山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

しっぽ に こんがらがって

2016-08-31 19:36:37 | 診療よもやま

 

このネコちゃんのしっぽ、よく見るとけっこう複雑にねじれているのがわかります?

このように先天的に折れ曲がったり、不思議なねじれかたをしたしっぽを持つネコちゃんが時々います。

ここまでねじれたしっぽもめずらしいですけどね。                    

この特殊なしっぽに、どういうわけか?写真上のねじれて輪を作っていたヒモが引っ掛かってしまったのです。

そしてそのヒモが隣の家の植木にからまって抜け出せず、ネコちゃんは懸命にもがいていました。

 

帰ってこないのを心配していた飼い主さんは、隣の家でもがくネコちゃんを発見!?

いそいで助けにいき、救い出そうとしたら……ガブガブガブッ!ガリガリガリッ!!

…とパニック状態のネコちゃんに咬まれたりひっかかれたり……

  

ごらんの通り傷だらけになってしまいました(写真では見えませんが両手とも傷だらけ)。

飼い主さんもパニック状態になりながら必死でネコちゃんを引っ張り出したのでしょうが、その結果こんな痛々しい手に……。

咬まれた手の治療のため病院へ行き、その後にネコちゃんのしっぽを心配して当院へ来院されました。

からみついた構造を確認しながら、私がそーっとヒモを引っ張ってみると 、あっという間にヒモは取れたのです。

触ると痛がるにせよ、しっぽ自体に大きな傷は確認されません(こういう時、毛の多い動物は皮膚が壊死していても、表面に生える毛によって一見正常に見えるので要注意!)。

 

飼い主さんは「誰かにイタズラされたのでは…?」と言っていましたが、このこんがらがったしっぽと、ヒモが取れた時の容易さから考えるとタイミングの悪さから生じた「運命のひとひねり」にも感じられます。

外科手術の時も急いでいる時ほど、縫合糸がこんがらがってなぜか?結び目までできてしまってイライラ倍増!なんてこともありますしね。

 

今回の出来事から思い出されるのは、とても活発なワンちゃんが脱走し交通事故に遭ってしまったケース……。

そのケースでも悲鳴を聞き、すぐに駆けつけた飼い主さんは血だらけになってもだえ苦しむワンちゃんを発見…早く病院につれていかなくては!…と不用意に持ち上げようとしてしまったのです。

こんな時、自分になついているのだから大丈夫…と思いがちですが、車にひかれたワンちゃんは骨が折れたり、内臓が傷ついたりしているのです。

それは何だかわからないまま何者かに襲撃され、触られなくても体の内外が痛む状態…生死の狭間をさまよう中で、すべての区別を失ってしまうほどの激痛なのです。 

混乱したワンちゃんは、助けようと近づいた飼い主さんにガブガブと咬みつき、その両手は今まで見たこともないほど傷だらけに……。

 

私も首輪がスッポ抜けたワンちゃんが当院前で車にひかれ、両手だけでなく膝やお腹までガブガブとやられてしまった経験などがあります。

これはワンちゃんにおいての話ですが、首輪がきついと苦しくてかわいそう…と、リードをひっぱるとスッポ抜けるレベルのゆるさにしてしまっている飼い主さんがけっこう多いように感じます。

首が太かったり、顔が細長かったりすると難しいのですが、これもきつくするべきか?ゆるくするべきか?の二者択一ではなく、ひっぱってもスッポ抜けず、苦しくもないバランスが重要なのです(首輪などの選択も重要なのですが、その話はまた後に…)。

このネコちゃん、保護した子猫の頃からなぜか?左前肢がないのです。しかもこんなにおだやかそうな顔の女の子。

それでも何かがこんがらがってしまうと、助けに来た飼い主さんに咬みついたり、ひっかいたりしてしまうのです(両前肢があったらさらにひどいことに…)。

このような事態は予期せぬ形で突然起こります――その時は、不用意に持ち上げたりしないで下さい!!

何かがからまっているのなら、あせらないでどこがどのようにからまっているのか確認して下さい――よく見ればハサミでヒモを切れば済むことかもしれません。

交通事故の時はもっとあせってしまいます――そんな状況ですぐに抱き上げてやれないなんてかわいそうなのですが、あせっても仕方がないケースが多いと思われます。

正直言って緊急の混乱状況において簡単で絶対安全な方法などありません。

取りあえず素手でのアプローチは危険!!痛みのある所を刺激しないよう注意しながら、厚手のバスタオルやタオルケットなどを使って咬まれないように気を付けながら包んだりするしかないでしょう。

よほど反射神経のよい人でないと、かなり注意深くやっても少なからず咬まれてしまう可能性があることを肝に銘じて下さい!

みなさんにそんな悲劇が起こらないことをお祈りしますが、どんなに信頼関係があっても、そして普段は穏やかなワンちゃんやネコちゃんであったとしても、混乱すると咬みつく可能性があることだけは心の片隅に覚えておいてほしいのです。

心であれヒモであれこんがらがっている時は、想定外のことが起こりがち…少しでも鼻から息を吸って気を落ち着かせ、状況を確認して下さい。


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