黒式部の怨念日記

怨念を恐るる者は読むことなかれ

「ホームアローン」における正当防衛の成否

2024-12-29 09:17:42 | 映画

映画「ホームアローン」の1~3をディズニー+で観た。第1作が公開されたのは30年以上前で、一人でお留守番になった男の子が泥棒一味を撃退するお話(「2」は舞台がおもちゃ屋さんになる)。撃退の方法は、家にいろんな仕掛けをして、それに泥棒をひっかける、というもの。「4」以降も制作されているから超人気シリーズなのだろうが、私は、ちょっとやりすぎ?という感を持った。床にビーズを撒いて泥棒をこけさせる程度なら可愛いのだが、高圧電流に感電させたり、油で髪の毛を燃やしたり、上階からブロックを落として頭にぶつけるとなると命にかかわる。制作者は正当防衛を主張するのだろうが、そこのところを検証したい。

正当防衛が成立するためには「急迫不正の侵害」に対する「やむをえずしてした行為」であることが要件である。正当防衛なら無罪である。まずは「急迫性」について検討しよう。泥棒が来ることは予見されていたから、主人公はたっぷり時間をかけて家に仕掛けをした。そんな時間があって「急迫」と言えるだろうか。警察に通報する時間は十分にあったのだからまず通報すべきではなかったのか(なお、「3」では真っ先に警察に通報するも警察が信じなかったから「3」は議論から除く)。通報することはしているが、もうさんざん泥棒に痛い目を遭わせた後である。まるで、さんざん怪獣を投げ飛ばした後にスペシウム光線を浴びせるウルトラマン、はたまたさんざん助さん格さんに代官と越後屋とその家来に痛い目を遭わせた後に印籠を出させる水戸黄門のごとしである。この件に関しては判例があり、「急迫不正の侵害があらかじめ予期されていたとしても、そのことから直ちに急迫性を失うものではない(正当防衛が成立しうる)」とのことである。だが、判例は「この機会を利用して積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは(積極的加害意思があった場合は)、急迫性の要件を満たさない(正当防衛は成立しない)」とも言っている。主人公の少年に積極的加害意思があったかどうかについて吟味すべきである。

「急迫不正の侵害」要件を満たして正当防衛が成立する状況であったとしても、やり過ぎると過剰防衛になり、有罪だが刑が減軽又は免除される可能性が出てくる。正当防衛については、緊急避難と違って、やられた場合のダメージとやり返したことによって生じたダメージを厳格にくらべっこする必要はないが、「相当性」は必要である。すなわち、前者に比べて後者があまりにも大きい場合は過剰防衛となる。では、泥棒を命の危険に陥れたらどうだろう?財産をとられそうになったので命をとるというのはやり過ぎの感がある。だが、寝込みを泥棒(強盗)に襲われた際、相当性など考える余裕はない。夢中になって反撃して強盗があの世に逝って過剰防衛というのは腑に落ちない。そこはちゃんと特別法が用意されていて、被害に遭った際、こちらの生命、身体、貞操が危なくなった場合、又は、そうした場合でなくても(単にモノをとられそうになっただけでも)恐怖、驚愕、興奮、狼狽によって犯人を殺傷した場合は、相当性とかに関係なく正当防衛が成立することになっている。では映画の主人公はどうだろうか?たしかに、途中から泥棒たちは「ぶっ殺してやる」と言って少年を追う。だが、それはさんざん痛い目に遭わされた後のことである。少年は、冷静に作戦を立てて泥棒を陽動して罠にはめている。恐怖、驚愕、興奮、狼狽があったとは考えにくい。特別法の適用は微妙である。

以上の考察は、しかしながらまったくの無駄骨である。少年は100%無罪である。なぜなら、14歳未満の者は刑事責任を問われないところ、少年は8歳だからである。因みに、アメリカ人でありアメリカ在住の少年に対して日本国刑法の適用を考える意味があるだろうか。もし、少年に正当防衛が成立しないとすれば考えられる罪状は傷害罪である。被害者(泥棒)はアメリカ人であり現場はアメリカである。この場合、日本国刑法の適用はない。基本的には、日本国刑法の適用があるのは日本国内の行為であるが、例外的に国外犯に適用される場合がある。本件はその例外のいずれも該当しないからである。

 

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