野村の遺言
価格1,512円
ノムさんこと野村克也さんが,「 野村の遺言 」を上梓された。この本を書かれたいきさつ,氏の思いを「本の窓 11月号」(小学館発行)で,次のように綴っている。
なぜ、遺言をのか
ともに戦った戦友が次々と鬼籍に入るなか、いまのプロ野球界に言うべきことを遺しておくのも義務だと考え、私の専門と言えるキャッチャーについて記してみた。
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捕手論を書こうと思ったのには理由がある。「プロ野球のレベルが低下しているのではないか?」 近年、そう感じることが多い。選手個々の運動能力やパワー、技術はわれわれの時代より進化している。にもかかわらず、私にはそのように感じられてならないのである。一球ごとに変わる状況や選手・ベンチの心理を観察・洞察し、最善の作戦を選択して実行する -- そこに野球の本質はある。すなわち、投げて打って走るだけのスポーツではない。だからこそ弱者でも強者を倒すことができる。野球は「頭のスポーツ」なのだ。
ところが、いまのプロ野球は、ただ力いっぱい投げ、打ち、走っているだけ。それが 「力対力の勝負」だと信じて誰も疑わない。だが、そこに生じるのは投げ損じ、打ち損じの結果に過ぎない。だから、戦力の優劣がそのまま勝敗に表れてしまう。そのことが私をして「レベルが低下している」と感じせしめるのである。 (本の窓 11月号 p6)
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上述の野村さんの想いは,日本ハム対ソフトバンクのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージの第5戦の解説と重なるものがある。
ノムさん,決勝スクイズを決められた場面に「お粗末」
16日、『S☆1』(TBS系)にVTR出演した野村克也氏が、日本ハム対ソフトバンクのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージの第5戦、決勝点となった日本ハム中島卓也にスクイズを決められた場面、ソフトバンクバッテリーに苦言を呈した。
2点リードで迎えた4回、一死満塁から代打の岡大海に2点タイムリーを浴び、同点に追いつかれたソフトバンク。なお一死二、三塁とピンチは続き、打席にはリーグ最多の62犠打を記録した中島卓也。
野村氏は「ここはスクイズあるよ。栗山の性格は真面目だから余計あるよ」と予言。ソフトバンクの2番手・森唯斗が投じた初球、内角のストレートに中島は空振り。ここで野村氏は「細川がまるっきり(スクイズの)警戒がないんだよね。ここはスクイズがあるなという状況のところで、1球目外されたりするとサインが出せないんだ」とボヤいた。
すると3球目に、ピッチャー前にスクイズを決められ、ソフトバンクは逆転を許す。野村氏は「ほらやった。十分スクイズが考えられるのに、スクイズを警戒しているよと見せなかったでしょ。お粗末」とバッサリ。
その後、ソフトバンクは5回に2点を失い4-7で敗戦。日本ハムとの対戦成績が2勝4敗となり、日本シリーズ進出を逃した。
◆もはや言い遺すことはない
本書 野村の遺言 で私は、「キャッチャーとは何か」「名捕手の条件とは何か」ということからはじまって、配球の狙いや組み立て方、強打者の攻略法、さらにはプロとしての心構えまで、半世紀以上にわたってキャッチャーについて考えてきたこと、実践してきたこと、教えてきたことを、具体的なエピソードも交えながらあますことなく述べたつもりである。先に述べた通り、キャッチャーは監督の分身と言っても過言ではないから、一種のリーダー論、組織論としても読めるのではないかと思う。これでキャッチャーに関しては、もはや言い遺すことはない--そう考えている。
(本の窓 11月号 p7)
野村克也(のむら・かつや)
1935年京都府生まれ。南海ホークスで戦後初の三冠王。通算成績2901安打、657本塁打、1988打点、打率 277。90~98年ヤクルトスワローズ監督でリーグ優勝4回(日本シリーズ優勝3回)。その後阪神タイガース、東北楽天ゴールデンイーグルス監督を歴任。
著書に『野村ノート』『名選手にドラマあり 脳裏に焼き付くあのシーン』など多数。
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野村の遺言 |
野球のダイヤモンドは「社会の縮図」。九人の選手たちがそれぞれ違う役割と責任を果たすことで支え合い、助け合い、有機的に結びつきながら、ひとつの目標達成に向かっている。その要の役割を担うのがキャッチャー。組織においての捕手的人間の重要性を説く、リーダー論でもある。
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小学館 価格1,512円 |
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