さて土曜の夕方。
孝夫に代行業務の仕事として父親のもとに送ろうというのである。
この企てには恭子も三郎も加わっていた。
範子たちの必死の演技にまんまとだまされた孝夫は、事の重大さに不安を感じるのであった。
孝夫「ああ、何だか緊張してきちゃったな」
恭子「頑張ってね」
孝夫「こんな息子の代行なんて初めての経験だから不安で・・」
範子「大丈夫だよ。とにかく相手は痴呆症の老人なんだから・・孝夫君の写真見せたら、もう息子と思い込んでいるっていうんだから、ねえ」
坂口「はい、おっしゃる通りです」
範子「名前を言われたらハイハイって返事をしてれば良いだけなんだから、とにかく病室から手術室までのわずかな時間を平穏な気持ちで過ごして貰う為の一芝居なんだから。いわば人助けさ」
必死な芝居で孝夫を病院に送り出した事務所に、金子と山本が来る。
これから懇親会である。
はしゃぐ山本と金子を伴い、範子と三郎は会場の「おたふく」へむかう。
恭子は坂口から報告を待つため事務所に残るのであった。
村山実子が神妙な態度で現れる。
実子「恭子さん、その節は大変ご迷惑をおかけした上にお世話になりました」
恭子「いいえ、とんでもない。こちらこそ大変な役をしていただいて感謝していたんですよ」
緊張から解放された実子は、恭子の父親との意外な関係を話すのであった。
実子「この前は何だか慌てちゃって気が付かなかったんですけど、ここは元畳屋さんでしたよね」
恭子「ええ、そう。畳の立花です」
実子「お父さんの名前は立花徳三さんですか」
恭子「そうです」
実子「そうですか、あなたが・・」
恭子「なんでしょう」
実子「わたし、四年前に愛三病院に移ってきたんです。その時初めて担当した患者さんがお父さんの徳三さんだったんですよ」
実子は徳三が如何に恭子の事を気にかけ、愛していたかを話すのであった。
その話の一つ一つが恭子にとって初めて聞く話であった。
反目し、死に目にも会えなかった恭子にとって、実子の話の中で語られる徳三は自分の印象とは別人であった。
気持ちの何かが変わっていくのを恭子は感じていた。
続く。
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