自公過半数割れを受けての某ワイドショーで、上から目線のコメンテーターが、国会での総理大臣の指名について「過半数をとれなくてもいい。一番多く票を取った人が選ばれる」と言っていた。私はわが耳を疑った。総理大臣の指名だって国会の議決である。国会の議決は、もっともハードルの低い普通決議だって過半数が必要である(可否同数のときは議長が決める)。これは、憲法が定めていることである。変だな、と思ったら、別の解説者が「一回目の投票で過半数を得た人がいない場合は、上位2名による決選投票になる」と言った。上位2名による決選投票なら、そこではやはり過半数は必要なのでは?
ここは、人の話を聞くのではなく、根拠条文をあたってみよう。根拠条文を探したがなかなか出てこない。多くの人にとっては根拠条文などどうでもよいのだろうが、そういう態度だと一人がウソをつけば全員が騙されることになる。ようやく見つかった。衆議院規則18条(及び同条が準用する同規則8条)であった。ふむ、それによると、「投票の過半数を得た者を当選人とする。投票の過半数を得た者がないときは、投票の最多数を得た者二人について決選投票を行い、多数を得た者を当選人とする」とある。決選投票について「過半数」と言わずに「多数」と言っている。だが、2名による決選投票の多数と言ったら通常は過半数であろう。過半数ではない多数という事態があるだろうか。決選投票で上位2名以外の名前を書いたら無効になるから、そうした無効票が多ければ、「過半数」でなくても「多数」という事態が起こり得そうである。いずれにせよ、前記のコメンテーターがそこまで理解したうえで「過半数をとれなくてもいい」と言ったかは甚だ疑問である。
そういうことであれば、1回目の指名選挙で最多票を集めた人が総理になるとは限らない。決選投票において、二位以下の陣営が結束して二位の候補に票を集めたら二位の候補が総理大臣になることになる。
これって、結構現実的な話だ。今度の首班選挙で、決選投票になって、野党が一致団結して同じ候補に投票したら政権交代となる。だけど、1回目で三位以下だった政党がみんな決選投票でも自分とこの党首の名前を書いたらそれは無効票になるから、結局、1回目で一位になりそうな与党の候補が当選することになる。
なお、私がどういう事態を望んでいるかいないかは表明しない。政治信条を明らかにしない自由は、憲法19条が保障する思想及び良心の自由に含まれている。だから、人々は、例えば私に踏み絵をさせて政治信条をしゃべらそうとしてはいけないのである(つうか、そもそも、しゃべることがない=政治信条が空っぽだという噂もある)。
なお、前記の条文は、さらに「但し、決選投票を行うべき二人及び当選人を定めるに当り得票数が同じときは、くじでこれを定める」と定めている。くじで総理大臣が決まることもあるとは驚き桃の木山椒の木である。