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しゃれこうべをつった男

2014年08月27日 | 落語・民話

しゃれこうべをつった男


 むかし、ある長屋(ながや)に、一人者の男がいました。
 男がたいくつしのぎに魚釣りに出かけると、今までにない手応えがありました。
「おおっ! 大物だぞ!」
 男が喜んでさおを引き上げると、なんと釣れたのはしゃれこうべ(→頭がい骨)だったのです。
「ひぇー、とんでもない物を釣ってしまった」
 男は、そのまますてようかと思いましたが、
「まあ、これも何かの縁というものだ。長屋に持って帰って、せんこうでもあげてやろう」
と、しゃれこうべを持って帰りました。
 そして男がせんこうや花をあげて手を合わせてやると、その晩遅くに、
「こんばんは」
と、美しい女の人が、たずねてきたのです。
「わたしはあなたにとむらっていただいた、しゃれこうべです。おかげで、成仏(じょうぶつ)することが出来ました」
「えっ。それでは、あの、しゃれこうべの幽霊(ゆうれい)?」
 幽霊でも、美人なら怖くありません。
 男が美人の幽霊に見とれていると、幽霊が言いました。
「夜しか出てこられませんが、恩返しに、あなたのお嫁さんにしていただけませんか?」
 こうして美人の幽霊は、男のお嫁さんになったのです。

 さて、この話を聞いた男の友だちが、
「あのやろう、釣りに行って、あんなべっぴんの嫁さんを釣り上げるなんて。まったくうらやましい。・・・よし、おれも釣りに行って、しゃれこうべを釣り上げるぞ」
と、さっそく釣りざおを持って出かけました。
「釣れろ、釣れろ、美人の嫁さん釣れろ!」
 友だちの男がでたらめに釣りざおを振り回していると、
「おっ! きたきた、しゃれこうべを釣り上げたぞ!」
と、本当にしゃれこうべを釣り上げたのです。
「さあ、どんな嫁さんがきてくれるか、楽しみだ」
 男はしゃれこうべを長屋に持ち帰ると、ていねいにおせんこうをあげました。
「まだかな、まだかな、もう来てもいいころだろう」
 男がわくわくしながら待っていると、ドンドン、ドンドンドンと、はげしく戸をたたく音がしました。
「きたきた。しかし、ずいぶん元気な娘だな。そんなに叩いたら、家がこわれちまうよ。はいはい、今開けますよ。どなたですか?」
 すると外から、太い男の声がしました。
「おれは、しゃれこうべの主だ!」
「えっ、女じゃないのか。いったい、どんなやつがきたんだろう」
 男がガラッと戸を開けると、ひげづらの大男が立っていました。
「おれは、天下の大泥棒の石川五右衛門(いしかわごえもん)の幽霊だ。お前に一言、礼を言いに来た」
 こんな男にあがりこまれたら、大変です。
 男はあわてて、戸を閉めました。
「お礼はけっこうです。はやく地獄へお帰りのほど」


  

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