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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える

2024-10-14 20:33:39 | 環境問題
今回は、世界の農業が取り組む必要があるにも拘らずに、なおざりにされがちな土壌の健全性に係る問題を取り上げてみます。
2つの情報になります。

一つは、地域共同体の農民らからのボトムアップで提示されている肥料に係る情報であり、殊に典型的な有機肥料の一つ『ボカシ』にスポットライトをあてた情報です。
もう一つは、開発銀行や基金、欧州のいくつかの国、慈善団体等の外部機関・組織がアフリカ諸国とアフリカ連合を糾合する形で、トップダウン型でアフリカの肥料政策を決めていく状況に関する情報になります。

ここで、アフリカの農業に対する支援資金の大半は後者のトップダウン型システム内で使われており、前者のボトムアップ型システム(このボカシの普及だけの問題ではない)には資金的な支援はほとんど廻っていない、という状況の認識が非常に大切なことになる点を強調しておきます。

肥料の問題も、多方面にわたります。『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える』の表題で興味ある続きを展開したいと思っております。では始めます。

有機肥料として知られる「ボカシ」が、ケニア農民らが行う土壌の再生に役だっている
(原題:For Kenyan farmers, organic fertilizer bokashi brings the land back to life
Mongabay, 2021,November 16 Isaiah Esipisu氏記す

(要約)
・ケニアの乾燥したTharakaNithi郡に暮らす農民らは、「ボカシ」と称する有機肥料を使用することで新鮮野菜を育てている。
・農作地で発生する廃棄物の混合物から作ることができる「ボカシ」は、土壌に加えると栄養分と微生物叢との両方を土壌に供給することになる。一方、従来の合成肥料は、即効的に働く栄養成分は提供するが、投入した量の半分も利用されずに、作物に利用されなかった大半は流出し水系等環境劣化の原因を作り、そして従来の合成化学肥料は土壌の微生物叢を供給する能力もない。
・「ボカシ」を利用する耕作法は、「資源に着目する開発運動ケニア(the Resources Oriented Development Initiative Kenya, RODI Kenya)」から支援を受ける小規模農家らが共有しているアグロエコロジー技術の数多くの中の一つである。
・最初に施用する「ボカシ」のコストは多くの小規模農家にとって高額であるというハードルの存在が指摘されるが、次年度以降の施用コストは徐々に低下していくことと、併せて利用する農家に対しては「ボカシ」を購入するのでなく、自身で作ることを推奨しており、「ボカシ」採用を推進する運動のハードル低減化に努めている。

Karungaru,Kenya---ケニア西部TharakaNithi郡Karungaru村は非常に乾燥した土地柄であるが、そこに住むPeninah Muthoniさんは、そんな環境の中でアマランスやホウレンソウ等の野菜を栽培している。それが可能となっている理由は、農業生態学(アグロエコロジー)に適った技術を彼女が取り入れていることであり、ケニア各地の彼女以外の数百名の農民も同じように新鮮野菜の栽培を行っている。
「ボカシ」のお陰で土壌の栄養状態は既に良くなっているから、今行う必要のあることは土壌水分を保持するためのカバー作物の手入れと時々行う作物への水やりになる」と彼女は語る。

Muthoniさんは、2019年RODIケニアが主催するワークショップに参加して教わった多くの技術を自宅周辺にある3か所の菜園で実践している。Sack gardens(土を入れた麻袋を利用する野菜栽培法。一袋あたり約0.35平米の面積で毎日5リットルの水やりが必要であり、通常の畑4.4平米と同等の収穫量が期待できる), 洗面台に似たへこみの有る鉢を利用する耕作法(sunken basins), そして3か所目の 「ボカシ作り」の場を組み合わせて、Muthoniさんは3人の実子と11人の養子を養うのに必要な量以上の野菜を育てている。

彼女の農作業においては、鍵となるのは肥料である。ケニア農業家畜業研究機関の代表的な研究者であるPatrick Gicheruさんによれば、ケニア各地の農民らは重要な栄養素の幾つかを欠く土壌を利用して耕作を続けている。

Gicheruさんが行ったケニア各地の調査の結果、驚きと共に分かった点は、予想していた土壌の酸性化による農業生産性の悪化ではなく、土壌中の亜鉛(Zn)とカリ(K)が決定的に不足していたということの発見であった。
土壌劣化の主な原因は土壌の過剰使用であり、農耕地は休耕を間に取り入れることなく、繰り返し栽培が行われて、作物の生育で土壌から吸収され奪われる栄養分の補充は行われていないのである。
ここで栄養分の補充は化学肥料の投与が1つのやり方であるが、科学者らは化学肥料の投与が土壌中に生息する微生物叢に危害を及ぼす可能性を指摘している。
そしてケニアで推奨され多く使われている化学肥料には、カリ(K)のような鍵となる栄養素が欠けているのである。

RODI ケニアによると、これらの欠点の解決を目指し、すでに数千の農民らが「ボカシ」の利用に取り組んでいる。

RODIケニアは1989年設立の農民の所得向上と食料安全保障に取り組むNGOである。
RODIケニアの取締役Esther Bettさんは彼女自身の経験から、ボカシが合成化学肥料より優れていること、さらにボカシの調製に要する日数が2週間ほどと短期間であることから、他の有機糞尿系肥料と比べても優れていると語っている。
このバイオ肥料「ボカシ」の卓越性は、使用する農民自らが、彼らが暮らす地域で入手可能な素材を用いて作れるということである。幾つかの農家や事業体がこのバイオ肥料の生産と販売化を始めている。

Bettさんによると、既に著しく劣化した農地の回復には3年ほどの日時が掛かるという。

このバイオ肥料「ボカシ」の利点を全ての人が認めている訳ではない。Kakamega郡で1.6ha(4エーカー)の土地を使いトウモロコシを栽培しているPhilemon Olemboさんは、合成化学肥料の利用を優先している。理由は有効成分が高度に濃縮されており、トウモロコシの栄養不足状況の対応に即効的に利用でき、市場での入手性も良いという理由から優先しているという。彼はバイオ肥料の良さを認めてはいるが、彼にとっては即効性が最も重要な選択条件であり、彼のビジネスにおいては遅効性というバイオ肥料の持つ効能発現の時間を待ってはいられない、としている。

Bettさんによれば、化学合成肥料は土壌に栄養分を供給し、一部は作物に利用され、そして使われなかった分は直ちに流出していく。一方ボカシは栄養分と共に微生物叢も一緒に土壌に供給することになる。

化学合成肥料は毎年供給する必要があるが、ボカシは3~4年の間、有効性が維持される。従って次年度以降のボカシの追加量は低減させていくことが可能なのであり、計3回のボカシ供給の後は、土壌が本来持っていた良い状態に再生されたこととなる。

ボカシの施肥量は毎年低下させることになる。第一回目の施肥には1ha当たりほぼ2.4トン(1アール当たりは1トン)が必要である。50kg袋のボカシが約18ドルであり、1haあたり初年度のボカシ代は約864ドル(1アール当たり約360ドル)となり、地域の小規模農家にとってはかなりの初期費用である。
Bettさんは、ボカシを自身で生産することと、耕作規模は可能な大きさ、例えば1/4エーカー(1エーカーは約1224坪、よって1/4エーカーは約300坪)から手始めにやっていくやり方を推奨している。

【RODIケニアの生産担当者Erastus Mainaさんのボカシの作り方の一例:家畜の糞尿を粉炭と混ぜ、空気を混ぜ込むような方式で混合して毒素分を除去する。次いでふすま(bran)とコメ・小麦・トウモロコシの実の外皮分を加えて分解を促進する。他の助材としては微生物の栄養源としての廃糖蜜(molasses)やコメの殻やコーヒーの殻等農業廃材が利用できる。これら廃材にはシリコン(Si)が含まれ、作物を大きく強靭にする働きがあり、そして害虫被害や悪天候等への抵抗力がつくという。土壌の表面部分もまたボカシに加えることで微生物叢を導入することも行い、合わせて近くの家畜向け物販店で入手可能な酵母類も発酵過程の促進のために加える。最後に卵の殻や灰を加えてCaの補給を行う。灰にはC・Mg・K・Pが含まれる。これらのものが投入され混和され、そして層状に積み重ねられ、ポリエチレンで覆う。発酵が直ちに始まり、内温が24時間以内に60℃以上になる。
毎日ボカシ層の切り返し作業を繰り返して、8日間温度管理を行う。そののち層状に拡げて7日間自然放冷を行う(この間は1日に1回の切り返しを行う)。
Mainaさんは、他の糞尿バイオ肥料の生産には3カ月の日数がかかるのに対して、ボカシの製造は通常2週間でできると指摘している】

RODIケニアは、国内35か所の刑務所が運営する農場にボカシの技術とその他のアグロエコロジー技術を導入している。また28の学校とも協力関係を結んでいる。
RODIケニアはボカシの包装品を農家に販売しており、農家の関心が高まっている、とBettさんは語る。

アフリカ食糧主権同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa:AFSA)のMillion Belayさんによると、ボカシの様な効能が証明されている技術がアフリカの農業と食糧システムの強化の鍵を担っていると指摘する。Belayさんはアグロエコロジー技術のアフリカでの採用には障害が存在していると指摘し、その障害として先進工業諸国の種子企業や肥料メーカーが、アフリカを彼らの作る化学合成肥料や農業用化学薬剤やハイブリット種子の大きな売り先・市場と見なしていることをあげている。

Belayさんは、アフリカの各国政府が農業の研究、殊にアグロエコロジー分野の研究にもっと投資する必要があると指摘する。

Belayさんは、更に、世界の大学において、アフリカの食糧安全保障を確保するには、西欧が実践する農耕法を採用する必要があるとの教えが、本流の考え方として代々教授されてきており、そう言った考えを信じ込んだ卒業生が各大学から卒業し、社会に出てきているのが実情なのであり、彼ら卒業生はアグロエコロジーが資金的支援に値するものとは思っていないのである。かかる現実・実態がアフリカへのアグロエコロジー技術の推進・浸透を妨げている面がある、とBelayさんは指摘する。

その上で、全ての物事は土壌の健康度合い及び健全な農耕技術から始まるものであり、気象状況が望ましいと言えない環境下でさえ、健康的な食料は、良く手入れされた健康な土壌から作り出される、ということをBelayさんは強調する。

アフリカ諸国は土壌の健康問題に取り組むことを決定している
(原題:African countries decide to tackle soil health challenges)
RURAL21 2024年 6月26日 Birthe Lappe氏とChristine Wolf氏が記す

2024年5月アフリカ連合(African Union)とケニア政府主催の「アフリカの肥料と土壌の健全性についてのサミット」がナイロビで開かれた。60名を超すアフリカ国家元首や大臣、政策担当者、民間セクター、NGO、学界、支援団体など約4000名が参加した。

「土壌を破壊させる国は、自らを破壊させる」とアフリカ連合副委員長のンサンザバガンワ氏が、米国ルーズベルトの過去の発言を引用して宣言を行っている。

アフリカ諸国では過去10年にわたり、食糧不安と栄養失調が拡大し、世界市場に食糧と肥料とを依存する割合も高まっている。

国際肥料開発センターによると、2021年の穀物生産が3000万トン不足すると見られている。殊にマリ・ブルキナファソ・タンザニア・ザンビア・マラウイ・モザンビーク・ジンバブエでは6000~9000万人が食料供給の危機に瀕するとされている。

この状況の背景には、アフリカの土壌の永年にわたる劣化の進行も影響しており、持続可能性の乏しい管理方法と継続する施肥不足が原因して、栄養枯渇と肥沃度の低下が起こっており、アフリカ農業の低収穫性の原因となっている。

ロシアのウクライナ侵略やコロナパンデミックも、アフリカの状況を悪化させており、肥料の入手性に重大な影響を及ぼしている。

サミットでは、総合的土壌肥沃度管理(integrated soil fertility management: ISFM)の観点から、肥料使用の改善策と土壌健康度合いの改善策の両面に焦点が当てられている。
肥料使用の改善策としては、無機合成肥料と有機肥料との両方の効率的利用の検討が必要と指摘された。

ナイロビ宣言が今回発効する以前に、アフリカで実践されていた肥料政策の基本原則は、2006年のアフリカ版緑の革命のための肥料に関するアブジャ宣言(Abuja Declaration on fertilizer for the African Green Revolution: 2006年、AGRAが活動を始めていた時期)であり、そこでは2006年当時に窒素換算で1ヘクタール当たり8kgだった化学合成肥料施肥量を2015年までに50kgへと拡大を目指すとの目標が記されていた。

今回のナイロビサミットにおいて、ナミビア大統領のムブンバ氏は、「土壌肥料の管理にはバランスを取ることが極めて重要だ」と指摘し、またマラウイの大統領チャクウェラ氏は、「無機化学合成肥料へのアクセス性と使用量を増やすという従来の目標を目指す努力の結果、農業生産高は増加しているが、その有益性・有効性は、期待した全ての課題の解決には未だ達しておらず、残された課題としては、土壌の健全性への緊急な対策が重要なものとして残っている」と指摘している。

肥料の課題に対して、ナイロビ宣言は、2006年の肥料に関するアブジャ宣言の考え方を大きく変更したものであり、パラダイムシフトが為されていると言える。

サミットの結果、アフリカ連合の加盟55カ国全てがナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動を採択している。

ナイロビ宣言では、2034年までに有機肥料そして無機化学合成肥料の国内生産量の3倍化を目指し、小規模農家がそれら肥料を入手しやすい価格と環境を作ることを目指している。

また各国は劣化した土壌を少なくとも30%は健全な状態に回復することを目指すという。

ナイロビ宣言の目標達成のため、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州委員会、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、国際農業開発基金(IFAD)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を含む14の援助国・機関が、ナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動の実施に対して協調的支援を行うことを約束している。

以上で情報の提供は終わりですが、最後にRODIケニアが主導する『ボカシ』の利用をアフリカの小規模農民に当てはめて、必要とされる年間のコストの計算をしてみると、

小規模農家数:3300万(出典:Celebrating small-scale farmers this World Food Day, 2023年10月12日、FARM AFRICA)
各農家が1アールの農地にボカシを施すことを仮定すると、
360ドルx 33,000,000=11,880,000,000ドル/年間(118.8億ドル、約1.7兆円)

ここで、RODIケニアのBettさんの推奨する手始めに1/4の0.25アールから始めることを組み込むと、約30億ドルとなり、円換算では4350億円となる。

COPで今も続く金満国が求められている年間支援金額は1000億ドルであり、この支援要求額の3%分であり、充分手が届くボカシ支援金額だろう。

後楽園を築地へという無駄な問題をやり玉にあげるとすれば、当時のドームの施工に350億円が掛かったという。築地では500億円は下らないと予想するが、500億円と仮定して上記円換算の4350億円との割合をみると11%程になる。
大阪の件もあるだろうし、NHKの年間7000~8000億円をかき集めるシステムもいつも通りに気に掛かります。NHKは1世帯あたり町会費のイメージの年2000円(5000万世帯として)1000億円程で回転する事業体を目指すべきだ、といつも思っています。

ドームの使い勝手が悪くなったとか何とか、といった風説をどうやら流し始めて、築地移転もやむを得ないとの世の流れを作ろうとし始めているきらいが見られる。

ドームや大阪の件は、スポットの1回の資金ねん出だが、NHKは毎年アフリカの小規模農家に必要な土壌改良という、とても有意義な活動支援を、例えばSDGsの良く目標にされる2050年までの期間の支援金原資として充分に充当できるものと思うのですが。

お金は活かして使いものだとつくづく思う所です。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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