2場その2
線香を上げたから帰ろうとする寿々子。
この通夜だけは一緒に居てあげてという叔母美子の懇願に渋々従う。
組合員を帰した組合長の昭典は寿々子と一杯やって帰るといい全員での献杯を所望する。
昭典の目的は寿々子の父がいかに組合の為に貢献した立派な人間であったかを教えようとすることであったが、それは寿々子には的外れな試みであった。
寿々子にしてみれば父が仕事に献身的であった事は、自分の顧みられなかった過去を思い出さずにはいられない事柄だった。
やがて昭典の思惑とは外れて、寿々子は宗一郎を庇う一郎等と言争いになる。
そこで昭典は寿々子に父親が如何に愛されていたかという逸話を語って聞かせる。
それは寿々子が幼稚園の時のエピソードであった。
普段ニコリともしなかった不愛想な宗一郎が、寿々子が運動会で踊った「アブラハムの子」というダンスを憶えていて、宴会の席で披露した話であった。
昭典「寿々子、これだけは憶えておけよ。あいつは、お前の父さんは本当にお前の事を大事に思っていたんだ。けど、不器用だったからそれはお前に伝わらなかったのかもしれねえし、伝える事が出来なかったのかもしれねえ。それはあいつの駄目なところだ。今更の話かも知れねえがあいつを許してやってくれ」
この話を残して組合長が帰った後、寿々子の心の中で何かが溶けたが、寿々子には父を許せないもう一つの事情があった。
それは四年前の父の反対で結婚を前提に付き合っていた男と別れた事であった。
しかし、それには寿々子の知らない訳があったのだ。
寿々子が結婚したいという男を家に連れてきた時父の宗一郎は大喜びしたが、気のなる事があってその相手を調べた結果、その男は妻子持ちでしかも偽名であった事が発覚した。その結果寿々子が傷つく事を恐れ、寿々子には黙って身を引くことを約束させた。
しかし男は寿々子を非難し、自分の非を認めなかった。
突然の話に混乱し抗う寿々子に義姉の五月は、どれだけ宗一郎が寿々子の事を想っていたかという証拠を持って来る。
五月 「(箱を差し出し)寿々ちゃん、これがお義父さんがあんたの事を忘れた事のない証拠よ。目ン玉見開いてよく見なさい」
五月 「お義父さんが小さい頃からの寿々ちゃんを撮り溜めた写真よ」
一郎 「俺は見た事ないな」
五月 「ええ、誰にも見せたことはないって言ってたわ、お義父さん。寿々ちゃんがあの人を連れてきた時、この写真の事を思い出していい記念になるからって急いで現像したんだって、でもそれは叶わなかったけどね・・・工場が大変な事になってから、お義父さん、寿々ちゃんをかまってやれない事を気にしてたの。寿々ちゃんも小さいながらお義父さんの大変な事を分かってたみたいで、家の中で一人遊びをしていたんだって。その姿があまりに不憫なので何とかその姿を記録したくって、仕事の合間に一人遊びの寿々ちゃんの姿を写真に撮ってたんだって」
一郎 「ああ、写ルンですだ。あれをいつも作業ズボンのポケットに入れていたな。・・・ああ、そのためだったんだ」
気を利かせ寿々子を残し母屋に行く一同。
寿々子 「今更こんなモノ出してきてどうすんのさ。どうしろって言うのさ」
寿々子 「何かして欲しいんだったら直接言えばいいじゃないか!・・・バカ、お父ちゃんのバカ」
幼児の様に泣きじゃくる寿々子。
やがて遺影のコップに酒を注ぎ、自分のコップに酒を注ぐ。
寿々子 「お父ちゃん、飲もう」
寿々子 「美味しい、美味しいね、お父ちゃん」
三場へ続く。
線香を上げたから帰ろうとする寿々子。
この通夜だけは一緒に居てあげてという叔母美子の懇願に渋々従う。
組合員を帰した組合長の昭典は寿々子と一杯やって帰るといい全員での献杯を所望する。
昭典の目的は寿々子の父がいかに組合の為に貢献した立派な人間であったかを教えようとすることであったが、それは寿々子には的外れな試みであった。
寿々子にしてみれば父が仕事に献身的であった事は、自分の顧みられなかった過去を思い出さずにはいられない事柄だった。
やがて昭典の思惑とは外れて、寿々子は宗一郎を庇う一郎等と言争いになる。
そこで昭典は寿々子に父親が如何に愛されていたかという逸話を語って聞かせる。
それは寿々子が幼稚園の時のエピソードであった。
普段ニコリともしなかった不愛想な宗一郎が、寿々子が運動会で踊った「アブラハムの子」というダンスを憶えていて、宴会の席で披露した話であった。
昭典「寿々子、これだけは憶えておけよ。あいつは、お前の父さんは本当にお前の事を大事に思っていたんだ。けど、不器用だったからそれはお前に伝わらなかったのかもしれねえし、伝える事が出来なかったのかもしれねえ。それはあいつの駄目なところだ。今更の話かも知れねえがあいつを許してやってくれ」
この話を残して組合長が帰った後、寿々子の心の中で何かが溶けたが、寿々子には父を許せないもう一つの事情があった。
それは四年前の父の反対で結婚を前提に付き合っていた男と別れた事であった。
しかし、それには寿々子の知らない訳があったのだ。
寿々子が結婚したいという男を家に連れてきた時父の宗一郎は大喜びしたが、気のなる事があってその相手を調べた結果、その男は妻子持ちでしかも偽名であった事が発覚した。その結果寿々子が傷つく事を恐れ、寿々子には黙って身を引くことを約束させた。
しかし男は寿々子を非難し、自分の非を認めなかった。
突然の話に混乱し抗う寿々子に義姉の五月は、どれだけ宗一郎が寿々子の事を想っていたかという証拠を持って来る。
五月 「(箱を差し出し)寿々ちゃん、これがお義父さんがあんたの事を忘れた事のない証拠よ。目ン玉見開いてよく見なさい」
五月 「お義父さんが小さい頃からの寿々ちゃんを撮り溜めた写真よ」
一郎 「俺は見た事ないな」
五月 「ええ、誰にも見せたことはないって言ってたわ、お義父さん。寿々ちゃんがあの人を連れてきた時、この写真の事を思い出していい記念になるからって急いで現像したんだって、でもそれは叶わなかったけどね・・・工場が大変な事になってから、お義父さん、寿々ちゃんをかまってやれない事を気にしてたの。寿々ちゃんも小さいながらお義父さんの大変な事を分かってたみたいで、家の中で一人遊びをしていたんだって。その姿があまりに不憫なので何とかその姿を記録したくって、仕事の合間に一人遊びの寿々ちゃんの姿を写真に撮ってたんだって」
一郎 「ああ、写ルンですだ。あれをいつも作業ズボンのポケットに入れていたな。・・・ああ、そのためだったんだ」
気を利かせ寿々子を残し母屋に行く一同。
寿々子 「今更こんなモノ出してきてどうすんのさ。どうしろって言うのさ」
寿々子 「何かして欲しいんだったら直接言えばいいじゃないか!・・・バカ、お父ちゃんのバカ」
幼児の様に泣きじゃくる寿々子。
やがて遺影のコップに酒を注ぎ、自分のコップに酒を注ぐ。
寿々子 「お父ちゃん、飲もう」
寿々子 「美味しい、美味しいね、お父ちゃん」
三場へ続く。
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