下記の記事はプレジデントオンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
暴飲暴食で腸に負担がかかり、炎症を起こすことを「腸のむくみ」という。医師の大久保政雄氏は、「腸のむくみは大腸がんのリスクになるが、痛みを感じにくく、ひどくなるまでなかなか気づかない」という——。
※本稿は、大久保政雄『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです
全ての画像を見る(6枚)
大腸がんは増え続けている
現在、日本人が最も多くかかっているがんをご存知でしょうか? 答えは、「大腸がん」です。がん検診が推奨され、前がん段階での早期発見が可能になっているにもかかわらず、日本人の「大腸がん」の罹患率は、下のグラフのように右肩上がりで増え続けています。
※編集部註:本文に合わせ、図表1を追加しました。(2月13日12時46分追記)
大腸がんは、生活習慣と深くかかわっている病気です。腸は私たちが食べたり飲んだりした物すべての残渣
ざんさ
(残りカス)が便になる過程で、最後に必ず通過していく通り道ですから、食生活の影響を特に受けやすい臓器なのです。暴飲暴食を続けていると、大腸も悲鳴を上げますが、腸の最も内側の粘膜には神経がないため、炎症が起きていても痛みを感じにくく、ひどくなるまではなかなか気づきません。
これこそが、「腸がむくんでいる」状態なのです。
症初期は「お腹に違和感がある」程度の症状
大腸がむくんでしまうことは、消化器の診療を専門にしている医師であれば誰でも知っていることですが、一般の人たちにはほとんど知られていないようです。筆者も、お腹の不調を訴える患者さんの腸の内部を大腸内視鏡(肛門から挿入してカメラで内部を調べる医療機器)で観察して、「腸の中が大分むくんでいますね。お酒を飲み過ぎたり、脂っこいものを食べたりしていませんか」と問いかけると、患者さんはびっくりするらしく、「腸もむくむことがあるんですか!?」と聞き返されます。
内視鏡で見た健康な大腸の粘膜は、腸管のヒダがしっかり立ち上がり、毛細血管もはっきり見えます。対して、むくんでいる大腸の粘膜は、慢性的な炎症によって、細胞に水分が誘導されて腫れぼったくなり、表面のヒダや血流がはっきり見えません。
炎症が内側の粘膜層に留まっている段階なら、強い痛みはなく、「お腹に違和感がある」「押すと痛いところがある」「酒を飲むと下痢が続く」などの症状が見られる程度です。しかし、炎症が粘膜より外側の層や、腸のすぐ外にある腹膜など神経のある組織にまで及べば、強い痛みを感じるようになります。
腸がむくむメカニズムをさらにわかりやすくするため、イラスト化してみました。
イラスト=『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』
きれいな腸粘膜
日頃から食事に気をつけていると、上の図のように、腸内細菌の善玉菌と悪玉菌のバランスが良好に保たれて、粘膜の表面もきれいです。血液中の免疫細胞は、何ごとも起こらないときも見張ってくれています。
大腸がんの重大なリスク
ところが、毎日お酒を飲み、油物を好んで食べるような不摂生を続けていると、腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌が増えてしまいます。そして、腸の粘膜に炎症が起きると、免疫細胞は戦闘態勢になって炎症細胞の数が増え、粘膜の細胞に水分が誘導されて、右図のように膨らんで見えます。これが「腸のむくみ」の正体です。
イラスト=『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』
むくんでいる腸粘膜
さらに、腸がむくんだ状態が続くと、大腸の壁に「憩室(けいしつ)」という凹みができてそこから出血したり、エノキのような「大腸ポリープ」ができたりすることもあります。大腸がんは、この大腸ポリープの一部が悪性化したものです。「腸のむくみ」は大腸がんの重大なリスクとなるのです。
腸のむくみの原因は、不摂生な生活──具体的には、①大量飲酒②牛・豚肉やバター、ラード、乳脂肪を含む牛乳や乳製品などの動物性脂肪(オメガ6系脂肪酸)の多い食事③水分不足による慢性便秘など腸内環境の悪化④運動不足などです。
①と②は、大腸がんの発症リスク要因とも共通しています。疫学的な調査研究からも、「1日に30グラムを超える動物性脂肪を摂っていると、腸の炎症を引き起こしやすい」ことや「ハム、ソーセージなど加工肉を食べることは大腸がんの発症につながる」ことなどが報告されています。つまり、「腸のむくみ」を予防する生活習慣は、そのまま大腸がんを予防することにつながるのです。
むくみを予防する4つの習慣
では、どうすれば「腸のむくみ」を予防できるのか?
ここでは、その対策として、4つの習慣を挙げたいと思います。
まず大量のアルコールによる腸のダメージを最小限に抑えるために、患者さんには週2日以上の「完全休腸日」を提案しています。一般的に、お酒好きの人がアルコールを抜く日を設けるときに「今日は休肝日だ」といいますが、そもそも、節酒したアルコールを吸収、分解、解毒するために働いているのは肝臓だけではないのです。
「食べものは胃腸、お酒は肝臓」と、消化の役割分担があるように誤解されていますが、消化器官はすべてつながっており、常に関わりあって働いているので、肝臓の負担になるものは他の消化器官にも負担をかけています。たとえば、膵臓もアルコール摂取の影響を強く受ける臓器であり、「急性膵炎」の約半数、「慢性膵炎」では約8割は、お酒の飲み過ぎによるものです。
少なくとも週に2日は、完全にお酒を抜いて、休肝日ならぬ「休腸日」を作ってあげてください。長く働いてもらうためには、内臓にも働き方改革が必要なのです。
水溶性の食物繊維や水分摂取も大切
次に、腸内環境を整えるための食事です。大腸がんは、食生活の欧米化に伴って増えてきた病気です。「腸のむくみ」の原因になりやすい動物性脂肪を控えるとともに、発酵食品と食物繊維を意識して摂るようにしましょう。納豆、味噌、ぬか漬け、キムチなどの発酵食品には、腸内の腐敗物質の生成を抑える乳酸菌がたくさん含まれています。そして、食物繊維は、腸内の善玉菌のエサになるだけでなく、消化されないまま大腸まで届いて便のカサを増すという効果もあります。
特に、便通を整えるためには、昆布やワカメなどの海藻類や大豆、大麦、イモ類、キノコ類などに多く含まれる「水溶性食物繊維」を積極的に摂るようにしましょう。
さらに、便秘を予防して腸に負担をかけないためには、十分な水分を摂取することが重要です。小腸で栄養分が吸収されたあとの食べものの残渣は、大腸のトンネルの中を運ばれる過程で水分が少しずつ吸収され、便の形になっていきます。水分の摂取量が不足していると、便の塊が硬くなって排便しにくくなるだけでなく、大腸の内壁を傷つけて炎症を引き起こします。
ふつうの体格の成人であれば、「1日2リットルの水を飲む」ことを目安にしてください。水は、喉が渇いていなくてもしっかり飲むものだと考えましょう。
運動不足も腸の健康に影響する
最後に運動です。スマホなどの普及と交通機関の発達、エレベーターやエスカレーターの普及などに伴って、私たち現代人は日常の活動量が激減しています。それに伴って、姿勢が崩れ、大腸などの内臓を支える骨盤底筋群をはじめとする下半身の筋肉が衰えて、内臓を本来の正しい位置にキープすることが難しくなっています。
大久保政雄『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』(すばる舎)
健康状態に問題のない人であれば、まず1日30分程度のウォーキングを日課にすることから始めてみてください。背筋を伸ばして、大股で腕を大きく振って歩きましょう。腕を振ることによって、お腹の上下運動にひねり運動が加わり、腸の動きがよくなります。膝や腰が痛い人は、プールの中で行う「水中ウォーキング」も効果的でしょう。
日本人の二人に一人が、がんにかかる時代になりました。そのトップである「大腸がん」の重大リスクには、大腸の粘膜に軽い炎症が続くことによって起きる「腸のむくみ」があるのです。不摂生を避けて腸内環境を整えることができれば、むくみは必ず治まります。そして、便通の異常やおなかの違和感、軽い痛みなどを感じたら、軽視せずに消化器内科専門医を受診することをお奨めします。
- 大久保 政雄(おおくぼ・まさお)
- 山王病院 内科副部長
- 1974年、京都府生まれ。日本大学医学部卒。東京逓信病院消化器内科医長を経て、2018年より山王病院(東京都港区)内科副部長。専門は消化器疾患全般、特に内視鏡での診断と治療に尽力し、“正確で安全かつ苦痛のない内視鏡診断”を実践する