「四月二十五日、水曜日。今日は三回目の出張診療日。・・今朝父から電話で順調
に回復してるとの報告があった。私の大学病院での勤務の事を気にして、すぐにでも退
院して仕事<o:p></o:p> を再開したい様子だったが、今度は腰を据えて他の疾患も直してもらわ
なくては・・・父の心配は出張診療の方なのは分かっている。・・・心配しなくて大丈夫と胸を
張って言えな<o:p></o:p> いのが悔しい。・・・ここの人達と本当にどう付き合っていいのか分か
らないんだな。アア、難しい」<o:p></o:p>
光江の困惑を他所に、毎日患者は診療所を訪れる。
今日も孫の発育を心配した源蔵が洋平夫婦に付き添って来る。
村人達は光江と父ちゃん先生を常に比べてみるのであった。
源蔵 「ホラ、座れ座れ。先生、何だって?」<o:p></o:p>
美由紀 「ええ、十三週目。順調だって」<o:p></o:p>
源蔵、手帳と取り出す。
源蔵 「ああ、十三週目な。どんな診察した?父ちゃん先生の時と変わらねえかっ
たか」<o:p></o:p>
美由紀 「同じだと思うよ」
源蔵 「内容は?何やったか詳しく言ってみろ(手帳を取り出す)」
この調子である。
話の中で美由紀がツワリらしいものがないのを知った源蔵は、光江に強引に確かめる。
洋平 「ツワリって、ドラマでよくやる『ウッ』ってなるやつか」
源蔵 「ああ、それよ」
洋平 「なかったよな」
美由紀 「うん、ないね」
源蔵 「・・・ないのか。おかしいな。・・・おかしい」<o:p></o:p>
<o:p></o:p>
源蔵 「ああ、先生。美由紀さんの・・・」<o:p></o:p>
光江 「ツワリの事だね」<o:p></o:p>
源蔵 「なんで分かった?」<o:p></o:p>
光江 「あんな大声で話していればいやでも聞こえるよ」 <o:p></o:p>
源蔵 「だったら丁度いいや、ウチの美由紀さん、ツワリがないって言うんだよ。妊娠してだよ、ツワリがないなんて事があるのかい」<o:p></o:p>
光江 「厳密に言うとないね」<o:p></o:p>
源蔵 「・・・・ホラ、なあ、そうだろう」<o:p></o:p>
美由紀 「でも妊娠してるんだべ」<o:p></o:p>
光江 「そうだよ、立派な妊婦さん」<o:p></o:p>
源蔵 「だけどツワリが・・・」<o:p></o:p>
光江 「妊娠するとツワリはあります。でもね、その現れ方は人それぞれなんですよ。吐き気やおう吐だけがツワリじゃないの。中にはツワリはなかったなんて言う人もいるくらい何にも現れない人も稀にはいるんです。でもその人には顕著な症状がなかっただけでよく考えれば普段とは違う所は幾らも見つかるもんですよ。例えば美由紀さんの場合は。・・美由紀さん最近の食欲は?」<o:p></o:p>
美由紀 「ええ、モリモリ」<o:p></o:p>
光江 「ご主人、普段と比べてどうですか」<o:p></o:p>
洋平 「ああ、よく食うよ。普段の倍食べるべな」<o:p></o:p>
美由紀 「だって子供の為だもの、仕方ないしょ」<o:p></o:p>
洋平 「そうなのか」<o:p></o:p>
光江 「美由紀さんの食欲の増加。これもツワリの一種と考えてください。だから美由紀さんには立派にツワリはあります」<o:p></o:p>
また光江の存在が気になる若い漁師たちは用もないのに診療所に立ち寄る。
兎に角光江は注目の的である。
続く。
撮影 鏡田伸幸
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