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老化を抑えるためにはどういった生活が理想的なのか。東京大学医科学研究所の中西真教授は「適切なカロリー制限は老化を抑制できる。一方、過度なダイエットや運動。ストイックなジム通いは、老化を招く恐れがある」という――。
※本稿は、中西真『老化は治療できる!』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
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少量のストレスを加えることで老化は抑制できる
GLS-1阻害薬が一般的に使われるようになれば、「不死」は無理でも「不老」はいずれ実現できるかもしれません。とはいえ、今すぐに、というわけでもありませんから、日々の生活のなかで、少しでも老化抑制につながることが実践できないか、と考えてしまいますよね。
ここでは、細胞老化を研究してきた私から、実践できそうなことをいくつか提案したいと思います。加減が難しいのですが、実は、ごく少量のストレスが加わることで、老化を抑制できることがわかっています。
強すぎるストレスは逆に老化を早めてしまいますが、ささやかなストレス、マイルドなストレスを多少かけ続けておくと、ストレスに対する抵抗性が獲得できます。それにより、細胞が老化するのを一定程度抑制することができるようになるんです。
適切なカロリー制限は老化を抑制するが…
たとえば、ダイエットをする人の多くがカロリー制限をすると思いますが、ある程度のカロリー制限は、老化を抑制することがわかっています。マイルドなカロリー制限、必要な摂取量の8割程度に控えて、食べたいという気持ちをぐっと抑えて軽いストレスをかけておくのです。
カロリーを一定制限することで、体内にNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という補酵素が増えてきます。カロリー制限とNADは密接に関与していて、飢餓状態になると、体が必要とするのでNADが増えてくるのです。そして、このNADは代謝を促進することで加齢性のさまざまな症状を改善させるといわれています。腹八分目という昔の人の知恵は、実は非常に重要な意味があったんですね。
とはいえ、飢餓状態がよいからと、本当に強い飢餓状態に自分を追い込んではいけません。強すぎるストレスは老化を早めてしまいます。
時折、一気に痩せたいからといって、絶食に近いような非常に過激なカロリー制限をする人がいますが、それは逆効果です。ストレス負荷が強すぎて、痩せることができたとしても一気に老化が進んでしまうでしょう。あくまでもストレスは低用量にとどめておくべきです。
「適度なストレス」を見極めるのは難しい
しかし、そもそも必要なエネルギー摂取量というのは個人差が大きいので、適度なカロリー制限といっても、どの程度がその人にとっての「適度」なのか見極めがとても難しい。よく、年齢や性別、身体活動量などから、一日に必要なエネルギー量を示す表などがありますが、その人の適正カロリーというのは、体型や代謝状態、日々の活動内容などによって大きく異なります。
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毎月、かかりつけクリニックに通って、定期的に活動量などを調べていけば、その人にとっての適正カロリーは算出できるでしょうが、そうした受診には保険がききませんし、誰もそんなことをやろうとはしませんね。
だから、個々人にとっての適正カロリーがはっきりしないまま、「適度なカロリー制限」などと言っても無責任なことになりかねないし、下手にカロリー制限をして栄養不足になると、それはもう完全に体に対してよろしくない状態ですから、私もあまり積極的には言えないところなのです。
ですが、栄養バランスに気をつけつつ適度にカロリー制限をすると、老化は抑制できるのです。それと同じことが紫外線などにも言えます。少量の紫外線であれば、体を強めて老化に対してむしろ予防的に働きます。しかし、その「少量」の見極めが難しい。
そこを超えてしまうと細胞にダメージを与えて老化を促進してしまうので、本当に難しいところです。各自の適正カロリーと理想的な食生活をきちんと管理するというシステムが将来的に構築できれば、それは老化予防として効果を発揮すると思います。
“過度な有酸素運動”は老化を進める
老化の原因にはさまざまなものがありますが、環境要因は大きいです。なかでも、紫外線と活性酸素の影響は無視できません。紫外線に関しては、過剰に紫外線を浴びないように気をつけるしかありません。
活性酸素のほうは、過剰な運動によって大量の活性酸素が発生してしまいますので、そこに気をつけるといいでしょう。人間は酸素を吸って生きています。酸素がないと生きていけません。ところが一方で、酸素は非常に有毒なんです。酸素を吸っているがゆえに老化すると言ってもいいくらい、酸素は体にダメージを与えます。
酸素は生きていくうえで必要不可欠であり、いいものではあるのですが、同時に悪いものでもあるという認識が必要です。活性酸素はあっという間に体内に発生し、あっという間に半減していきますが、活性酸素を大量に生み出す代表格が、過度な有酸素運動です。
「適度」ではなく「過度」ですので、読み間違えないよう注意してください。マラソンなどに限らず、有酸素運動であればなんでも、酸素をたくさん吸ってエネルギーを産生する過程で活性酸素を発生させてしまいます。この活性酸素が細胞を傷つけて老化へと誘導してしまうのです。
マラソンやジム通いをしている人は注意が必要
中毒性のある「過度な運動」は老化を促進生活習慣病の予防や自律神経を整えるなど、健康維持のためには適度な運動をしましょう、というのが常識のようにいわれています。
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もちろん、適度に体を動かすこと、適度なストレスは老化予防につながるのですが、あくまでも程度の問題だということです。アスリート並みの激しい運動を自らに課すような、厳しいトレーニングは逆に老化を早めますので気をつけましょう。
その意味では、ストイックにマラソンやジム通いなどを日課にしている人は注意したほうがいいでしょう。ほとんどの方が自分に合った「適度」な運動をこなしていると思いますが、ああいった運動を日課にすることで、強迫観念に迫られてしまう人もいるからです。一日走らないだけで罪悪感を覚えたり、一日でもやめると筋力が落ちてしまうのではないかと不安になってしまったり。運動には一種の中毒性もあるんですね。
ずっと頑張って走り続けて苦しくなってくると、ランナーズハイというか、脳内麻薬が出てくる。そうした感覚に中毒性があって、そこに快感を覚えるのが「ジョギング病」とでも呼ぶべきものです。
東京オリンピックでも世界中のアスリートたちの素晴らしい活躍をたくさん目にしました。日々の厳しい鍛錬の賜物だと思います。しかし、技能的には上達しても、過度の有酸素運動は、老化という観点から見れば、実はマイナス方向にしか働いていません。
筋肉量が多い人は老けやすくなってしまう可能性も
一方、筋トレはいわゆる無酸素運動に当たりますので、それ自体は活性酸素を生み出す運動にはなりません。しかし、過度に筋肉を鍛えすぎると、酸素の消費量が一気に増えてしまいますので、有酸素運動のやりすぎと同じことになってしまいます。
適度な筋肉量をつけておくのは個体にとって大切なことですが、やはり適量というものはあります。適量をはるかにオーバーするような筋肉量をつけてしまうと、酸素消費がそれだけ増えてしまい、老化が進んでしまいます。ボディビルダーのような筋肉質の体は、代謝で栄養素を消費しますから、食べても食べても太りません。一見いいようだけれども、実はたくさん酸素を消費しているということになります。
これは、食べて食べてたくさんの酸素を消費してエネルギーを得ているのと同じことで、つまり、有酸素運動でどんどん酸素を消費しているのと同様の状態だと言えます。酸素をどんどん消費すると老化も早い。筋肉量が多い人は、加齢に伴い老けやすくなっていく傾向にある、という可能性も否定できないのです。
酸素をあまり必要とせずにエネルギーを得られる体質に変えていくことが、老化の抑制につながることがわかっています。先ほどの、マイルドなカロリー制限についても、摂取カロリーを80%程度に抑えた生活を続けることで、同じ程度のエネルギーを得るのに酸素の消費が少なくてすむような体質に変わっていきます。いかに酸素を多く消費しすぎないか、というところが、老化防止のひとつのポイントになります。
体重が安定するところまでダイエットすれば目安が分かる
自分にとっての適切なカロリー消費量を正確に知るには、その人の筋肉量や酸素消費量を測定しなければなりません。そこから、必要なカロリー摂取量がわかり、その8割レベルにカロリーを制限することで、酸素消費の少ない体質に改善します。
中西真『老化は治療できる!』(宝島社新書)
とはいえ、一般の方たちが気軽にそうした正確な測定を受けられるような機会は、ほとんどないでしょう。そうであれば、今の生活のなかから、自分で目安を見つけていくしかありません。
過剰なカロリー制限は過剰なストレスや極度の栄養不足にもつながりかねず、かえって老化を促進しかねませんから、適切に制限することが重要なのは、再三述べているとおりです。ざっくりとした目安ですが、自分にとって適切なカロリーとは体重の増減のない状態だと考えればよいでしょう。
それを適切カロリー100%とする。その食べ方を、おおよそ8割にまで減らすということです。すると、体重は徐々に減っていきます。減っていきますが、一定の数値までいくと、そこで落ち着くはずです。そこを維持できれば、マイルドなカロリー制限によって、酸素消費がやや抑えられた代謝の状態を保つことができるでしょう。
これは、あくまで、今現在ダイエットなどを何もやっていない人の場合です。その人にとって、体重の変動のない食生活を100と考え、それを80に落とすということです。すでに今ダイエットをしている人は、そこからさらに8割減などとやってはダメです。
激しく運動しすぎないこと。ストレスを溜めすぎないこと。食べすぎないこと。どれもこれも当たり前のようですが、細胞老化を早めない、酸素を余計に消費するような体質にしないための、日常の生活習慣はとても大切だと思います。
- 中西 真(なかにし・まこと)
- 東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授
- 名古屋市立大学医学部医学科卒業、名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。自治医科大学医学部助手、米国ベイラー医科大学留学、名古屋市立大学大学院医学研究科基礎医科学講座細胞生物学分野教授を経て、2016年4月より現職。