全9話収録の短編集。
本命は『神の灯』。
他の本のレビューで、未読だったのを思い出して読んだ。
「夜には有ったはずの建物が翌朝になったら消え失せていた」という大事件をクイーンが鮮やかに解く。
メイントリックは、明かしてしまったら単純な物。
本作のフォロワーと言えるだろう、類似した作品は幾つも思い出せる。
本作が傑作と呼ばれるのは、そのメイントリックを成り立たせるための他のトリックが沢山登場しているからだ。
そして事件が解決した先には更に……という顛末についてはここでは伏せる。
他の短編も、印象に残る作品が多かった。
『暗黒の家の冒険』は、真っ暗なお化け屋敷で右往左往する大の男と少年との様子が楽しい。
『ハートの4』から派生しているというスポーツネタの事件も興味深い。
中でも『人間が犬を噛む』は、エラリーが思いっきり野球(メジャーリーグ)のジャイアンツファンとしてテンション上がってる様子が新鮮。
エラリーにはアンニュイなイメージが私にはやや強かったのが払拭された。
それでは。また次回。
全8話の連作短編集。
『どすこい。』の事実上の続編でもある。
本命は『ぬらりひょんの褌』。
かつて漫画『こち亀』とのコラボ本で読んだのを再読したく、探したらこの『南極』が見つかった。
この本を一言で表せば、「ギャグ漫画を小説でやってみた」である。
「主に1970年代のギャグ」と注釈を付けた方がいいかもしれない。
『どすこい。』同様、他作者の他作品をパロった内容が、何とも馬鹿馬鹿しく、くだくだしく展開される。
作家(?)南極夏彦を中心に、初期の『ダメおやじ』を更に一層酷くしたようなイジり(というかもはや虐待)ネタが激しく続く。
昔の少年漫画は、確かにこういうノリが強かったなあと、私としてはしみじみしてしまった。
そう、本作は『どすこい。』に比べると、素直に笑えるというより、感心させられてしまう部分が多い。
元ネタが『独白するユニバーサル横メルカトル』のパロディに至っては、作り替えたタイトルを一目見ただけでもうお腹いっぱいだ。
驚くなかれ、『毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る』。何だコレ。
第1話の『海で乾いていろ!』は、文章のみならず挿絵まで京極氏が手がけているというから驚かされる。
最終話、赤塚漫画とのコラボ『巷説ギャグ物語』に至っては、小説と漫画におけるギャグ考察が非常に興味深い。どっちもメリットデメリットあるのね。
最後に小ネタ。ハードカバー版の本作、ひもの栞、いわゆるスピンが何故か4本もずらずらとある。
……すだれ頭みたいってゆーネタなんだろうね、多分。
それでは。また次回。
評判が良かったから読んでみたかった。
私たちの現実(と思われる)世界と、『不思議の国のアリス』を模した(と思われる)世界の二つが交互に描かれる。
二つの世界は微妙にリンクしており、アリス世界で死んだ者は、現実世界でも異なる形で死んでしまう模様。
第一印象としましては、良くも悪くもキャロルを思わせるあの会話をほぼカンペキに再現しているのを強く感じた。
全体的にどうにもこうにもまだるっこしい、ぐるぐるその場を回るばかりで、全く前に進まない意味なし会話。
私は『アリス』は好きだからOKだったが、この雰囲気を受け入れられるかどうかで、本作への評価がまず二分されると思う。
ミステリとしては流石のハイレベル。
誰と誰がイコールなのか、その真相が二転三転。かつ論理的。
普段だったら伏線を確かめるべく再読するところだが、今回はネットで考察を調べるだけにとどめた。
というのは、私としては、本作は、かなりグロい。
ここにそう記すだけでもためらうほどで、文字起こしなんてもってのほか。
そして、アリス世界だけでなく、現実世界もどこか狂っていると感じた答えが最後に明かされる。
小林氏の十八番、クトゥルフ的な世界観が示される。
調べると、この作品の続きがあるそうだが、読むのは当分先になりそうだ。
ビルこと井森が再登場してるらしいという触れ込みには惹かれるが。
その前に、『アリス』の原典で口直ししたい。
純粋に身近な少女を楽しませて喜ばせるために作者が書いた物語の方を。
それでは。また次回。
新古書店で手に入れた。
「このミステリがすごい」で大きく話題になった記憶がある。テレビ番組でも一度ならず紹介されていた。
殺人事件ならぬ“活人”事件。
進行していたはずのがんが何故かことごとく完治してしまう奇妙な現象を、医師たちや保険業者たちが調査する。
作者は国立がん研究センターに勤めていた医師、つまり実際の専門家であり、作中にはひたすら医療や保険にまつわる説明が積み重ねられる。
私が中古で買う前に読んだ人は相当勉強しようとしたようで、至る所に鉛筆の傍線や囲みが書き込まれていた。
無傷のページを探すのが大変なほどだった。
もっとも、事件の核となるトリックは、実は極めてシンプルに説明できる。
この理屈の通りに、人体が常に正確に作動するなら、がんを悪化させるも消滅させるも自由自在かもしれない。
現実問題としては、こう全部うまくいく可能性は高くないではとも思うが。
けれど逆に言えば、前述した膨大な専門知識は結果として、そのトリックから目を逸らすミスリーディング、あるいはノイズになってしまうわけで。
確かに知識は得られたが、どこか虚しさも感じてしまった。
残念だったのは、事件が終息した後の部分。
黒幕は、医師たちの追及から逃げ切ってしまう。
そして結局、人命を弄び続ける理由は明確に説明されない。
続刊を読めば分かるのかもしれないが、これ以上専門用語を読むのはちょっと疲れるなあ。
それでは。また次回。
『猫魔温泉殺人事件』(by吉村達也)、読了。
図書館で偶然見かけて借りたノベルス。
1996年初出。
私が今まで読んだ吉村作品は、『ボクサー』『王様のトリック』『トリック狂殺人事件』といったところ。
本作は『トリック狂~』より後の作品である。
話の筋書きは、ミステリの、というより、往年の2時間サスペンスドラマの定番王道。
冷めた夫婦仲からの不倫旅行から勃発する殺人事件。
その一方で、なぜか温泉巡り大好きの刑事キャラ達が事件と接触する。
警察の捜査が行き詰まったところに、推理作家の名探偵が颯爽と謎を解く。
しかしながら、作中で描かれる謎たちは、むしろ硬派な本格推理。
「幕間」の章は事実上、「読者への挑戦」の代わりと言える。
葬式に真っ白なスーツで参列する男。
観光地で猫を抱いて歩く女。
絶対に見破られない究極の尾行方法。
殺人犯が長く抱えていた凄絶な動機。
ミステリ好きの読者なら、全てが明かされた時に膝を打つだろう。
あと、猫好きの読者なら、早めに色々と察する事が出来るかも。
ところで、この本、巻末に「取材旅ノート」というページがある。
舞台として挙げられた「野口英世記念館」や、「偕楽園の好文亭」など、旅行気分も楽しめるのは、お得な内容と言えよう。
それでは。また次回。
映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のDVDを見る。
タイトルの意味は、鬼ごっこでのかけ声との事。
因みに2002年作。
レオナルド・ディカプリオ氏演じる詐欺師のフランクと、トム・ハンクス氏演じるFBI刑事のカールとの、逃亡と追跡の物語。
フランクは父の没落をきっかけに、富を得ようと家出し、持ち前の演技力と度胸から、パイロットや医師に成りすまし、弁護士にもなって、偽造小切手を使いこなし、17歳で世界を手玉に取るに至る。
最初はたった10ドルの小切手から始まった詐欺。
入念に準備した上で、パイロットとして安定した身分を手に入れ、ただで飛行機に乗りまくり、世界中を飛び回る。
行く手に刑事のカールが立ちはだかるが、堂々と切り抜けるフランクの機転が素晴らしくも恐ろしい。
その後フランクは、何度もカールから逃げおおせるものの、やがて心身に限界を迎える。
どんなに金を得ても、失われた家族は戻ってこない。
どんなに有名人を演じても、誰にも「本当の自分」を認めてもらえない。
本音で接してくれるのは、自分を追う刑事だけだ。
カールの真摯な態度に絆されたフランクは、最終的にFBIに入り、逆に詐欺を摘発する側に回る。
そう、彼はただ、安らげる居場所がほしかった、10代の少年だったのだから。
それでは。また次回。