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タワーマンションと低層マンション、どちらのほうが住みやすいのか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏は「タワーマンションは維持費も通常の2倍以上かかり、コストが大きい。建て替えも困難であるため、30年後にはほとんど廃墟になっている可能性が高い」という――。
※本稿は、榊淳司『ようこそ、2050年の東京へ 生き残る不動産 廃墟になる不動産』(イースト新書)の一部を再編集したものです。
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日本にあるマンションの95%が建て替え不可能
オフィスビルというのは、古くなったら建て替えればいい。
これは実に簡単な話である。ところが、分譲マンションはそう簡単に建て替えられない。
理由は、オーナーが何人もいるからである。オフィスビルや賃貸マンションというのは、基本的にワンオーナーである。持ち主が一人、あるいは一社なのだ。複数の場合でも、せいぜい数人か数社。
そのオーナーが「建て替える」という意志を持てば、あとは資金だけの問題となる。仮に、そのオフィスビルや賃貸マンションの立地が、都心や近郊の不動産的評価として一等地であった場合、銀行が喜んで建て替えの資金を貸してくれる。
もちろん土地を担保に差し出さなければならないが、それでもマンションに比べれば建て替えは容易である。
それが、マンションの場合はそんなに簡単ではない。簡単でないどころか、かなり難しい。
そして、日本中の95%以上のマンションは、現行法上では実質的に建て替えは不可能なのだ。こう書くと、多くの人は不思議に思われるだろう。
104万戸あるマンションのうち建て替えられたのは300件
東京の都心を歩けば、新しく建て替えられているマンションがいくつもあるではないか、と考える人がいそうだ。しかし実際のところは、2020年の4月時点において、全国で建て替えられたマンションは、準備中も含めて300件に満たないのだ。
これは国土交通省が把握している全国の旧耐震基準(1981年以前の建築確認基準)のマンションの総数である約104万戸に比べると、ほんのわずかでしかない。
東京の街角で見かける建て替えられたマンションは、非常に幸運な300事例未満の中の一つなのだ。では、なぜマンションが老朽化しても建て替えられないのか。
簡単に説明しよう。
日本は私有財産をかなり強力に守る国である。これは日本国憲法第29条で明記されている。よほどの公益的な理由がない限り、この国では国民の持つ私有財産権を制限することはできない。
マンションの区分所有権も立派な私有財産権に当たる。高いお金を払って購入した(区分所有権を得た)マンションの住戸は、私有財産として制度的にしっかりと守られている。
ところが、マンションは鉄筋コンクリートで作られた頑丈な建物ながら、必ず老朽化する。建物ができて何十年も経過すると、日常の生活に支障をきたすほどに老朽化する場合もある。
そうなると、区分所有者の多くは「建て替えたい」と考えるようになるはずだ。マンションを建て替える場合、最も大きな問題はお金である。要するに、建て替える資金を誰が出すか、という問題だ。
東京の高級住宅街であれば建て替えは可能
東京の真ん中にあるマンションなら、この問題を易々
やすやす
と解決できたりする。
その仕組みを説明すると、以下のようになる。まず、建て替えがうまくいくのは、容積率が余っている場合がほとんどだ。容積率とは、その土地に建てられる建物の床面積が土地面積と比べてどれくらいになるか、という比率のことだ。
これは基本的に市区町村などの行政が定めている。例えば面積が1000平方メートルの土地の容積率が400%だったとすると、その土地には床面積の総計が4000平方メートルまでの建物が建てられることになる。
仮に港区高輪にある容積率400%の地域に、敷地面積1000平方メートルで築50年超のマンションがあって、たまたま容積率が半分ほど余っていたとする。
つまり、その土地では延べ床面積が4000平方メートルの建物までが建築可能だけれども、その老朽マンションの現況床面積は2000平方メートルだったという場合だ。
この場合、新しく床面積が4000平方メートルのマンションに建て替えても、元の住民に前と同じ面積の住戸を配分したうえで、残り2000平方メートル分の住戸を誰かに販売することができる。
港区高輪あたりだと、新しく建築した2000平方メートル分のマンション住戸がけっこうな値段で販売できるので、残り2000平方メートル分の建築費までそこから出すことができる。元の住民は1円も払わずに、ピカピカの新しいマンションを手に入れられることになる。
相対的に元の住民が所有している敷地の持ち分は半分になってしまうが、それでも新しいマンションがタダで手に入るわけだから、計画に反対する人はほとんどいない、というわけだ。
容積率が低く高齢者の多いマンションは建て替えられない
ところが、築50年超のマンションが港区高輪ではなく、東京都下の郊外某市にあったとする。仮に私鉄の最寄り駅から徒歩12分、容積率を調べてみると、まったく余っていなかったら……。
この場合、このマンションを建て替えようとすると、費用はすべて現在の区分所有者の負担となる。
今の建築費相場観から推計すると、マンションを新たに建て替えるには取り壊し費用も含めて、1戸当たり約2500万円が必要となる。他に、建て替え期間中の仮住まい費用まで発生する。
「そんなお金はないから、建て替えなくてもいい」建物が老朽化しているということは、そこに住む区分所有者も少なからず高齢化している。特に郊外型の分譲マンションは、区分所有者の入れ替わりが少ない。
新築時から暮らしていて高齢化した方の中には、建て替え費用を負担できる人もいれば、年金でギリギリに暮らしている人もいる。
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こうして区分所有者同士で建て替えについての意見が賛成と反対に分かれた場合は、どうなるのか。
現実的には、ほとんど建て替えは不可能となるのだ。
現行の区分所有法をはじめとした諸法規では、全区分所有者の5分の4が変わってが賛成すれば、建て替えを決定することが可能である。最後まで反対する人の住戸は、強制的に買い上げることができるという規定もある。しかし、そこまでして建て替えているケースは稀まれである。
ほとんどのマンションは自己負担で建て替えるしかない
だいたいからして、各自が約2500万円以上を負担する建て替え決議案に、全区分所有者の5分の4が賛成するケースは少ない。
というより、私は今までにそのような「全額負担」で建て替えたケースを知らない。
建て替えたら、負担した約2500万円よりもはるかに資産価値評価が高い住戸を得られるようなケースなら、5分の4まで賛成者を増やせるかもしれないが、先に上げたように「東京都郊外の○○市、駅徒歩12分」の場合、約2500万円以上の資産価値評価になるケースは少ない。
今後はさらに、こういった条件が厳しくなりそうだ。
このように現行法の規定では、マンションの建て替えはかなり困難である。それでも、マンションの老朽化は日々進んでいく。
では、どうすればいいのか。私も日々この問題を考えているが、うまい解決策はない。ある程度私有財産権を制限するような法規を新たに設けるか、現行法の運用規定を変えていくしかないだろう。
そうした法規制の緩和で、よりスムーズに建て替えが進むようにするのだ。私有財産権を一部制限するなどの法規制緩和が実現したとしても、費用の問題は残る。
マンションはあくまでも私有財産であり、そこに公的な資金は注ぎ込めない。建て替えるにしても、費用負担は各自の自己責任でまかなうしかないのだ。
タワマンの建て替えは非常にやっかい
そんな未来を考えると、区分所有のマンションというのは何とも不安定な住形態である。
これは東京だけではなく、日本全体を悩ます問題になりそうだ。そして東京には、さらに厄介やっかいなタワーマンションという、区分所有のモンスターのような建物が何百棟もある。
実のところ、タワマンは普通の板状マンションに比べて、さらに深刻な老朽化問題を抱えそうなのである。2050年頃の東京を考える時、都市を形作っている様々なハードの中で、最も問題が深刻化していそうなのがタワマンではないかと考える。
タワマンも、基本的には普通のマンションと同じく区分所有法が適用される。そこに何も違いはない。だから建て替えの時には、全区分所有者の5分の4(現在は4分の3)が賛成しなければならない。
もちろん、費用の問題も普通のマンションと同じだ。まだ例がないので何とも言えないが、タワマンの場合は建物の取り壊し費用が通常型の2倍程度になるのではないか。
取り壊しただけで、おおよそ1住戸当たり1000万円見当である。これだけでも相当に厄介だ。お気づきだとは思うが、タワマンで「容積率が余っている」という事象はほぼありえない。
それどころか、規制緩和の特例をいくつも重ねて建設されているのがタワマンである。2050年時点でそうした規制緩和がなくなっていた場合、多くのタワマンが既存不適格にさえなってしまう可能性がある。
それがタワマンというものなのだ。つまり、タワマンには未来における「幸運な建て替え」はありえないと言っていい。
タワマンの寿命は45年で尽きる
次に、タワマンにはやたらと維持費がかかる。管理費や修繕積立金は通常タイプのマンションに比べると、だいたい倍だと思っていい。
そして当然ながら、タワマンも大規模修繕が必要である。必要という以上に、プレハブのパネルを張り合わせるようにして外壁が作られているタワマンは、その隙間から雨漏りがしやすいという弱点がある。
だから15年に一度くらいの割合で、必ず外壁の修繕補修工事をすべきだろう。これにはかなりの費用がかかる。それでも、これをやらないと雨漏りだらけのマンションになりかねない。
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タワマンがやたらと増え出したのは、2000年前後からである。その理由は、1997年に建築基準法の大きな改正があって、タワマンが作りやすくなったことだ。
その頃から猛烈な勢いで東京にタワマンが増え出した。私はかねがね「タワマン45年寿命説」というものを唱えている。前述のように、タワマンは15年程度の年数ごとに、外壁の補修をともなった大規模修繕工事が必要である。
1回目の築15年頃の工事では、せいぜい外壁とその他劣化部分の修繕補修でいいはずだ。2回目の築30年頃の工事では、上下水道の配管を取り替えたほうがいいだろう。縦管はもちろん、各住戸の給湯管も取り替えるべきだ。これにも多額の費用がかかる。
3回目の大規模修繕工事は、スケジュール通りだと築45年あたりになる。2000年頃から竣工ラッシュを迎えた東京のタワマンにとって、その時期は2050年頃になるのではないか。
特注のエレベーターに多額の費用がかかる
2回目、もしくは3回目の工事では、エレベーターの交換があるはずだ。30年から45年も経過すると、エレベーターもさすがに交換時期である。
何といってもエレベーターは人の命を預かって運ぶ装置だ。安全性には特に配慮すべきである。タワマンのエレベーターは、すべてが特注である。
数十階を行き来するようなタワマンのエレベーターは、既製品化できないからだ。交換の際にも特注でメーカーに作ってもらうしかない。これにも当然、多額の費用が発生する。
多くのタワマンの管理組合は、これらの費用負担に見合った額の修繕積立金を徴収していない。だから、ほとんどのタワマンが築30年前後にくる2回目の大規模修繕工事の時には、すでに資金不足に陥っているはずだ。
そこを銀行融資などで乗り切っても、築45年前後の3回目の大規模修繕工事が実施できるだろうか。そう考えると、2050年頃には3回目の大規模修繕工事が実施できないタワマンが、東京の街で目立ってくるのではないかと予測する。
考えたくはないが、タワマンが廃墟化すると、東京の街にとってはかなり厄介なお荷物になる。それにしてもタワマンという住形態は、建造物としても区分所有のコミュニティとしても、未完成で未知な部分が多すぎる。我々はタワマンという異形の住形態の、壮大な耐久実験をしているようなものなのだ。
2050年には大量のタワマンが廃墟化する
そして、どうやらこれは厄介なことになりそうだ、という未来も見えてきた。最悪の場合、タワマンは廃墟となる。少なくとも現行法規では救いようがない。
そうなれば、もちろん資産価値もなくなる。廃墟化の危機を迎えたタワマンが立ち並ぶ2050年の東京。今からでも何か対策は立てられないものかと考えるが、良い考えは出てこない。
榊淳司『ようこそ、2050年の東京へ 生き残る不動産 廃墟になる不動産』(イースト新書)
できることがあるとすれば、これ以上はタワマンを作らないことだ。また、現に所有しているのなら早めに手放したほうがよい。
そもそもタワマンとは、限られた敷地に多くの住戸を作るために作られた必要悪のような存在である。であるにもかかわらず、所かまわずに建てられたのは、デベロッパー側に「儲
もう
かる」という強烈な理由があったからだ。
だから、敷地が余っている湾岸の埋立地にまで建ててしまった。考えてみれば相当に無責任なことである。2050年にそういったタワマンが廃墟化の危機を迎えているのであれば、それは製造者責任として開発分譲したデベロッパーに、それなりの負担を課すべきではないのか。
- 榊 淳司(さかき・あつし)
- 住宅ジャーナリスト
- 1962年、京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。1980年代後半のバブル期以降、四半世紀以上にわたってマンション分譲を中心とした不動産業界に関わる。一般ユーザーを対象に住宅購入セミナーを開催するほか、新聞や雑誌に記事を定期的に寄稿、ブログやメルマガで不動産業界の内幕を解説している。