下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
誰もが気になる健康診断の指標といえば、血圧、血糖値、そして「脂質」。その脂質の2大要素と言えば、「中性脂肪」と「コレステロール」です。
血液中の中性脂肪やコレステロールなどの脂質のバランスが崩れる「脂質異常症」で治療を受ける人は、約220万人以上(厚生労働省「患者調査」2017年)ですが、その予備軍の人を含むと10倍の2200万人にも上ると推計されています。
脂質異常症のリスクが高まっても自覚症状はないため、放置しがちですが、その間に動脈硬化は確実に進み、やがて心臓や血管の病気へとつながる恐れがあります。そこで今回は、日経Goodayのこれまでの記事から、新年に改めて取り組みたい、中性脂肪・コレステロール値を改善する食事のポイントを解説していきましょう。
中性脂肪を下げる食事のポイントは3つ!
中性脂肪を下げるために控えるべきは、脂質? それとも糖質?
中性脂肪は脂質の仲間だから、脂っこいものを控えればいいと考えるのは早計だ。(c)YUTTADANAI MONGKONPUN-123RF/PaylessImages-123RF
年末年始の食べ過ぎ・飲み過ぎで体が重い…という人も多いでしょう。新型コロナの感染拡大で外出も減り、例年以上に、体を動かさずに家の中で過ごすことになったかもしれません。
そうした生活の“乱れ”が数値として顕著に表れるのが「中性脂肪」です。基準値を超えている場合は、そのままにしておくと動脈硬化を進めることは、数々の研究から明らかになっています。
過剰になるとさまざまな病気のもととなる中性脂肪ですが、体の中で分解されないコレステロールに比べると、「減らしやすい」という特徴があります。中性脂肪は、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動によって下げられるほか、食事による対策ももちろん有効です。ただ、中性脂肪と食事の関係について、多くの人が誤解していることがあります。
例えば、「中性脂肪は、『脂肪』というだけに、肉類などの脂っこい料理を避ければ下がるはず」、そう思う人もいるかもしれません。しかし、脂質対策の専門家で数々の著書も手掛ける帝京大学名誉教授の寺本民生さんによると、それは誤解なのです。
「血液中の中性脂肪の数値は、150mg/dLをボーダーとして、上回ると高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)と診断されます。150mg/dLを超えると動脈硬化を起こす恐れがありますが、特に200~300mg/dLくらい、中等度まで中性脂肪が上がるとそのリスクがさらに高まります。しかし、その場合、動脈硬化になりやすいものの、脂質の摂取を制限してもほとんど効果はありません」(寺本さん)
では、脂質の代わりに何に注意すればいいのか。寺本さんが勧める中性脂肪を下げる食事のポイントは、脂肪よりも糖質を減らすこと。さらに、お酒をよく飲む人は、お酒を減らすことも大事なのです。そして、意識して摂取を増やしてほしいのが魚、特に青魚を食べることを勧めています。
中性脂肪を下げるために「脂っこいものを避ければいい」は誤解
なぜ脂質よりも糖質を減らしたほうがいいのでしょうか。「糖質は小腸で吸収・分解された後、肝臓に運ばれます。そして肝臓では、その糖質からグリセロール(グリセリン)を合成し、血液中の脂肪酸を原料にして、中性脂肪が合成されています。つまり、糖質をとればとるほど、合成される中性脂肪が増えていくのです」(寺本さん)
一方、食事で摂取する脂肪(油)は、「体の中で燃焼し、エネルギーとして使われます。食べた脂肪の多くは燃焼し、一部は速やかに肝臓に運ばれるので、血液に影響を及ぼさないうちに運命を終えていきます」と寺本さんは解説します。
食事からの糖質摂取を控えるといっても、どれぐらい減らせばいいのでしょうか。寺本さんは「むやみに糖質を減らしてはいけません」と注意を促します。
「1日のエネルギーの半分くらいは糖質からとらないと、ほかの栄養とのバランスが悪くなります。糖質が減ったぶん、肉類などの動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取が多くなると、悪玉のLDLコレステロールを増やすことにつながるからです。また、糖質は体の中でアミノ酸を作るプロセスにも関与しています。アミノ酸の中には生きていくうえで欠かせないものがあり、それが不足すると、うつ傾向になるなどの悪影響が出ることも考えられます」(寺本さん)
寺本さんが勧めるのは、1日の摂取カロリーのうち、50%程度を目標に糖質をとること。一般に、糖質の比率は6割程度なので、それを2割程度、「ちょっと減らす」イメージと考えればいいでしょう。もちろん、いつもごはんを大盛りにしている人のように、もともと糖質をとり過ぎの人は、2割と言わずガッツリ減らしましょう。
スイーツ好きの人も要注意です。体にゆっくり吸収される穀類と異なり、砂糖(ショ糖)は吸収されるスピードが速く、中性脂肪へと合成されるのも速いのが特徴です。ケーキなどの菓子類、ジュースなどのとり過ぎには注意しましょう。
アルコールは中性脂肪の分解を邪魔してしまう!
寺本さんは、中性脂肪が高い人の傾向として、「女性は甘いものの食べ過ぎ、男性はお酒の飲み過ぎの人が多い」と指摘します。
通常、お酒をよく飲む人が気にするのは、γ-GTPなど肝臓の機能を表す数値でしょう。しかし、アルコールには肝臓で中性脂肪が分解されるのを抑え込む働きもあるのです。
アルコールには、肝臓で中性脂肪が分解されるのを抑える働きがある。(c)wnaoki-123RF
寺本さんは、個人差はあるものの、アルコールをやめると、中性脂肪の値は顕著に変わってくると言います。
「中性脂肪が高い患者さんに、『1週間、お酒をまったく飲まないようにしてください』とお願いすることがあります。その後で、今度はいつも通りにお酒を飲んで1週間過ごしてもらいます。その2パターンの血液中の中性脂肪値を比較すると、ものすごく差が出ることがあります」(寺本さん)
一方で、お酒には良い効果もあるといいます。「少量のお酒であれば、善玉のHDLコレステロールを増やす働きもありますから、必ずしも禁酒が必要というわけではありません。しかし、酒量が多くなれば、中性脂肪が高まる問題のほうが大きくなってしまいます」と寺本さん。
つまりは「適量の飲酒」がいいということ。日本動脈硬化学会の「脂質異常症診療ガイド2018年版」では、お酒の摂取の目安として、「アルコール摂取を1日25g以下に抑える」ことを推奨していまず(*1)。アルコール25gとは、ビールなら大瓶1本に相当する量だ。もちろん、お酒に弱い人(顔が赤くなる人)や女性、シニアの人などはより少ない量にするのが望ましいでしょう。
*1 厚生労働省の「健康日本21」で推奨する量は、1日のアルコール摂取量で20g(ビール中瓶程度)以下と、少し少ない。
青魚のアブラ、EPA・DHAは積極的にとろう
寺本さんが、中性脂肪を下げるために意識してとってほしいと話すのが「魚」。特に、青魚を積極的に食べるのが良いそうです。
魚に含まれる、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)などのn-3系多価不飽和脂肪酸(オメガ3)が体にいいことは広く知られている通り。それは中性脂肪に関しても例外ではありません。高中性脂肪血症の治療薬、つまり中性脂肪を下げる薬の中には、EPAを含む薬(EPA製剤)もあります。
「中性脂肪を下げる薬として存在しているように、オメガ3には中性脂肪を下げる効果があります。食事由来のオメガ3の摂取によって大きく下がるとまでは言えませんが、ある程度の効果が期待できます」(寺本さん)
そして、「魚をたくさん食べた人は心筋梗塞の発症率が低いというデータも出ています(下図)。やはり魚が体に良いのは間違いありません。積極的にとるようにしてください」(寺本さん)
魚を週8回程度食べる人は、週1回の人と比べると、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)のリスクが4割、さらに心筋梗塞と診断が確定された場合に限ると6割もリスクが低かった。(Iso H, et al. Circulation. 2006 Jan 17;113(2):195-202.)
運動に励んでも、悪玉のLDLコレステロールを減らす効果は少ない
悪玉コレステロールを下げるのは運動? それとも食事?
健診結果の脂質のデータが基準値を超えると「脂質異常症」と診断されます。中でも、悪玉のLDLコレステロールが140mg/dL以上だと高LDLコレステロール血症、善玉のHDLコレステロールが40mg/dL未満だと低HDLコレステロール血症となります。
コレステロール対策のポイントは以下の通り。悪玉のLDLは食事で下げ、善玉のHDLは運動で上げるのが基本。逆に、悪玉は運動ではあまり下がらず、善玉も食事ではあまり上がりません。
「LDLコレステロールが高いタイプの人に効くのは運動より食事です。LDLコレステロールを下げるカギ、『LDL受容体』の働きが良くなるような食材を選ぶことが大切です」と寺本さんは解説します。
LDL受容体とは、細胞の表面にある鍵穴(ゲート)のようなもので、多くは肝臓の細胞に存在します。体がコレステロールを必要としたときに、細胞の表面に鍵穴が出てきて、血液中のLDLコレステロールは鍵を差し込むようにして細胞内に入り込んでいきます。そうやってLDL受容体がLDLコレステロールを受け入れると、血液中にたまらずに済むというわけです。
悪玉コレステロールを下がりにくくする食材とは?
だが、困ったことに、この鍵穴、LDL受容体の作用を邪魔するものが存在します。それが動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸です。「飽和脂肪酸には、LDL受容体の合成を抑え込む性質があります」と寺本さん。鍵穴(LDL受容体)が、鍵(LDLコレステロール)と合わないように邪魔してしまうため、飽和脂肪酸を多く含む動物性脂肪をたくさん食べれば、血液中のLDLコレステロールが過剰になってしまいます。
動物性脂肪を多く含む食材は、牛肉、豚肉などの「肉」、バターやチーズ、牛乳、ヨーグルトなどの「乳製品」などがあります。もちろん重要なたんぱく源でもあるためゼロにする必要はありませんが、とり過ぎは禁物。肉食に偏っている人は、魚や大豆製品などの比率を上げるようにしましょう。
LDLコレステロールが高い人の場合、鶏卵や魚卵、レバーなどに代表されるコレステロールが豊富な食材も控えることが必要になります。食品として摂取するコレステロールは、動物性脂肪ほどには、LDLコレステロールを上げないものの、すでにLDLコレステロールが高い人は、やはり控えなければならないのです。日本動脈硬化学会「脂質異常症診療ガイド2018年版」でも、LDLコレステロール値が高い「高LDLコレステロール血症」の人は、1日200mg未満を目指すよう推奨しています。
「食事から摂取したコレステロールが体に吸収されやすいかどうかは、個人差が大きく、体質によって異なります。コレステロールが多い食材として知られる卵(鶏卵)を食べても、それほど影響が出ない人がいるのも確かです。しかし、脂質異常症の中には、コレステロールの摂取量が多いために発症する人は確実にいます」(寺本さん)
コレステロールを多く含む食品例
卵全卵(鶏卵) 1個(50g)210mgレバー鶏レバー(50g)185mg牛レバー(50g)120mg魚介類うなぎ(100g)230mgシシャモ(50g)115mgイクラ(50g)240mg洋菓子カスタードプリン(100g)140mgシュークリーム(100g)230mg(「日本食品標準成分表2015年版(7訂)」より算出)
つまり、第1優先は飽和脂肪酸のとり過ぎを控えること、そして第2が食事由来のコレステロールの摂取を控えること、と考えればいいでしょう。
「飽和脂肪酸の摂取が血中コレステロール値に及ぼす影響は、食事由来のコレステロールより大きいことが明らかになっています(*2)。コレステロールが多い食材より、飽和脂肪酸の摂取を減らすことを優先するほうが現実的です」(寺本さん)
動物性脂肪に含まれる「飽和脂肪酸」はLDLコレステロールを上げますが、同じ脂肪酸の仲間、「不飽和脂肪酸」にはLDLコレステロールを下げるとされるものがあります。その1つが、先に登場したオメガ3に分類されるEPAやDHAです。サバやイワシ、サンマなどの青魚に豊富な成分で、動脈硬化を進みにくくすることで知られています。
*2 米国の生物学者アンセル・キーズ博士は1965年、血中のコレステロール値と食事由来の各脂肪酸との関連を示す式を提唱している(Metabolism. 1965;14(7):776-87.)。そこでは、飽和脂肪酸と食品由来のコレステロールが血液中のコレステロール値を増加させ、多価不飽和脂肪酸は低下させることが示されている。そして、飽和脂肪酸と食事由来のコレステロールでは、飽和脂肪酸の影響が大きい。
ここまで紹介したLDLコレステロール対策の他に、積極的にとったほうがよい食材として、寺本さんは、大豆を使った食材、そして食物繊維の摂取がお勧めだと話します。
「血中コレステロールを改善させる方向に作用する食材はいくつかあります。その1つが、豆腐や納豆など、大豆を原料とする食材です。大豆に含まれるイソフラボンには、LDL受容体の数を増やす効果があると言われています。また、野菜やきのこに多い食物繊維には、コレステロールの吸収を抑えて体外へ排出しやすくする働きがあります」(寺本さん)
善玉のHDLコレステロールを上げる、最善の手段は「運動」
続いて、善玉のHDLコレステロールの対策を紹介しましょう。善玉のHDLコレステロールを上げるには、食事を工夫してもそれほど効果がない、と寺本さんは話します。「食事より、運動が効きます」と寺本さん。
「運動によって善玉HDLコレステロールが上がる理由は諸説ありますが、まだ詳細は明らかになっていません。しかし、国内でもウォーキングの歩数が多いほどHDLコレステロール値が高い傾向があることが確認されています(下図)。HDLコレステロール値が運動によって改善することは、データの上では明らかです。また、マラソン選手のHDLコレステロールはとても高いことが知られています」(寺本さん)
(国立健康・栄養研究所「国民栄養調査」1991年を参考に作成)
いくら運動をしても、コレステロールは体の中で分解されないため、悪玉のLDLコレステロールを下げることは困難。しかし、運動すれば、中性脂肪を燃焼させて減らすことができます。中性脂肪とHDLコレステロールの間にはシーソーのような関係があり、中性脂肪が下がれば、HDLコレステロールが上がるという性質があります。現時点では、HDLコレステロールを増やすことを目的とした薬剤は存在しないため、運動はHDLコレステロールを上げる最善の手段といっていいでしょう。
HDLコレステロールに効く運動とは、ウォーキングに代表される「有酸素運動」です。少し汗ばむ程度で、軽く息が上がるくらいの運動がベストで、激しすぎる必要はありません。大切なのは、ダラダラ動かず、キビキビと体を動かすこと。欲を言えば1日30分、毎日続けるのが理想ですが、あまり気負わず、週3日以上を目標にして始めるといいでしょう。また、この1日30分の運動は、例えば、10分間の運動を、朝昼晩と3回実施しても構いません。
日経Gooday編集部