地方自治体における環境政策は、里山等の身近な緑の保全・活用、廃棄物の処理・処分等が優先されがちであり、温暖化防止というトップダウン的テーマの優先順位は相対的に低い。
これは、温暖化問題の“見えにくさ”に起因する。“見えにくさ”とは、影響が広範囲で超長期にわたるため、地域や生活の視座を持てば持つほどに実感しにくいことを意味する。
地方自治体では、温暖化防止対策の必要性(責任範囲)や取るべき有効な施策も明確ではなく、国の政策への追随となりがちである。とりわけ、市町村、小規模な自治体でその傾向が強い。
一方、温暖化防止対策には、相反的なものと両立的なものがある。両立的とは、環境対策が経済面、社会面でも効果をあげることを示す。両得(WIN-WIN)といってもよい。家庭生活における省エネは、地球温暖化防止対策であるとともに、家計の得となる。地域における温暖化対策も、地域経済の振興や住民の暮らしの豊かさにつなげていくことが可能であろう。
また、環境対策には、規制対応(受動的)、未然防止(予防的)、機会追求的(能動的)といった3つのステージがある。「何をやっていいかわからない」ために受動的になりがちな温暖化対策であるが、それを契機として地域振興にもつなげるといった能動的な姿勢を持ってみるべきではないだろうか。
本稿では、自治体がとるべき温暖化防止戦略について、地域づくりにとっても得になる両立的、能動的な側面の捉え方を論じる。地域の、地域による、地域のためにもなる地球温暖化防止対策を進める後押しとなれば幸いである。
1.政府の期待
京都議定書目標達成計画(平成17年4月)では、自治体(地方公共団体)の基本的役割として次の3つ示している。
①地域の特性に応じた対策の実施
②率先した取組の実施
③地域住民等への情報提供と活動推進
①については、地域の自然的社会的条件に応じた先駆的で創意工夫を凝らした対策に取組むことが期待されている。②の率先した取組とは、地球温暖化防止対策第二十条計画といわれるもので行政の事務及び事業に関して実行計画の策定・実施が義務付けられている。
③は、地域住民の生活における温暖化防止行動を促すための施策を期待するものである。
平成17年10月時点のデータでは、②の実行計画を策定しているのは、全都道府県と725の市町村である。①と③の施策を定める地域推進計画は、44都道府県と49市区町で策定している。
実行計画はもとより、地域推進計画の策定団体が京都議定書の約束期間を2年後に迎える状況にあって少ない。これを策定していない地域であっても環境基本計画等で地球温暖化防止対策を示している場合もあるが、はなはだ心もとない内容である(ことが多い)。
そもそも地球温暖化防止対策は、「京都議定書による国際的な約束→国の方針・義務・努力行動の割付→地域における取組」と、トップダウンの構図となりがちである。しかし、やらなければならない対策であるならば、それを逆手にとって、地球温暖化防止対策を地域のメリットとするような能動的な姿勢を持てないだろうか。国内企業における自主的かつ能動的な環境対策は、多くの先行者利益を創出し、企業イメージを向上させ、国際競争力を高めてきた。これと同じ構図に、地域における地球温暖化防止対策の構図を変えていくことができないだろうか。
また、地域推進計画は、国の施策を地域に置き直したものが多い。また、施策も羅列になりがちである。システム思考により、リバレッジポイントを効果的に攻めるような戦略的な計画が必要である。
以下、地域における温暖化防止対策を戦略的なものとする、いくつかの視点を提起する。
2.地域の得になる地球温暖化防止対策
地球温暖化対策の優先順位づけとして、政府では費用対効果が指標とされた。対策には費用がかかり、費用対効果が安い対策を優先することに異論はない。しかし、地球温暖化防止対策は環境面のみに効果をもたらすわけではない。地域経済に効果がある対策であれば、それを優先的に捉えればよい。
例えば、環境省が進める事業に、「環境と経済の好循環のまちモデル事業(略称:まほろば事業)」というものがある。地球温暖化防止のためのハードを整備し、同時に地域への普及啓発等のソフト事業を進め、地域経済等の活性化にもつなげようというものである。この事業の効果測定のガイドラインでは、環境面のみならず、経済面、社会面も含めて、直接・間接の効果測定を求めている。
まほろば事業の例として、地域通貨がある。自然エネルギー設備の売電収入を原資にして地域通貨を発効し、それにより地域のグリーンコンシューマ活動を活発化させるという仕掛けが考えられている。
まほろば事業を特別なものとする必要はない。地域における温暖化対策を、地域の環境の得、社会の得、経済の得になる対策なるように工夫していけばよい。
3.LOHAS的地球温暖化防止対策
自治体は、住民の近くにいる行政として、住民生活に起因する二酸化炭素排出量の削減が期待される。家庭部門の二酸化炭素排出は、産業部門や運輸部門に比べて遅れているから、なおのこと自治体への期待が大きい。
しかし、この役割における施策に戦略が乏しい。地球温暖化防止に係る普及啓発のシンポジウム等の集まりがいつも熱心な金太郎飴の集まりになりがちである。熱心層の中には周辺に広げる普及指導者の役割を果たす人もいるが、そうでない人も多い。熱心であるがために、チャネルがあわず、非熱心層との距離が広がりがちとなる。
地球温暖化防止のための対策は、「一人の百歩よりも百人の一歩」を優先すべきである。百人が少しでも省エネ行動を起こす方が効果が大きいからである。だとすると、普及啓発の対象とすべき対象は、非熱心層であるが、その目的に対して合理的な施策が果たして取られているのだろうか。
例えば、マーケティングのキーワードとして、最近よく耳にするのがLOHAS(Lifestyle of Health and Sustainability)である。環境と健康の両方を重視する層で消費意欲は活発(おいしいお客さん)という意味で使われる。また、おしゃれ(かっこいい、かわいい、ちょい悪い)な環境配慮という意味で、広義に使われることも多い。
このLOHASをキーワードとした普及啓発を行えば、関心喚起の間口が広がり、非熱心層を巻き込むことが可能である。
第三次環境基本計画においては、重点分野の一つである「環境情報等の基盤の整備」の項で、“環境情報戦略”の必要性を記している。地域における地球温暖化防止のための普及啓発や情報提供等においても戦略が必要である。
4.超長期的な視点
第三次環境基本計画の重点分野「環境情報等の基盤の整備」では、環境政策に係る超長期ビジョンの策定の必要性を示している。超長期ビジョンは、これまでの計画が長期を見通した施策を打ち出すといっても、既存の施策を延長させるものが多いという反省にたっている。このため、超長期ビジョンでは、これまでとは異なる計画手法が求められる。例えば、今後起こりうるあらゆる可能性を検討し(シナリオ・ライティング)、それに対するあるべき姿を描き、それを実現する施策をバックキャスティング(フォーキャッスティングではなく)を行うこととなる。
地球温暖化防止対策の場合、まさしくこの超長期ビジョンが求められる。京都議定書で6%咲削減することを約束した期間は、通過点に過ぎない。そして、脱温暖化社会は、化石燃料に依存する産業、生活のあり方を根本から変えたものになる。脱温暖化社会とはどのような姿か、近代文明を放棄し、我慢する生活に回帰するだけではない、魅力的な脱温暖化社会は描けるのだろうか。それをどのように実現していくのか、そのために今なすべきことは何か。
国が超長期ビジョンを検討している中、それを待たずとも、地域においても超長期ビジョンを検討したらどうだろうか。超長期ビジョンの答えは一つでなく、地域の特性に応じて、地域の意思で選択していくことが期待される。
おわりに
地球温暖化問題の責任はあらゆる主体に帰属する。どうせ、その責任の果たさなければならないのならば、超長期のビジョンを描いたうえで、有効かつ両立性のある施策を選択的に実施していけばよい。それが、施策を無理なく、継続的に、より多くの住民や事業者を巻き込むながら進める秘訣となろう。
(白井信雄:2006年7月)
これは、温暖化問題の“見えにくさ”に起因する。“見えにくさ”とは、影響が広範囲で超長期にわたるため、地域や生活の視座を持てば持つほどに実感しにくいことを意味する。
地方自治体では、温暖化防止対策の必要性(責任範囲)や取るべき有効な施策も明確ではなく、国の政策への追随となりがちである。とりわけ、市町村、小規模な自治体でその傾向が強い。
一方、温暖化防止対策には、相反的なものと両立的なものがある。両立的とは、環境対策が経済面、社会面でも効果をあげることを示す。両得(WIN-WIN)といってもよい。家庭生活における省エネは、地球温暖化防止対策であるとともに、家計の得となる。地域における温暖化対策も、地域経済の振興や住民の暮らしの豊かさにつなげていくことが可能であろう。
また、環境対策には、規制対応(受動的)、未然防止(予防的)、機会追求的(能動的)といった3つのステージがある。「何をやっていいかわからない」ために受動的になりがちな温暖化対策であるが、それを契機として地域振興にもつなげるといった能動的な姿勢を持ってみるべきではないだろうか。
本稿では、自治体がとるべき温暖化防止戦略について、地域づくりにとっても得になる両立的、能動的な側面の捉え方を論じる。地域の、地域による、地域のためにもなる地球温暖化防止対策を進める後押しとなれば幸いである。
1.政府の期待
京都議定書目標達成計画(平成17年4月)では、自治体(地方公共団体)の基本的役割として次の3つ示している。
①地域の特性に応じた対策の実施
②率先した取組の実施
③地域住民等への情報提供と活動推進
①については、地域の自然的社会的条件に応じた先駆的で創意工夫を凝らした対策に取組むことが期待されている。②の率先した取組とは、地球温暖化防止対策第二十条計画といわれるもので行政の事務及び事業に関して実行計画の策定・実施が義務付けられている。
③は、地域住民の生活における温暖化防止行動を促すための施策を期待するものである。
平成17年10月時点のデータでは、②の実行計画を策定しているのは、全都道府県と725の市町村である。①と③の施策を定める地域推進計画は、44都道府県と49市区町で策定している。
実行計画はもとより、地域推進計画の策定団体が京都議定書の約束期間を2年後に迎える状況にあって少ない。これを策定していない地域であっても環境基本計画等で地球温暖化防止対策を示している場合もあるが、はなはだ心もとない内容である(ことが多い)。
そもそも地球温暖化防止対策は、「京都議定書による国際的な約束→国の方針・義務・努力行動の割付→地域における取組」と、トップダウンの構図となりがちである。しかし、やらなければならない対策であるならば、それを逆手にとって、地球温暖化防止対策を地域のメリットとするような能動的な姿勢を持てないだろうか。国内企業における自主的かつ能動的な環境対策は、多くの先行者利益を創出し、企業イメージを向上させ、国際競争力を高めてきた。これと同じ構図に、地域における地球温暖化防止対策の構図を変えていくことができないだろうか。
また、地域推進計画は、国の施策を地域に置き直したものが多い。また、施策も羅列になりがちである。システム思考により、リバレッジポイントを効果的に攻めるような戦略的な計画が必要である。
以下、地域における温暖化防止対策を戦略的なものとする、いくつかの視点を提起する。
2.地域の得になる地球温暖化防止対策
地球温暖化対策の優先順位づけとして、政府では費用対効果が指標とされた。対策には費用がかかり、費用対効果が安い対策を優先することに異論はない。しかし、地球温暖化防止対策は環境面のみに効果をもたらすわけではない。地域経済に効果がある対策であれば、それを優先的に捉えればよい。
例えば、環境省が進める事業に、「環境と経済の好循環のまちモデル事業(略称:まほろば事業)」というものがある。地球温暖化防止のためのハードを整備し、同時に地域への普及啓発等のソフト事業を進め、地域経済等の活性化にもつなげようというものである。この事業の効果測定のガイドラインでは、環境面のみならず、経済面、社会面も含めて、直接・間接の効果測定を求めている。
まほろば事業の例として、地域通貨がある。自然エネルギー設備の売電収入を原資にして地域通貨を発効し、それにより地域のグリーンコンシューマ活動を活発化させるという仕掛けが考えられている。
まほろば事業を特別なものとする必要はない。地域における温暖化対策を、地域の環境の得、社会の得、経済の得になる対策なるように工夫していけばよい。
3.LOHAS的地球温暖化防止対策
自治体は、住民の近くにいる行政として、住民生活に起因する二酸化炭素排出量の削減が期待される。家庭部門の二酸化炭素排出は、産業部門や運輸部門に比べて遅れているから、なおのこと自治体への期待が大きい。
しかし、この役割における施策に戦略が乏しい。地球温暖化防止に係る普及啓発のシンポジウム等の集まりがいつも熱心な金太郎飴の集まりになりがちである。熱心層の中には周辺に広げる普及指導者の役割を果たす人もいるが、そうでない人も多い。熱心であるがために、チャネルがあわず、非熱心層との距離が広がりがちとなる。
地球温暖化防止のための対策は、「一人の百歩よりも百人の一歩」を優先すべきである。百人が少しでも省エネ行動を起こす方が効果が大きいからである。だとすると、普及啓発の対象とすべき対象は、非熱心層であるが、その目的に対して合理的な施策が果たして取られているのだろうか。
例えば、マーケティングのキーワードとして、最近よく耳にするのがLOHAS(Lifestyle of Health and Sustainability)である。環境と健康の両方を重視する層で消費意欲は活発(おいしいお客さん)という意味で使われる。また、おしゃれ(かっこいい、かわいい、ちょい悪い)な環境配慮という意味で、広義に使われることも多い。
このLOHASをキーワードとした普及啓発を行えば、関心喚起の間口が広がり、非熱心層を巻き込むことが可能である。
第三次環境基本計画においては、重点分野の一つである「環境情報等の基盤の整備」の項で、“環境情報戦略”の必要性を記している。地域における地球温暖化防止のための普及啓発や情報提供等においても戦略が必要である。
4.超長期的な視点
第三次環境基本計画の重点分野「環境情報等の基盤の整備」では、環境政策に係る超長期ビジョンの策定の必要性を示している。超長期ビジョンは、これまでの計画が長期を見通した施策を打ち出すといっても、既存の施策を延長させるものが多いという反省にたっている。このため、超長期ビジョンでは、これまでとは異なる計画手法が求められる。例えば、今後起こりうるあらゆる可能性を検討し(シナリオ・ライティング)、それに対するあるべき姿を描き、それを実現する施策をバックキャスティング(フォーキャッスティングではなく)を行うこととなる。
地球温暖化防止対策の場合、まさしくこの超長期ビジョンが求められる。京都議定書で6%咲削減することを約束した期間は、通過点に過ぎない。そして、脱温暖化社会は、化石燃料に依存する産業、生活のあり方を根本から変えたものになる。脱温暖化社会とはどのような姿か、近代文明を放棄し、我慢する生活に回帰するだけではない、魅力的な脱温暖化社会は描けるのだろうか。それをどのように実現していくのか、そのために今なすべきことは何か。
国が超長期ビジョンを検討している中、それを待たずとも、地域においても超長期ビジョンを検討したらどうだろうか。超長期ビジョンの答えは一つでなく、地域の特性に応じて、地域の意思で選択していくことが期待される。
おわりに
地球温暖化問題の責任はあらゆる主体に帰属する。どうせ、その責任の果たさなければならないのならば、超長期のビジョンを描いたうえで、有効かつ両立性のある施策を選択的に実施していけばよい。それが、施策を無理なく、継続的に、より多くの住民や事業者を巻き込むながら進める秘訣となろう。
(白井信雄:2006年7月)