笑いと説法で自殺者なくしたい

「落語家としてはプロ、お坊さんとしては尼(アマ)なんです」。東京の寺院で開かれた講演会。明るく歯切れのいい話に、会場は笑いに包まれた。
落語家と尼僧、二足のわらじで活躍する露(つゆ)の団姫(まるこ)さん(29)=兵庫県尼崎市。全国で年間約250席以上の寄席をこなしながら、テレビやラジオに出演。メールや手紙で悩み相談にも応じる。「自殺をする人をなくしたい」。そんな思いを持って落語家と尼僧を掛け持ちする団姫さん。笑いと説法で自殺者をなくすことを目指し、日々奔走している。
「落語家になって、仏の教えを広めよう」
幼い頃から「死」に対し、漠然とした不安を持っていた。高校1年の時、アルバイトでためたお金で仏教の入門書を購入。読むと、「自分が死んだらお釈迦様が悲しんでくれる」と感じ、気持ちが救われた。以来、自宅にあった法華経の経典などを読んだ。
同じ頃、カウンセラーを務める母親から国内の自殺者が年間で3万人を超えていることを聞き、「仏教の教えを知ったら、自殺しようとしている人も救われるかもしれない」と、将来尼僧になることを決意した。
一方、落語好きの父親の影響で落語家への憧れもあった。2つの進路で思い悩んだが、「すばらしいと思ったものは自分の才能で広めろ」という法華経の教えを知り、「落語家にもなって、仏の教えを広めよう」と、二足のわらじを履くことを決めた。
厳しい修業に、逃げだすことも考えたが…
京落語の祖で、江戸時代に活躍した初代、露の五郎兵衛が日蓮宗の僧だったことを知り、露の一門への入門を思い立ち、高校卒業後の平成17年、露の団四郎に弟子入り。厳しい修業に、逃げだすことも考えたが、「今堪え忍ぶことは未来に役立つ」という仏教の教えを胸に3年間稽古に励んだ。
修業を終え、寄席やテレビで活躍する傍ら、出家先を探した。これまで親しんだ法華経を法典とする天台宗にひかれ、23年11月に出家。24年4月から2カ月間、比叡山にこもって修行し、尼僧になった。
仏教落語も6席つくる
現在、全国の寺院や大学などで講演や寄席などを開く。仏教の教えを説く本も出版。般若心経を解説する落語など、仏教落語も6席つくった。メールや手紙などで悩み相談も続ける。
今の目標は「街中に、誰でもいつでも相談に来られる“かけこみ寺”をつくる」こと。「今ある命を一つでも多く救いたい。独りで悩まないでほしい」と、はじける笑顔で話した。(中川三緒)
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つゆの・まるこ 昭和61年10月生まれ。平成23年3月、クリスチャンの夫と結婚。同11月に入門10年以下の若手落語家に贈られる「繁昌亭輝き賞」を過去最年少で受賞した。26年4月に長男を出産。現在はテレビのバラエティー番組にも出演している。