サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

SDGsの不十分さと活用上の工夫

2019年01月04日 | 持続可能性

1.SDGsの策定の経緯と活用の動き

(1)SDGs策定に至る2つの流れ

 持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals = SDGs) は、国際的な2つの流れが合流して、作成された。1つは、リオサミットの流れで、持続可能な発展の目標として検討された流れである。最初は、2011年、リオ+20の開催を控えた準備会合の際、コロンビアが提案し、グアテマラが支持する形でSDGsが提案された。やがて、リオ+20の目玉成果として注目が注がれるようになってきた。塚本(2018)は、「リオサミットから20年の間に個別のアジェンダごとに条約の締約国会議に代表される独自の議論の場が形成され、様々な経緯のある決定がなされてきた。こうした長年のしがらみの中でリオ+20では個別のアジェンダに係る議論の新たな進展はもはや望めない状況に達していた。そんな中で唯一、新しい成果として歓迎されたのがSDGsを作ろうという提案であった」と記している。

 もう1つは、2000年、ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットでまとめられたミレニアム開発目標(MDGs)である。同サミットでは、平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス、アフリカの特別なニーズ等を課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する方向性として、国連ミレニアム宣言をまとめた。この宣言とそれまでの国際開発目標を統合し、まとめられたのがMDGsである。このMDGsは2015年が達成期限であったため、後継となる目標の議論がなされていたが、SDGsの検討が活発となり、SDGsがMDGsの後継の役割を得ることとなった。

(2)SDGsの策定と活用の動き

 2015 年9月にニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催され、「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」が採択された。同アジェンダの中核となったのがSDGsである。SDGsは、2016 年から2030 年までの15 年間での達成を目指した 17 の目標および169 のターゲットで構成された。

 同アジェンダの採択以降、世界各国がSDGsの達成に向けて動き出しているなか、日本も、2016年5月、総理を本部長、官房長官、外務大臣を副本部長とし、全閣僚を構成員とする 「SDGs推進本部」を設置した。同年12月には「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が決定された。同実施指針では、NPO・NGO、民間企業、消費者、科学者コミュニティ、労働組合、地方自治体との連携が示され、SDGsを盛り込んだ各ステークホルダーの取組みを支援する政策が動き出した。

 また、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関する情報を考慮した投資(ESG投資)が活発化しており、このこと企業のSDGsへの取組みの後押しとなっている。長期的投資を行う機関投資家は、企業の持続可能な発展の判断基準として、企業のSDGsへの取組みに関心がある。

 

2.SDGsの要素に関する分析結果のまとめ

 SDGsの要素は「広汎性」、「普遍性」、「統合性」を志向して作成されたものであり、SDGsは持続可能な発展の概念の曖昧さや取組みの混迷状況を打開し、具体的な取組み課題を明示した点で重要な意義を持つ。また、2000年代以降、環境と経済の統合的発展を強調される流れがあるなか(そのことは持続可能な発展の特定の側面にすぎない)、社会面あるいは「公正への配慮」という側面について、MDGsを取り込む形でSDGsに含めたことも意義深い。

 しかし、SDGsは完成品というものではない。持続可能な発展の規範や国内の地域課題からみると、ゴールやターゲットの設定が不足しており、「広汎性」、「普遍性」、「統合性」は充分に確保されていない。特に、①リスクへの備え、②環境と経済の能動的な両立、③国内地域における縮小時代ゆえの課題への対応、という点で、SDGsのゴールとターゲットの要素が不十分である。

注)この不十分さについては別途作成している論文に記載

 このことから、国際的な視野から国やグローバル企業が取り組みを進めたり、地方自治体や中小企業が開発途上国や国際的な共通課題に対する取組みを新たに検討する場合に、SDGsの一定の有効性があると考えられるが、国内の地方自治体や地域企業や民間団体が地域課題を中心とした取組みを進めるためにSDGsを活用する際には工夫が必要となる。後者においては、SDGsのターゲットをそのまま使うのではなく、SDGsの特長を活かしつつ、独自に自らの抱える課題に対応するゴールやターゲットを設定することが、SDGsの正しい使い方となるだろう。

 

3.SDGsの活用方法について

1)まず持続可能な発展を目指す方針と目標とする社会像を明確にする

 SDGsにおける自立分散協調型のガバナンスは、具体的には、ステークホルダーの抱える課題の状況、利害や実施可能性によってゴールやターゲットを選択し、PDCAを運用していくということである。これにより、SDGsは受容性を高めるが、もっと大きな目標設定や方針が曖昧であると、理念なきSDGsの安売り状態にもなりかねない。

 そもそも、持続可能な発展といっても、目指す社会の目標像は一つとは限らない。国立環境研究所「将来シナリオと持続可能社会の構築に関する研究」では、効率重視により高い経済成長を遂げ、その成果を福祉等に還元するという「豊かな噴水型社会」と人々の相互支援で多様性のある成長を図り、社会の構成主体での公平な分かち合いを図るという「虹色なシャワー型社会」という2つの代替社会を示している。いずれも持続可能な発展の4つの規範の充足を図ろうととするが、前者は「社会・経済の活力」のうち特に経済面の成長を重視して、それを駆動力とするものであり、後者は「公正への配慮」を重視し、それに能動的に取り組むことで社会経済のあり様を変えようとするものである。

 つまり、持続可能な社会のあり方は1つではないため、どのような社会を目指すのかという議論を各主体内、あるいは主体間で行い、その選択を明示したうえで、SDGsの活用を図る必要がある。このプロセスに欠けて、同床異夢な状況が放置されると、各主体は各々の既存の慣性の強化や部分的な改善を図るのみとなり、持続可能な社会への転換という大きな流れはつくれないのではないだろうか。

 大きな方針を設定したうえで、本研究で示した「社会・経済の活力」、「環境・資源への配慮」、「公正への配慮」、「リスクへの備え」といった持続可能な発展の規範を踏まえて、ゴールやターゲットを設定するのである。

2)転換に関する議論を活性化させ、根幹、連環を重視する

 筆者は、持続可能な発展においては、転換・根幹・連環という3つのキーワードが重要だと考えている。このキーワードをもとに、SDGsの活用のあり方を整理する。

 転換は、再帰的近代化の問題をもたらしてきた工業化と都市化の流れを脱し、経済成長至上主義、技術万能主義、中央主導の慣性システムから脱却していくことを視野にいれたものである。転換は、「豊かな噴水型社会」を中心とする現在のシステムを「虹色なシャワー型社会」の方向に変えることだとも考えられる。転換は何をどのように変え、どのような社会を目指すのかという点について、広く議論が必要となろう。こうした議論を活性化させる方向に、SDGsが活用されることが望ましい。

 根幹は、転換という最終目標を達成すべく、環境・経済・社会の諸課題を生み出す根本的要因あるいは構造を明らかにして、その解消を図ろうとすることを意味する。例えば、大量流通・大量消費・大量廃棄(大量リサイクル)という構造は、環境負荷が大きいとともに、少量で零細な農林水産業の衰退を招くこととなっている。あるいは、ロードサイドに広がった都市構造は交通の自動車分担率が高く、自動者を持たない者の生活を危うくする構造であり、根幹の問題として捉える必要がある。こうした根幹に踏み込んだ取組み(構造的根幹策)は、第5次環境基本における環境・経済・社会の問題の同時解決にもつながるものであり、SDGsの活用においても、扱っていくべきものである。

 連環は、環境・経済・社会の諸課題が相互に関連しあっているために相互の配慮を行うべきあること、環境面の取組みを経済成長につなげるなど環境・経済・社会の取組みを相乗的に進める統合的発展が推奨されることなどから、従来より重視されてきた。連環については、SDGsにおいても意識されており(Ⅰの3(1))、複数の規範が組み合わせたターゲットが多く作成されている(Ⅲの2)。しかし、環境と経済の能動的な両立を図ることに関連するターゲットがみられないなど、連環の一部のみがターゲットに記載されているに過ぎないことに留意する必要がある。SDGsを活用とする主体は、ゴールを設定したのち、複数のゴールに対応する形のターゲットを独自に設けることが考えられる。

3)住民や従業員が参加するガバナンスを重視する

 大きな社会目標の設定や転換に関する議論を行ったうえで、バックキャスティング的にSDGsの活用を図るためには、議論と学習のための時間を要する。しかし、企業や地方自治体等が、SDGsを活用しようとする場合、住民や従業員の参加を得て、持続可能な発展を取り巻く諸問題の学習、あるべき規範や目標、その達成手段の合議を行い、住民や従業員も参加するアクションを立ち上げていくことが望ましい。

 この意味では、国がつけたSDGs関連予算を使うために、担当者だけでSDGsの活用を検討したり、一部の専門部門だけでSDGsの検討を行い、複雑で議論に参加しなかった人々はおよそ理解できないような成果報告書をつくって終わりとするというような状況は避けなければならない。

 

3.地域主体におけるSDGsの活用の手順

 上記の考察を踏まえて、国内の地方自治体や地域企業や民間団体が地域課題を中心とした取組みを進めるためにSDGsを活用する手順を提案する。

①持続可能な発展を検討するための準備的学習

 持続可能な発展とSDGsに関する検討経緯、基本的考え方、地域で持続可能な発展を検討する必要性と意義、検討の方法と成果の活用について、関係者に説明する場を設ける。

②持続可能な発展に関する課題の抽出

 持続可能な発展の規範(本稿で示した4つの規範)を用いて、規範に対応する課題を整理する。この課題には、地域で生じている課題と地域が取り組むべき国際的な課題があるが、国際的な課題に整理において、SDGsのゴールやターゲットを活用する。関係者の中からワーキングチームを設置し、所属部署の意見を集めながら、検討する。

③持続可能な発展に関する大きな社会目標と実現方針、個別のゴールの設定

 ②の課題を解消した姿として、地域あるいは企業等が持続可能な発展を遂げていく目標と実現方針を設定する。この際、複数の代替案を設定し、慣性システムのどこを転換していくのかを明らかにする。選択した目標と実現方針をもとに、個別のゴールを設定する。このゴールは、SDGsのゴールを参考にしつつも、それに囚われずに、具体的な課題や理念に対応するものとして作成する。 ワーキングチームにおいて、たたき台を作成し、アリーナにおいて意志決定を行う。

④持続可能な発展のためのアクションの具体化

 ③で設定したゴールに対応して、ターゲットとそれに対応するアクション、進行管理指標等を具体化する。関連部署における既存の関連施策の整理を行うとともに、ゴール毎にワーキングチーム及びその他の関係者を集めた新規施策のアイディア出し、広く関係者からの意見徴収等を行い、アクションを具体化する。この際、大きな社会目標やゴールに対するバックキャスティングを重視し、アクションが既存施策の羅列とならないように留意する。また、新規施策が優先順位をつけながら、ロードマップを作成し、実効性を担保する。

⑤成果物の公表と広報

 最終的に作成した成果について、SDGsとの対応を整理し、必要に応じてSDGsの対応を明示しながら、公表と広報を行う。SDGsは国際的な共通言語としての働きがあり、SDGsに取り組む国や企業に訴求するうえで、SDGsとの関連を明示することが有効である。

 

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