さて、恭子が帰ったと思った範子は三郎に母と子の間にある確執の原因を語ります。
そんな時恭子が慌てたようすに帰ってきます。
訳を問いただすと、チョット変わった客を案内してきたというんですな。
それが・・・
三郎 「あれ、恭子ちゃんどうしたんだよ。帰ったんじゃねえの」
恭子 「それがちょっと・・あの社長」
範子 「どうしたの」
恭子 「お客さんだと思うんだけど・・どうぞ」
範子 「どうしたの」
恭子 「ちょっと要領を得ないんですけど、頼み事があるんだそうです。どうぞ」
妙子 「・・・あの、ここ便利屋さんですか」
範子 「はい、そうですが」
妙子 「あの、お願いがあるんですが・・・」
範子 「そうですか。どうぞこちらへ」
妙子 「よろしいんですか」
範子 「どんな御相談でしょう」
妙子 「・・・あの、便利屋さんてどんな事するんですか」
範子 「私どもスマイルマミーでは、女性の視点からのきめの細かいサービスをモットーに、代行作業を中心に承っております」
妙子 「具体的に云うとどういう事でしょう」
範子 「例えば大変忙しい方の為の日常的な家事業務とか・・マァ、平たく言えばお部屋のお掃除や食事の準備などです。それに結婚式の司会ですとか、チケットや願書を取る為の代行や、中には犬の散歩なんかも受けおっています」
妙子 「(落胆して)それだけですか」
範子 「いえいえ、まだまだありますよ。ご相談の内容で私共で可能な事はそちらの御要望にお答え出来ると思いますが。どういった事がお話し願えませんか」
荒木 「・・・困っているんです、わたし本当に困っているんです」
範子 「ああ、そうですか」
荒木 「あれがないと困るんです。本当に困るんです。幸せな日だったんです、今日は。本当に夢みたいに幸せな日だったんです。それなのに(泣く)・・・」
この彼女何やら酒もしこたま飲んでいるらしく、ロレツも回らず、足腰立たずの状態です。
この彼女興奮しすぎで何が何やら要領得ない訳です。
仕様がないと範子一喝。
漸く冷静さを取り戻したこの女性、ポツリポツリと身の上話をし始めます。
妙子 「・・・わたし今年で四十四歳になります。多分信じていただけないと思いますが、今日、十六年間付き合っていた彼と・・ようやく、ようやく婚約したんです」
範子 「ハア?」
身を乗り出す三郎。
妙子 「ワタシ、婚約したんです。おかしいですか」
三郎 「いや、おかしくない、歳なんか関係ないよ。婚約おめでとう(拍手)」
範子 「・・ああ・・よかったですね」
恭子 「おめでとうございます」
妙子 「有難うございます」
範子 「・・・それで?」
妙子 「ええ、わたしと彼は高校の同級生だったんです。それが卒業十年目の同窓会で再会して・・」
三郎 「ああ、それから始まった訳だ」
範子 「ねえ、その彼は何をやってる人なの」
妙子 「職人です。彼は郷里の白糠で和菓子の職人をやっています」
範子 「アラ、和菓子の職人さん。マア、素敵」
三郎 「あんた、何やってんのよ」
妙子 「わたし、この町の三愛病院で看護師の仕事をやってます」
三郎 「ああ、看護師さん」
恭子 「三愛病院でですか」
妙子 「ええ」
範子 「それじゃ二人は遠距離恋愛ってやつじゃないの」
妙子 「ええ。彼、自分の店を持ったら呼びに来るから一緒になろうって・・・」
範子 「言ってくれたんだ」
妙子 「ええ」
範子 「あら、そう。良い彼氏ね」
妙子 「ええ、とても誠実な人なんです」
恭子 「よく続いたわね」
三郎 「いや、立派なもんだ」
範子 「十六年経ってようやく」
妙子 「ええ」
範子 「よく辛抱したわね。あんたも偉いけど、あんたの彼はたいしたもんだ、やっぱり職人する人は違うよ」
三郎 「いや、男の中の男だね」
何だか話が脱線しとんでもない回り道。
で、一人冷静な恭子が話を戻します。
妙子 「エッ・・・(悲鳴)嗚呼!」
驚き飛び退く三人。
三郎 「な、何だ」
妙子 「探してください、お願いします」
範子 「何を?」
妙子 「指輪です。婚約指輪」
範子 「婚約指輪って」
妙子 「落としたんです」
恭子 「じゃ、婚約指輪を」
妙子 「わたし、今日貰ったばかりの婚約指輪を落としてしまったんです!」
範子 「アッラァ!」
恭子 「どこで・・って分かる訳ないか」
妙子 「分ってます」
範子 「どこに落としたか分っているの」
妙子 「ハイ」
三郎 「ど、どこ」
妙子 「友達の輪公園」
恭子 「友達の輪ってすぐそこじゃないの」
妙子 「ええ、そこのブランコの近くの草むらに。探したんです、わたし一生懸命に探したんです。でもどうしても見つからなかったんです」
範子 「確かにそこなの」
妙子 「ええ、わたし、うれしくってブランコに乗って指輪を月にかざしてたら、ひっくり返っちゃって・・だからアノ辺りに間違いありません」
範子 「だったら、恭子。一緒に公園に行って」
三郎 「俺行ってるぞ」
三郎行く。
恭子 「じゃ、すぐに行きましょうよ」
妙子 「一緒に探して貰えるんですか」
範子 「そりゃもう」
妙子 「お幾らなんでしょう」
範子 「いいのよ、そんなの」
恭子 「ホラ、早く行かないと誰かに拾われたら大変よ」
恭子出る。
妙子 「でもそうはいきません、お払いします」
範子 「じゃ基本料金の2500円だけで結構。後でいいから早く行って」
恭子 「(顔を出し)行くわよ」
妙子 「すいません。じゃ、後で」
いやはや色々とあったのかしら」スマイルマミーの一日ではありました。
第四場に続く。
撮影鏡田伸幸
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