数字のモノサシ | |
寄藤 文平 | |
大和書房 |
まず何から?と考えてみたのですが……現代医療というか?近代化という流れの大きな推進力となっているものに、何でも数値化しようとする傾向があると思います。
様々なことを数値化し、ある意味での客観化が可能となったことで世の中がとても効率良く便利になりました。しかし、あまりにも便利なことがどんどん実用化され、それが絶対化され過ぎてしまうと、そこから抜け落ちてしまうものの存在も感じられるようになってきます。
私は数学が苦手なので、どちらかというとそのデメリットを強調してしまう傾向があると思います。逆に得意な人はメリットを強調する傾向になってしまうのでしょう。それは足が細く長い人などはそれを生かすファッションを選び、そうでない人はそれを目立たなくしたり、その他の自信のある所を生かすファッションを選ぶことと同じです。
気付かぬうちに誰もが何らかの偏りを持ってしまいます。しかし、そういった個人個人の不完全さがぶつかり合うことで社会は全体としてのバランスを保っているのではないでしょうか? そう考えてみると?ある偏りに対して個人的には納得できないことがあっても、大きな視点から見れば喜ばしいことなのだと思います。
そして、なかなか難しいことなのかもしれませんが、自分の持つ偏りに対して少しでも自覚的であれば、ないよりも心の中に何かを受け入れるスペースが生まれます(申し訳ないことに、当ブログはバランスを大切にするため、世の中のバランスが取れる方向への偏りを持ってしまうものと思われます)。
私は福山雅治さんが演じたガリレオのごとく複雑な数式を理解するほど優秀な頭脳を持ち合わせてはいません。でも?持っていたとしても、そういうことを理解できるのはごく一部の選ばれた方々なのですから、一般向けに解説する意味はなくなってしまいます。
なぜなら、誰もが分かるようやさしく解説できるのなら難しい数式ではなくなってしまいますし、もともと優秀な方々はそんなやさしい解説などなくても理解できるのですから。
そういうわけで私は、「素人は黙ってろ!」とか「勉強不足な奴には分からん!」というようなことをバカ丁寧な言い回しにして書くようなことはなるべく控え、難しい数式とは違った?生命現象というか?医療上の難しさそのものを、一般の人の身体に響くような言葉で少しでも表現できたらいいな?と思います。そして、そのヒントになるかもしれない本などを紹介していくつもりです。
最初に紹介する「数字のモノサシ」という本は、数字が苦手な人たちにも身体的な感覚で理解できるように、ユーモアたっぷりのイラストを交えて表現した画期的な本です。当院には、発売された当初からこの本が置いてあります。
でも、あまりこの本を手に取っている人はいないように思います。この本は「数字と気持ちのビミョーな関係」に関する本であって「数学」の本ではないんですけど、やはり「数」という字を見ただけで、数学=計算→苦手と拒絶反応を起こしてしまう人の方が多いみたいです。
本当にとてもおもしろい本なんですよ!個人的には、著者である寄藤さんの本の中では一番好きで、様々なヒントを頂きました!例えば、フレーミングモノサシ……コップに残った水を見て「もう半分しかないと思うか、まだ半分もあると思うか」という思考の違いを心理学でフレーミングというそうです。
ある実験では「600人の死者を出す奇病が発生」し、その病気を撲滅する方法として「200人は助かる」Aの方法と「400人は死ぬ」Bの方法を提示すると、7割以上の人がAの方法を選んだそうです。
冷静に考えればどちらも600人中400人死ぬ事実は同じですよね?でも「助かる」Aと、「死ぬ」Bという枠組みによって数字の判断が変わってしまう……ポジティブな物言いの方が好まれるということなのでしょう。
動物病院でも「この子のガンは手術すれば6割助かる」と説明されたら、4割もダメな可能性があるにもかかわらず、手術に同意する人の方が多いかもしれません。
実際、ある方から聞いた話ですが、親族の方が子宮ガンになり、医師に「手術すれば99%完治する」と言われらしいのです。しかし術後からどんどん調子が悪くなり、亡くなってしまったそうです。
まあ悪性度にもよりますが、ガンを99%完治なんて、なかなか言える先生はいないと思います。そういう先生もうまくいった時はスーパードクターと呼ばれるのでしょう(動物病院に関するこういった話もたくさんあるのですが、なかなか難しい問題なので……来院して頂いた方には、治療方針を決めてゆくヒントとしてお話することもあります)。
それ以外にも、数字を使った心理的なトリックの具体例などが笑えるイラストで表現されています。また、この本を読むと、「数字に関して頭ではわかっているように思ってたことも、ほとんど身体ではわかってなかったんだなぁ」と多くの人が実感できると思います(この説明でいまいちピンとこない方はぜひご購入下さい!けっこうみんな数字にダマされているかもしれませんよ?)。
ところで、みなさんは、生命現象ってどの程度正確に数値化できていると思いますか?医療行為の中では肝臓や腎臓などいろんな臓器の状態を反映する数値が用いられています。
次回はその辺りのことについて書いてみようと思います。