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古今亭志ん生の噺、「夕立勘五郎」

2015年05月21日 | 落語・民話

古今亭志ん生の噺、「夕立勘五郎」(ゆうだちかんごろう)によると。

 

 
 「今夜は何だい?浪花節?ふーん。侠客語りの名人だ?名前は何てんだ?赤沢熊造?あんまり聞かねぇな。まあ、いいか」 。
兄貴と連れだって、横町の寄席へ二人連れ。
 「今出てきたのは上手かったね。今度、出て来るのが、赤沢熊造先生かい?
  誉めてやろう、おお、出て来たよ、あれかい、顔は上手そうだなぁ」。

出てきた先生「(咳払い)え、あーあー、あーあー」、
「まるでカラスが子を取られたようだね」 、
「黙っておいでよ」 。

「♪あー、一席(うっせぇき)うかぎゃーますで、
  夕立勘五郎(ううだちきゃんごろう)の一席」、
「なんだこれは」、
「黙ってお聞きよ」。

「♪明日(あし)有りと思う(おめう)心(こけろ)の仇桜(あだざきぃら~)、
 夜半に(ぬ)嵐(あらす)の吹かぬもの。
 人(すと)死(つ) んで名を残(おこ)し、虎死(つ)んで皮残すぅ。
 こけぇ伺う一席(うっせき)はぁー、夕立勘五郎(ううだつきゃんごろう)、
 えかがなります時間(ずかん)までぇ~。
 侠客(こうかく)むずかすぅ商売(しょうびゃぁい)はねえ。
 どぉーむずかし~かというと、度胸(どけぇ)てえものが良くなければなんねぇし、
 人(すと)の為には身命(ちんめい)を投げ打たなければなんねぇー。
 上州(ぞうしゅう)国定(くぬさだ)村の忠治(つーず)、
 大前田英五郎(おおみゃーだやーごろ)、
 清水湊(つむじゅみなと)の次郎長(ずろちょー)
 なんどはいい侠客(こうかく)だが、
 こけぇ伺いまする夕立勘五郎(ううだつきゃんごろう)、
 一人(へとり)でどうすてその運命(ぬんめー)の
 名前(なみゃー)を取ったかってぇとぉ、
 ある日の事に、勘五郎ぉ~、ぶんらり、ぶんらりこぇとぉ、歩いているとぉ、
 はるか向より馬ぁ~駆けて来た。
 皆、あぶにゃーからと逃げ込んだ。
 なんであらんかと勘五郎が小手をかざして眺めると、
 飛んでめえったこの馬は、松平(まつでぇら)公がえかく可愛がっていた
 ”夕立(うーだつ)”と言う馬。そけー、勘五郎抱え(かけー)こまんとしたから、
 やられてはてえへん~~と、体(てい)を右や左にかわしていたけんど、
 馬の股ぁ潜っといて、ゲンコ(ぎんこ)を固め、
 馬の横っ面ぁ、はっくりかえしたら、ころりと死(ち)んだ。
 なんてえらい力だんべぃ、この人(すと)が夕立(うーだつ)
 というアダナをもらった初めであります。
 この先やっておりますとお長くなるで、明晩まで、お預かりぃ~」。

「おい、驚いたね、これはひでぇ。先生!」 、
「なんだねぇ」 、
「この侠客は、どこの侠客だ」 、
「この侠客(こうかく)は、江戸(いど)の侠客、
 夕立勘五郎(ううだつきゃんごろう)の生い立ち」 、

「江戸には、ううだつきゃんごろう、なんて居ない。
 江戸の侠客は夕立勘五郎と言うんだよ。
 『ぎんこ』ではなく拳固だ。ひでぇ訛りだなぁ。
 こんな浪花節は聴いたことがない。もう聴きに来ない」 、
「アンタみたいな聞き分けない人は聴きに来なくてええわ」、
「『ええわ』だって。あんな夕立は有るもんか。さっき、
 聞いているときに”ゾーッ”としちゃったぞ」、
「あれは聞いているときにゾーッとするもんだ」、
「なんで」、
「名前(なめー)が夕立(ううだつ)じゃねーか」。

 

 

 

     

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