ける者。この物語の中では「魂は不滅」です。

赤王セキは、かなり早い段階で自分の国に召し上げる人間に目をつけて見ています。神界の中でも一番格上の自国の国民にするのですから、当たり前です。適当だったのは「高天原に差し出す約束の我が子」だけです。アオイは、珍しい純血の赤男です。

あかりと葵の子供たちは、半分赤色の子ですが、なぜか神力が強い。その末子として大輝は出産という形で「在る者」になります。名前はキイ。外見は葵にそっくりで、長子ヒカルともそっくりです。でも、葵のように二重人格でもなく、ヒカルのように上から目線でもなく、素直で可愛い3歳児です。どちらかというとボーッとしていて居眠りしているような子供です。

黄泉国に監禁されてしまった母親を子供たちが救出に行きます。たった数時間で3歳から17、8の青年に変化するキイ。「大好きなお母さんを自分も兄上たちと救う」と言って、かなり無理をします。




まだ、話は完成していません。。。はるはどこにいるのか。

赤界の男は「赤男」と呼ばれています。エリート中のエリートの集団で、赤界には武官がいません。近衛兵すらいません。理由は、全員が兵士になれるからです。赤王宮は巨大な城であり、街。そこに住むセキ男たちは全員が宮仕で、公務員の街。翔は王の補佐官。シャインは王妃エリの女官長。
赤男、赤女には一つの宿命があります。その生の中では1人の相手しか愛せないのです。運命の相手に会えるのは幸運で、独身者が多いです。男の方が純朴で、女の方は「変なのに引っかかるまい」とバリアーを貼っています。変化してわざとブスにしている女も少なくないです。赤男たちは「ここはブスばかり。高天原に行きたい」と愚痴っています。高天原の女子は見目麗しいと思っています。男は見た目で判断するおバカが多いので「ブス変化」は赤女が身を守る最大の武器なのです。

イノセント後編5最終話〜はるか先の時の彼方〜

2023-01-05 12:26:00 | 日記
1週間後、はるの帝王切開が行われた。早産の小さな小さな子供達だった。男の子と女の子。子供たちは直ぐにNICUに送られ、保育器に入った。ほぼ36週になろうとしている時だった。子供たちは思ったより大きく1500グラム以上あった。最初の検査では、障害も確認されなった。
はるは、まるで務めを果たしたかのように出産後直ぐに息を引き取った。界は「任を果たせなくて、ごめんなさい。」と言って泣いた。
そんな界に向かって大輝が言った。「界くん。君が神でも、なんでも思い通りになるわけじゃないんだろう。君を病院に連れて行かないと決めたのは私と修だ。人の命は、どうしようもないんだろう?教えてくれ。人は死んだらどうなるのか。」
界は答えた。「私は話しに聞いているだけでございます。ただ、風の時代が来ると。。。。人であったものは風になり、また生まれると聞いています。人間はそうやって「学ぶ者」だと言います。私はそう教わりました。」

「風か。。。案外そばにいてくれるかも知れないな」大輝はつぶやいた。
病室でシャインとはるの両親が葬儀の相談をしていた。大輝が近づいていくと3人は、また涙を流した。その3人の顔を見て大輝はしっかりした口調で言った。
「子供の名前、決めました。女の子は春菜、男の子は颯太。僕が頑張って育てますが、ご協力お願いします。」

〜〜〜〜
はるの葬儀が終わり、シャインは大輝の子供たちの世話で数年日本にいることに決めた。それから、2週間ほどたった38週でエリカも出産。落ち着いてから、シャインがはるの死を伝えた。「一緒に子育てしようって約束してたのに。。。年下のお姉ちゃんなのに、どうして?早すぎる」エリカは文句を言いながら泣き義姉を悼んだ。
界はエリカの子供たちが生まれると高天原に帰った。
それからも、ふらりとやってきて大輝と子供たちを訪ねてきた。

冬になっていた。大輝と界が奥多摩で出会ってから1年半が経とうとしていた。
その夜は、大輝と界で酒を飲んでいた。界には疑問があった。なかなか口に出せなかったが、酒の勢いで言った。「大輝さんは、事故じゃなくて魔物にはるさんを殺されたって知っているのに、どうして罰を与えないのですか?」
大輝は笑った。「魔物とは言っても人間だ。証拠がないんだ。泣き寝入りするしかないんだよ。それよりも、子供たちの育児で手一杯。春菜と颯太の中にはるはいる。優しい風が吹けば、はるが来ていると思うんだ。」
その言葉で界の方が泣いてしまった。
そして「私にしかできないこともありますよ」とポツリと言った。「私はおとなしい性格だと言われています。でも、あの苛烈な両親の息子です。あなたの命令ではなく、在る者の私が独断ですることには口を出さないでいただきたいです。」泣きながら、空を睨みつける界の顔は「あかりちゃん」に見えた。

その年の冬は、忘年会にも誘われなかった。周りが気を遣っているらしい。子供たちと母が待っている。大輝は家路を急いでいた。
「忘年会、出ないんですか?」マリが大輝の横にピタッとついて話しかけてきた。
「子供たちが待っているからね。みんな気を遣って誘ってこない。」
「なあんだ。残念」「じゃあね。」と言って大輝が駅まで急ぎ始めたら「待って!」と言ってマリが腕を掴んできた。その腕を振り払って「何か用ですか?」と怒気を含んだ声を大輝は出した。
43の中年女が上目使いで両手を胸に当てて小首を傾げている。ああ、昔もよくこうやって「私のこと嫌い?」って言ってたな。「私、あなたが心配なの。双子の赤ちゃん抱えて仕事して、身体壊しちゃう。私がお手伝いしたいの。」
いい年をして、色は吐き気がするほど醜いのに、魔物の癖に、若い娘のような態度だ。。。それを見ていたら、大輝は可笑しくなってしまった。「間に合ってる。母もいるしね。人殺しの手伝いは要らない。子供まで殺されたらたまったもんじゃない。」そう大輝が言うと「人殺し?何言っているの?頭大丈夫?」とニコニコしてまた大輝に触れようとした。
「病院の監視カメラに君が写っていた。はるを突き飛ばすところがバッチリね」
「嘘!階段にカメラはない!」
「うん。嘘。だけど僕の奥さんが階段の事故で亡くなったってなんで知ってる?誰にも言ってないのに?泉田さん、警察に行こう」
「あんた、頭おかしい。手伝ってあげたかったけれど人間の優しい気持ちもわからないのね!」
「うん。わからない。おばさんになって常務にも捨てられて、だんだん居心地が悪くなって主婦になりたいんでしょ?そんなところだ。僕は人の人間性が色でわかる。今の君は人間の色じゃない!」「人殺しは人間じゃない」「泉田マリは魔物だ!」大輝は叫ぶとマリの腕を引っ張った。オフィス街の歩道をマリの腕を掴んで数メートル進んだ。
大輝の中で結論が出た。大輝は、立ち止まると空に向かって「界!ここだ!」と叫んだ。
赤い神、赤い目の界が、空に現れ右手を振り上げ、振り下ろした。

その瞬間、大輝とマリがいた歩道の真横のビルの外壁が崩落した。
瓦礫は大輝を掠めてマリの上に落ちた。人が集まってくる。
大輝は「死んだの?」と隣にいる界に尋ねた。界はニヤッと笑って「我らは殺しません。ーぬるすぎますから。この魔物は手足をもがれて、意識明瞭なまま長生きです。」

ふふふ。。。と大輝が笑った。「僕は、若い頃イノセントなものを探していた。見つけるのは難しい。ほとんどいないから。やっと、はるというイノセントな人と出会った。もう、イノセントなものは探さない。代用品は要らない。僕は風の中にイノセントなはるを感じて子供たちと生きていく。」
界の目にうっすらと「赤い気」を纏い始めた大輝がいた。

「赤い気」は天上界の頂点、赤界(セキ国)に召し上げられた印。
「大輝、あなたはセキ様により、赤男になると定められました。いつか遥か先の時で、またお会いしましょう。」
界は、そう独り言を呟くと高天原に向かって去っていった。

「イノセント」終わり


イノセント後編4〜好事魔が刺す〜

2023-01-04 09:43:00 | 日記
ヒカルは父の書斎で祖父セキに手紙を書いていた。そこに妻のミホがやって来て「カイ様がお帰りになっていますがお部屋に閉じこもってしまわれています」と告げた。

ヒカルがカイの部屋を訪ねると下界の服装のまま寝台に突っ伏して泣いていた。
「どうしたのだ?双子は生まれたのか?」カイは、しゃくり上げながら「私は役立たずです。見守りさえできない。」
「何があったのだ?私に報告にも来ないで泣いていること自体、子供のすることだ。まずは、何があったか話せ!」ヒカルは、冷静にカイを促した。
カイは話し始めた。
「妊娠34週でエリカも病院に入院しました。早川総合病院です。そうです。我らの拠点の一つです。ただ、分家となって下界降りしている高天原のものは、メンタルクリニックの方へ看護師として紛れております。だから、2人が入院した総合病院には人間しかおりません。でも、そんなこと気にもとめていませんでした。2人とも経過は順調で、入院した日も私は修のワゴン車に2人の荷物を運んでいました。大輝が私に「留守番を頼む。帰ったら男3人で酒を飲もう。」と言ってくれて、今日は家族だけで居たいのだなと私は思い、病院への同行はご遠慮いたしました。
エリカもはるもニコニコして手を振ってくれました。私も手を振りました。帰りを待っていますと言いながら。」


「それから3時間くらい後、大輝から電話がありました。はるが事故に遭って意識不明だと言うのです。私も病院に駆けつけました。階段から転落して踊り場で倒れていたそうです。その20分ほど前、病室から10メートルほど廊下をいったところに「飲み物買ってくる」と言って、はるは1人で病室を出たそうです。大輝が自分が買いに行くと言ったそうですが、はるは「少しは歩かないとヤバいよ」と言って病室を出て行って、それで。。。戻って来ませんでした。私も一緒に行けばよかった。私が買いに行ったのに。。。」そこまで話すと、またカイは泣き出して話せなくなってしまった。
ヒカルは静かな声で「はるの気はどうだったか?汚れた気に包まれていなかったか?」とカイに尋ねた。
カイは「私が行った時には何も見えませんでした。お腹に子供がいるので、重い脳挫傷を負っていても、はるは全身麻酔をかけて開頭手術をすることができません。はるという人間の人格は既に感じませんでした。残っている気は体の方に回されていました。私は、信じられない。はるは慎重な性格なのです。出会ってから階段を使うことはなかった。一度も。」

「事故ではない。魔物の仕業だ。大輝が危ういのは魔物に付けいられやすいのだ。だから、母上は力を与えた。」とヒカルが言うとカイは「危ういとは、そう言う意味だったのですね。」驚いた。ヒカルは「もっと、説明しておかなかった私も愚かだ。カイ。大輝は気の色が見える。事故の直後だったら、大輝は魔物の色を見ているはずだ。大輝に話しに行け。魔物とは言っても恐らく人間の魔物だ。大輝には魔物の正体が分かるかもしれない。カイ。我らは見守る神だ。いい時も悪い時も見守る神。泣くのではない。大輝のそばに戻り、魔物の色について話してくるのだ。」ヒカルは、なるべく感情を表に出さないでカイに命令した。
妻を亡くす。もしも私だったらミホがいなくなったら。。。大輝の気持ちを考えると胸が詰まった。

カイが、病院に姿を表すと修が「どこに行ってたの?」と聞いてきた。「兄に相談して来ました」はるが事故にあってから2日が過ぎていた。「はるさんの容体は?」とカイが修に尋ねると修は「体が機能しているうちは、子供たちのためにこのまま生き続ける。何日持つかだな。。。エリカは知らないんだよ。事故のことも。言葉には気をつけてくれるかな。」と答えた。その時、エリカの病室から60代の女性が出てきた。「修さん、この方は?」ハーフの女性。黒髪の青い目。カイはすぐ分かった。「早川 界です。」シャインは目を大きく開けると涙をポロポロこぼし出した。「あかりちゃん。。。」界はいきなり土下座をすると「私の力不足です。申し訳ありません。」と詫びた。
シャインは、界の手を握って立たせると「2人のお手伝いをいっぱいしてくれたんだってね。ありがとう。」と言った。シャインは72歳には見えなかった。「西の神界人」になる人だと界は直ぐに気がついた。

大輝は、はるが必死に子供たちを意識がなくても育てているところをガラス越しに見ていた。そこに界が近づいてきて言った。
「はるさんが事故にあった時、汚い色に包まれていませんでしたか?」
「うん。汚い色が纏わりついてた。」
「はるさんは事故ではありません。魔物に襲われたんです。その魔物の色は見たことがあるのではないですか?」
「ああ。。見たことある。そうか、魔物か。」大輝はつぶやいた。

イノセント後編5に続く




イノセント後編3 妬みの色

2023-01-03 09:42:00 | 日記
大輝は会社の自販機の前にいた。そこにマリがやってきた。
マリはニコニコしながら言った。
「田中さん、お子さんができたんですって?おめでとうございます。」
「ありがとう。この歳から父親だから頑張って働かないと。」と大輝も笑って答えた。

マリは続けて「羨ましい。私はもう自分の子供は絶望的だもの。田中さんは男性だから分からないでしょうけど。私は仕事に生きるしかないわね。」これも笑って言った。これには大輝もフォローしようがない。マリはエリカと同い年だけど独身だ。マリはペットボトルのお茶を買って「奥さんを大事にしてね」と言って「それでは」と離れていった。
大輝から見えるマリの色は、あの不毛な付き合いの頃より更に汚れていた。
仕事はできるが、部下の女子社員に対しての当たりがキツく、常務と不倫して色じかけで役職についたという噂まである。
42歳には見えない。昔から綺麗な人だ。私のように色が見えない男となら、とっくに結婚してて当たり前なのに。でも、あんなに色が汚れている人は幸せになれるのだろうか。私には見えるだけで色を変えることはできない。界だってできないだろう。




長い廊下を総務部まで戻りながら、マリの頭の中は煮えたぎるように嫉妬していた。
常務の愛人なのは事実だった。仕事で上に上がるために付き合っていた。何年経ってもマリの立ち位置が変わらないので「奥さんにバラす」と半ば脅迫して「係長」になった。
それでも、この会社では、課長止まりだろう。
大学時代の女友達。専業主婦の連中の夫は管理職になり始めている。子供は有名中学の受験。習い事が仕事につながったり、趣味で書いてた小説で作家になっているのもいる。最初から仕事志向の独身女は、そもそも就職から女性が不利にならない所を選んで外資や公務員。順調に出世している。ワーキングマザーでも、マリより成功しているのはゴロゴロいる。
他人と自分を比べて自分が上にいないと気が済まないのが泉田マリという人間だった。彼女の「不公平」は彼女が負けていると思った時の口癖だった。

はるもエリカももうすぐ入院する。
界は、相変わらず2人と4人の「お守り」神として家事をしていた。
エリカが「界のお母さん、あかりちゃんはどういうお母さんなの?」と界に聞いてきた。
「母は、エリカも知ってる通り重い心の病気を持っています。でも、調子のいい時は一日中仕事でした。父が補佐をしていました。一番偉いのは母です。優しいけれど、怖いです。本当に怒った時は逆にニコニコしてます。怖いです。」
「あかりちゃんの仕事は何?」「。。。。女王様」「は?それって風俗のじゃないよね?」エリカは意味がわからず、ついそう言った。界は慌てて「滅多なことは言わないでください!私の母の国は高天原です。そう言えば母の本当の名前がわかりますよね。言っちゃあダメですよ。私たち子供には、甘いところも多い母親ですが、女王様の時は違います。」
「じゃあ、界は王子様なんだ」とエリカが言うと「3番目ですけど、そうです。でも、私は経験が浅いのです。奥多摩の神主が義務教育終了みたいなものですから。私たち「在る者」が完全に大人になるには長い経験が必要なのです。」
「修が界をガキって言ったのは外れてなかったんだね」とエリカがズケズケ言うと界は「修は、色ではなく目で見えないものを感じ取ることができる人間です。エリカの顔なんかどうでもいい人。中身しか評価してません。エリカはシャインと同じだと聞いています。シャインにも、もうすぐ会えますね。」と言った。
「うん。帝王切開の日が決まったら知らせるの。そしたら、すぐ来るよ」
「楽しみです。そういえば、はるは?」
「はる姉は、お部屋でお仕事中。」

妊娠37週に入るまでは胎内で育つのが胎児には望ましい。
今は32週。2人のお腹は今にも破裂しそうなほど膨らんでいた。母子ともにトラブルはない。でも、ここから先はわからない。このまま順調でも34週には2人とも入院する。

イノセント後編4に続く

イノセント後編2〜お守り神

2023-01-02 08:37:00 | 日記
マリは、春の辞令で総務部の係長になった。42歳。独身。

大輝と別れ、大久保と破談になってから12年。何人かの男性と付き合ったが、結婚に至る前に別れることになった。会社は大手だし役職もついた。42歳でも相変わらず若く見える。彼氏は切れたことはないのだが、結婚相手となるとスペック的に二の足を踏んでしまう。田中大輝以上の男はいないのだ。
大輝のアパートで、あの地味なブスに負けたと言う屈辱的な想いが歳を重ねるごとに大きくなっていた。

給湯室に入ると若い女子社員がおしゃべりをしていた。チッ!と舌打ちをしたが言葉だけは優しく「早く仕事に戻ってね」と言った。そして、自分のカップを洗っていると「泉田係長、ご存じですか?」と声をかけてきた。マリが振り返ると女子社員が興奮して「設計1課の田中課長、パパになるんですよ。田中課長の“子無し主義“って有名じゃないですか。自分でも“子供はいらね“って言ってたし、奥様も大学の准教授で忙しいし。。。それが44でパパですよ。双子ちゃんなんですって。65定年でもキッツ。意外なことに課長、嬉しかったみたい。自分で言って回ってますよ。」と話した。
「不妊治療でもしてたのかもね」とマリが言うと「それが自然妊娠なんですって。田中課長“参った”って言いながらにやけてるって話ですよ。」

マリは、大輝に子供ができないことで「パーフェクトな人生なんかない」と自分に言い聞かせてきた。大輝は、若々しく相変わらずイケメンで次の辞令では部長だと言われている。妻は社会的に地位の高い仕事に付いて、テレビに出たりしている。それで今度は子供まで手に入れる。
私は、綺麗で若く見えるだけ。大企業勤だけれど、ここでは上手くいって課長止まり。
「神様は不公平だ」マリはつくづく思った。

はるは界がエリカの家に来てから、エリカの家に一緒に住んでいた。青島家は一軒家で兄夫婦が転がり込んでも界がいても問題ない。2人とも高齢妊婦で双子を妊娠している。ハイリスクなのだが、今の所何の問題もなかった。
それでも、予定日の2ヶ月前には入院する。非常事態が起こる可能性は低くない。満期で自然分娩するのではなく、赤ん坊がある程度育ったら、帝王切開で出産することになっていた。
2人のお腹の見た目は、もう臨月のようだった。
エリカとはるは、流石に身体がしんどく家の中での動きもスローモーとしていた。
守り神の界は、家事をこなし2人のリクエストの通り動いていた。
守り神ではなく、お守り神になっていた。




界の目には、日毎大きくなる赤子たちが見えていた。
界たち「在る者」は母親のお腹にいる時から心で意思の疎通ができる。界もお腹の中で母とお話をしたり、お歌を歌ってもらったりした。。。人間の子供は、生まれるまで黙っているのかと初めて知った。
界は「学び」で大輝兄妹に会った日まで10年以上、奥多摩で人間のふりをして神主をしていた。でも、人間の暮らしはしていなかったので山から降りることもあまりなく、人間の暮らしや生き方については殆ど知らなかった。
本来「在る者」は食事を摂る必要がないので、スーパーに行った事もなかった。
エリカとはるに連れられて、スーパーに行った時には、面白くて「もっと早く来ればよかった」と思った。

「在る者」は食事を取らなくても存在できる。でも、界の住む王宮では食事をするのが普通だった。「料理に見立てた気」を取り込むのだ。見た目は料理、味も料理、正体は「気」。。。なんで、こんなに面倒なことをするのかと思っていたが、大輝たちと暮らして分かった。食卓はコミュニケーションの場だと。
食べながら話す。家族はその回数が他人より遥かに多い。長い間会っていない両親と高天原の兄、天(ソラ)と妹の桃花を思った。長兄ヒカルは、妻のミホと息子のアズサの3人で自室で食事をするのに拘っていた。
家族は日々作るもの。。。だったのか?と界は気づいた。そして、自分は知らないことが多すぎるようだと気がついた。
知らないと言うことが、どんなに恐ろしいことかは、まだ、彼は気がついていなかった。

イノセント後編3に続く。。。