長野県信濃町をたずねた。以前に、冬の時期にたずね、スノーシューでの散策体験をしたが、雪のない時期にたずねるのは初めてだ。
この地は、モモを書いたエンデと親交があり、それを記念した「黒姫童話館」がある。忙しい人は時間を泥棒されていると喩えたモモにちなみ、「忘れたものを思い出すまでどうぞ」と刻まれた石のベンチがあった。私自身は、忘れたものを大分とりもどしているが、少し前ならそこに長くすわっていたい気持ちになっただろう。
さて、信濃町は、林野庁が進めてきた森林セラピーの先進地である。企業と地域ぐるみで保養所契約を結び、従業員にガイド付きの森林セラピー体験や癒しの宿での宿泊を提供する。
今回、信濃町に行って改めて感じたのは、黒姫山の裾野に広がるこの地は空間のひろがりがあり、また大規模な開発されずに残された野尻湖など、地域資源のポテンシャルが高いということだ。
もちろん、この地域資源を大事して、それを戦略的に活用する知恵を生み出し、また勢力的に企業向け営業や地域内のコーディネイトを進めてきた方々の成果でもある。
ただ、そうした優れた人材も含めて、これだけの条件を備えた山村は他地域ではなかなかないだろう。
では、信濃町と同じような地域資源の条件を備えない地域で、森林セラピーを展開する場合に、どのような方法があるだろうか。信濃町とは異なる戦略が必要となる。
例えば、温泉施設は各地にあるから、「温泉と森林」を組み合わせるのもいいだろう、コウノキなど、香りのする木をテーマに「アロマ+森林」という打ち出し方もある。ダイエット専門、東洋医学との連携、ロハス的雰囲気重視、森の幼稚園との連携などもあろうだろう。
信濃町モデルに追随することなく、行政分野の縦割りも超えて、自由に地域の個性と創意を打ち出した森林セラピーが必要なのではないだろうか。
そうでないと、林野庁が全国に指定した森林セラピー基地やセラピーロードは、信濃町だけに光があたる状況を脱しきれないような気がする。