佐久市 ヤナギダ 趣味の店

長野県佐久市野沢93番地
ヤナギダ☎0267-62-0220

美しき声の青年旅先で恋の桃の実色づかせる  副題「遠 恋」

2023-08-10 13:13:30 | 日記
根こそぎ自分をどこかに持って
いかれるような、心許ない感覚。
心許ないのに、それは限りなく
純粋で、石のように確かだった。
千夏ちゃん、教えて。

これって、恋なの?
わたしはこれから、どこへ向かっ
て、走っていけばいい?
次の瞬間、天井からまっすぐに、
答えが降ってきた。

「カノちゃん、想っているだけ
じゃだめだよ。想いは行為に変
えて、示さなければ、相手に
伝わらない。伝わらない想いは、
生きてる想いじゃない。
そんな想いを後生大事に抱えて
いたって、結局ミイラになって
しまうだけだよ」
千夏の声だった。

行かなくては、と、わたしは思
った。
あのひとに会いに行かなくては。
今、行かなかったら、わたしは
一生後悔する。

この列車が東京駅に着くのは
二時四十九分。
飛行機の出発時刻の一時間十
五分ほど前。
新幹線を降り発車寸前の成田
エクスプレスに飛び乗った。

成田空港の出発ロビーは、東京
駅の何倍もごった返していた。
人混みをかき分けるようにして、
チェックインカウンターの近く
まで突き進んだ。幾重にも重な
った行列。

矢のように視線を飛ばして、あ
のひとの姿をさがし求めた。
どこにいる?
まだここにいる?
お願いだから、いて。
黒いマントみたいなコート。ぶあ
つい毛布みたいな生地の。あの
コートさえ、見つけられたら―――、

見つけた!
遊牧民コート。
すらりと伸びた長い足に、ブルー
シーンズ。
あのひとは帽子をかぶり、首に
マフラーを巻いていた。遠目から
見ても、すぐにわかった。あまりに
も、すてきだったから、男っぽくて、
眩しくて、でもなんだか可愛くて。
「井上さん」

声をかけるより先に、あのひとは
わたしに気づいて、右手を上げ、
その手を下ろさないまま「おいで
おいで」と手招きしてくれた。
そばまで駆け寄っていくと、
わたしの肩を抱き寄せながら、
広げたコートの中に包に入れて
くれた。

その時、嬉しくて、きゅんと
軋(きし)んだ、わたしの躰。
「また会えたね」
と、あのひとは言った。優しい
春風のように。

息を弾ませて、わたしは問いかけた。
「驚いた?」
「驚かなかった。全然」
そう言って、あのひとは笑った。
肩を抱く手に力を込めて。
「どうして」
「絶対会えるって、わかってたから」
「ほんとに?どうして?」
「どうして?って、さっきからおん
なじことばかり言ってる」

「わかったさ。理由なんて、ないよ。
ただ、わかっただけ」
どうして、そんなことが、わかるの。
また「どうして」と言いそうになって、
その言葉を押し止め、代わりに深呼吸
をひとつ、した。

「よかった。間に合って」
あのひとは大きく頷いていた。
「決まってたんだよ」
そのあとに、続けた。力強く、押し
寄せる波のように。
「間に合うに決まってる。ここで
会えるって、最初から決まってたん
だから」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誰かしら合歓(ねむ)の木陰のハンモック青いドレスがちらりと見える   副題 天才

2023-08-10 13:08:46 | 日記
天才【てんさい】

「天才はいくらでもいます。
その天才を認めて、育てる
人がまるでいないんです
“みやぞん”を見てくだ
さい!」
    ※
「二十二歳で『大つごもり』
二十三歳で『たけくらべ』
     『十三夜』
二十四歳で亡くなって・・・。
樋口一葉も作曲家の滝廉太郎
も二十四歳で亡くなってます
が、明治までですね、老成
した天才というのは」




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くれないの朝露かかる梅の谷に山うつくしく我うつくしく  副題 「一瞬」

2023-08-10 13:04:51 | 日記
あなたの笑顔の一瞬や
あなたの憂いの一瞬と
出会えた時

写真のようにこの感じを
忘れないように胸に刻む

思い出すために すこしでも強く
思い出すために すこしでも長く
悲しくもこの恋が純粋であるように
心をこめて
またあなたを思い出すために




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

 三年間君の名を見ず詩を読まず終わった恋と思いたいから 副題 男の毒牙

2023-08-10 12:06:45 | 日記
女は誰でも
「天使」を着て、
この世に生まれてくる
という。

傷つかなければ死ぬまで
天使のままだ。

裏切られれば天使だって
泣き叫ぶし、
包丁を手にするかもしれ
ない。

男の毒は、先天的なもの
だけど、
女の毒って、男の毒の
触媒がなければ発生
しないもの。

愛が注がれれば、
天使の服は再生可能。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「青い空の下で」

2023-08-10 12:04:51 | 日記
あなたと はじめてのことを
たくさんしたいから

知らないことを
たくさんとっておく

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

恋に恋する若者のくちびるに毒ある蜜を塗ってやりたい 副題:「感じる」

2023-08-10 12:01:08 | 日記
  ほんの一瞬でも
私をここからつれさってくれる
   あの感覚

   たとえば
  本のページのにおいや
ヘッドライトの強い印象など
それを常にひきおこしてくれる
    あなたが
   そうなのです





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

口紅にしろとあなたが差し出した小指の血では物足りないの  副題 あなたの顔ばかり見ている

2023-08-10 11:57:10 | 日記
あなたに会うために走ってきた
テレビも本もレコードも宿題も
すりぬけて走ってきた

電話のベルのルルルが
今日は明るく聞こえた

あなたに出会えてよかったと
走りながら思ってた
あなたに出会えてよかったと
言おうと思って走ってた

でも
あなたに会ったらそんなこと
もうどうでもよくなって
あなたの顔ばかり見て笑う

あなたの顔ばかり見て笑う





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夕暮れの霧は前兆だったのかともしび消えて結ばれる恋  副題「海の音」

2023-08-10 11:53:53 | 日記
今日限り 今日限り
ふるえる覚悟はできている
雨音におどろかされ

とまどった砂の上
足跡もないくらい
波音がこだまして
ほほえんでうつむいた

後れ毛に目がくらむ
覚悟の恋


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする