序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

劇団芝居屋第24回公演「チェンジ」舞台写真&ストーリー7

2012-11-13 17:00:37 | 日記・エッセイ・コラム

ホタムイの村の年寄りにとって光江は年の若い頼りない医者として、いささか軽んじられていた。

診療を終えた地区委員をしている高槻昇平は若いの相手に、光江と父ちゃん先生との腕の差を声高に話すのであった。

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将雄 「父ちゃん先生と比べてどうなんだべ」

昇平 「そりゃ、比べる方がおかしいベや。父ちゃん先生は、なにしろ付き合いが長いんだから、ここの地区の人間の事なら何でもお見通しだ。お前達だってガキの時から診て貰ってるべ。俺なんかは診療室の椅子座った途端、いきなり頭ごなしに怒鳴られるんだ。あれだけ酒を控えろって言っただろうってよ。そんで俺が言い訳すると、昨日飲んだ酒の量をピタと当てるんだ。ヤヤヤヤ、父ちゃん先生は誤魔化せねえ」<o:p></o:p>

 将雄 「今度の先生は?」<o:p></o:p>

 昇平 「まあ、優秀は優秀なんだべな、東京で大学病院に勤めてたって言うんだから。でもまあ、今一だな。まあ、通り一遍よ。父ちゃん先生はみたいにはいかないわ。検査結果話して、食事だとか生活だとかの注意でおしまいだ」

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挙句の果てに得意の病気自慢が始まった。

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将雄 「昇平さん、毎週掛かってるみたいだけど、どこが悪いのよ」<o:p></o:p>

 昇平 「どこがって・・・俺なんか、病気の標本みたいなもんだからよ。肝臓だろう、血圧だろう、それに高脂血症ときてるんだから、ああ、最近ちょっと糖尿のケもあったりなんかするんだよ」<o:p></o:p>

 武志 「大丈夫なのかい」<o:p></o:p>

 昇平 「今日なんかよ、GTPが100近いって云われてよ。酒は駄目だってよ。それに尿酸値も高いから痛風にならない為にも食生活に気を付けろってよ」<o:p></o:p>

           民子が薬袋を持ってくる。
          
気付く将雄と武志。<o:p></o:p>

 昇平 「酒は駄目、これ食っちゃダメ、あれ食っちゃダメなんて、冗談じゃねえべや。俺達や板子一枚下は地獄の漁師稼業だ。覚悟のできが違うべさ。痛風や脂肪肝が怖くって酒を飲めねえなんて言ったら笑われるべ」<o:p></o:p>

           光江が診療室から来る。<o:p></o:p>

 民子 「あら、随分威勢がいいんだね」<o:p></o:p>

 昇平 「当たり前だべ。えっ!・・・ああ、民さん」<o:p></o:p>

 民子 「若い人の悪い見本になったら駄目だべさ」<o:p></o:p>

 昇平 「すいません」

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口では謝ってても長年付き合いのある看護士民子の言葉を聞く耳はもっていない。人を喰った態度は変わらない。

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若者達も同じである。

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この状況を見た光江は・・・032

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 光江 「高槻さん」<o:p></o:p>

 昇平 「アッ、先生」<o:p></o:p>

 光江 「今日の検査結果は来週になります。先ほども言いましたが、規則正しい食生活をして下さい。くれぐれもアルコールは駄目ですよ。今、きちんと節制すればまだ間に合うんだから。今大事にしておかないと糖尿病は勿論、肝硬変や痛風になる道を一直線に進んでいきますよ」<o:p></o:p>

 昇平 「(呑気)はい、気を付けます」<o:p></o:p>

 光江 「・・・はっきり言うよ。今のまんまだと糖尿、肝硬変、痛風なんかが複合的に発病して合併症を引き起こして、失明したり」<o:p></o:p>

 昇平 「し、失明!」<o:p></o:p>

 光江 「壊疽で足の切断」<o:p></o:p>

 昇平 「せ、切断・・・」<o:p></o:p>

 光江 「とにかくあの世に行く前に、ありとあらゆる苦しみを味わうことになるよ」<o:p></o:p>

 昇平 「そ、そうですか」<o:p></o:p>

 光江 「(脅し)真剣にね。高槻さん、これは脅しじゃないよ」<o:p></o:p>

 昇平 「・・・・ハイ・・」<o:p></o:p>

           隅で小さくなる将雄と武志。昇平、悄然として行く。<o:p></o:p>

これは多少の効果があったらしい。

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この日の診療所での診察を終えた光江は、民子と往診までの短い休憩をとる。

民子がお茶を入れに行った隙に、光江は現在の心境をボイスレコーダーに入れるのであった。

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光江 「ただ今、3時35分。三回目の出張診察も無事終了。後は往診2件を残すのみ。それにしても設備がなさすぎる。ここにある緊急処置用器具のといったら公民館に設置されているAEDだけ。今私出来るのは診療は、健康診断及び健康相談、療養の指導及び相談、薬剤の投与及び支給。その程度のものだ」<o:p></o:p>

         民子がお茶持って来て、光江の様子を見ている。<o:p></o:p>

 光江 「・・・あと三ヵ月。何かあったらと思うと、とても自信を持てない。ああ、大学に帰りたい」<o:p></o:p>

お茶のひと時・・・

民子との話の中で 光江は医者を志した切っ掛けを語りだす。

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民子 「・・・大学病院に帰りたい?」<o:p></o:p>

 光江 「・・・ウン、正直言えば」<o:p></o:p>

 民子 「仕事がキツイから?」<o:p></o:p>

 光江 「ううん。キツイったって医者の仕事なんだから大学も町医者も変わりはないんだけど・・・なんというか、取り残された感じがするんだよね。何しろ今までが最先端の場所に居たから」<o:p></o:p>

 民子 「やり残してる事があるんだ」<o:p></o:p>

 光江 「今やってる総合内科の勉強をちょっと突き詰めようと思ってね」<o:p></o:p>

 民子 「ああ、一人で内科の全部を診断できるって、あれ」<o:p></o:p>

 光江 「そう、あたし、疾患の専門分野にどんどん細分化されてる治療体制に疑問をもっていてね。大学病院でもよく見るの、たらい回しにされてる患者さん」<o:p></o:p>

 民子 「ああ、大きな病院じゃよくいるね。複数の疾患を持ってる患者さんなんか、循環器内科だ、消化器内科だって回されてよくウロウロしてるしてる」<o:p></o:p>

 光江 「あたし、小さい時からずっとあれがおかしいと思っていたの。どうして内科医一人で患者さんの疾患の全部を診てやれないのかなって、でね」<o:p></o:p>

 民子 「そうなんだ」<o:p></o:p>

 光江 「赤ひげなんだ」<o:p></o:p>

 民子 「えっ?」<o:p></o:p>

 光江 「黒沢明の赤ひげ。小さい時、お父さんが借りてきたビデオを一緒に観てね。あの時代は一人の医者が全部の病気と闘っていた。医者ってこうなんだなって刷り込まれたのかな、それで」<o:p></o:p>

 民子 「光ちゃん、それって、父ちゃん先生がやってきたことだ」<o:p></o:p>

 光江 「エッ」

とそこへ田所の禎子が飛び込んでくる。

続く。

撮影者 鏡田伸幸<o:p></o:p>

 


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